第四章之十五 旅の連れ+1
アザミ ……主人公兄妹の保護者。早速鹿頭に使われることに。
ナライ ……真・主人公。兄。最近見せ場がない。
カヤ ……主人公。妹。意図せず母親似になっていく。悩みがち。
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。朝廷に従属する証として京へ向かいたい。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。
「――て訳で、京まで同行することになった津留崎のトウカさんだ。色々想うところもあるかも知れんが……ま、とりあえず仲良くしてやってくれ」
トウカと共に宿に戻ったアザミは、思いがけず旅の連れが増えたことを二人に報告した。
そしてそんなアザミに続いて口を開いたのはトウカだ。
「津留崎のヒカズラが一女、トウカにございます。短いお付き合いになるとは思いますが、御昵懇のほど、よろしくお願い申し上げます」
少しの淀みもなく明朗なあいさつを披露するトウカ。
その様子を横目で見守っていたアザミは思う。
(やはりコイツ、本当に津留崎のお嬢だったか……)
騙り者じゃない。頭を下げる所作一つとっても品が感じられるのだ。
津留崎の里――賀来礼とは昔から諍いが絶えないなどと聞けば、まるで互角の力を持った里だと思われがちだが、実際には津留崎の方が格上。
自分にはない洗練された作法を披露するトウカに、アザミは嫌が応でもそのことを実感せずにはいられない。
「二人とも、何か聞いておきたいことは? ないんなら俺はまたちょっと出てくるが」
アザミは大人しく話を聞いていた兄妹に言った。
まだ京に渡る船の手配が済んでいなかったのだ。トウカの件さえなければ、とっくに終わっていた仕事のはずなのだが……
「なーんだ。つまんねえの」
アザミの確認に、まず口を開いたのはナライだった。そして残念そうに続ける。
「オレ、トウカさんはアザミのこれだとばっかり――ってぇっ!?」
言葉を中断させられたナライ。小指を立てようとしたナライの頭を、カヤがどついていたのだ。
「何すんだよ!?」
「何じゃないでしょ! 本人の前でなんてこと言うの!? ちょっとは考えなさいよバカっ!」
よっぽど頭に来たのだろう。いつになく激しくナライを詰るカヤだ。
「なんだよ! お前だって信じてたじゃんか!」
「信じてないわよ! そんな下世話な想像、信じるわけないでしょ!」
もう一度ポカリとやるカヤ。
妹にこれほどまでに強く実力行使された経験がなかったナライは、もう黙るしかなく。
「ってえ……だからって、こんな思い切り殴らなくたっていいじゃん」
「ふん。自業自得でしょ。これに懲りたら次からはもう少し気を遣いなさいよ!」
降参したナライが頭を擦りながら不満を漏らすと、カヤがフンスと鼻息を荒くしていた。
すると、その様子を見ていたトウカが、
「あらあらお可哀そうに」
と、ナライに近づいたのだ。
「大丈夫ですかナライ様?」
「あ、うん。オレ、人よりも頑丈にできてるから全然平気だけど、あんな怒んなくたっていいのにさ……てて」
と、元々人見知りしないナライ。「あらあら、こんなに大きなこぶが」と労わるトウカにされるがままになっている。すると――
「ですわね。わたくしとアザミ様が良い仲なのは本当のことですのに、それを言い当てられたからと言って、あんなにお怒りにならなくても」
「だよね? ……え?」
トウカの言葉に、ナライが自身の耳を疑っていた。
「なにか?」
ナライの態度に、何がそんなに不思議なのかと首をかしげるトウカ。
「アザミとトウカさんが良い仲って……それ……ホント?」
「はい。わたくしとアザミ様は将来を約束した仲でございますので」
ナライの問いをトウカがハッキリと肯定していた。
『何ぃぃぃっ!?』
突然飛び出したトウカの発言に、一同は大変に驚いていた。
「おまっ!? 急に何を!?」
と、誰よりも驚いたのがアザミ。
「なんだよ! やっぱりアザミとトウカさんてそう言う仲なんじゃん!」
「うそ……でしょ……?」
と、それぞれに対照的な反応を見せたのがナライとカヤ。
そして、
「あらあらどうしましょう? お二人ともご存じなかったのですね」
驚きふためく一同にあってただ一人トウカだけが、ふふ……と笑っている。
「おい、ちょっと来い!」
兄妹に先がけて冷静さを取り戻したアザミは怒り心頭だった。一人笑っているトウカの手を取ると、そのまま席を外したのだ。
「貴様一体どういうつもりだ!?」
二人きりになったアザミはトウカを問い詰めた。
「あら? どう、とはどのような意味でございましょう?」
「とぼけるな! なぜなぜあんなウソ並べ立てたんだと聞いている!」
「あら。あんなもの、知らない者同士が距離を縮めるための軽い冗句じゃありませんか」
かなりきつめの詰問にもかかわらずコロコロと笑うトウカ。
「ふざけるな! あれのどこが冗句だ!」
「いいえ。冗句ですわよ」
トウカは笑みを絶やさないまま答えた。それから彼女はスゥと目を細めると、席で待っているカヤのことを流し見たのだ。
「あのカヤ様、お見受けしたところ、少々ご自身の想いに振り回されているようなきらいがございますわね。あの程度の冗句も冗句として流せないようでは、京には行かない方がよろしいのでは?」
「っ!」
トウカの指摘に一瞬迷いが出たアザミ。
確かに最近のカヤを見ていると、彼女、どうにも感情の抑えが利かないことが増えているような気がしていたアザミだ。
そんな状態で京に行っても、そこで待ち受けているのは海千山千の京人だ。あまり正直に自分の感情を出してしまうと、そこに付け込んでくるのが彼らの習性と言うもの。
カヤに恥をかかせたくなければ連れて行かない方がいいと言うのはその通りなのかも知れないが……
「……だとしてもだ! ……っ!!」
アザミは反論を試みた。しかしこれと言った反論が何も出てこない。
アザミも京には一度行ったことがあるだけで、有効な対策を知っているわけじゃないのだ。カヤを守ろうにも守り方が分からなければどうしようもないわけで。
するとトウカ、
「あらあら何も出てこないんですの? わたくし、そんな方に京までの案内を依頼してしまって大丈夫なのかしら?」
「っ!」
アザミは今度こそ言葉に詰まっていた。
トウカはカヤの京行きどころか、水先人としてのアザミの資質すらも疑っている。
それなのにアザミは何も言い返せない。彼女の言っていることはすべて正しからだ。
「すまん……俺もなるべく努力するが至らないところは出てくると思う。その時はアンタにも力を貸して欲しい」
「はあ……なぜアイナ様はこのような頼りない方をお付けになったのかしら?」
頭を下げるしかないアザミに、トウカは不安を募らせたようだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。何かと振り回されやすい性格?
ナライ ……真・主人公。兄。妹の暴力にも寛容。
カヤ ……主人公。妹。兄に対してのみ実力を行使する。
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。朝廷に従属する証として京へ向かいたい。結構な食わせ者。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。




