第四章之十四 人質のお嬢
アザミ ……主人公兄妹の保護者。交渉が下手なくせに人に頼れない。
ナライ ……真・主人公。兄。齢相応に助平。
カヤ ……主人公。妹。なんか正妻ぶってる節がある。
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。ポーっとしてる割には胆が据わってる。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
「あらあら。わざわざお人払いなんてなさらなくても、わたくし一向に構いませんでしたのに」
ナライとカヤが去ったあと、残念そうに口を開いたのはトウカだった。
それに対して、イヤイヤと首を振ってアザミは言う。
「アンタが構わなくても俺が構うんだよ」
「あら。そうなんですの?」
トウカは、意外そうに尋ねた。
そして彼女、ちょっと考えたかと思うと、
「……あの子たちのこと、あまり信用していらっしゃらない。と言うことなのかしら?」
可哀そうに。と、兄妹を哀れみだしたトウカだ。
これにはさすがのアザミも少しばかりカチンとこないわけがない。
「あのな。アンタに俺たちの何が分かるんだ?」
角が立たないように自分を抑えながら言ったつもりのアザミ。
いくら津留崎のお嬢だからと言っても口が過ぎる。と言うか、津留崎のお嬢だからこそ、対抗勢力に属する自分には特に気を遣うべきじゃないのか。
「あら。ごめんなさい。わたくし、決してそんなつもりじゃ……」
アザミのイラつきを感じ取ったトウカが謝っていた。
いや。彼女、本当に謝っているのか?
今の彼女は口に手を当てて、ただただ驚いていますと言ったふうで、とても謝っている態度じゃない。
それこそ、「アザミが勝手に誤解して、勝手に怒り出してしまった。困ったわ」とでも言いたそうな感じでとても自分が悪いとは思っていなさそうなのだ。
「……まあいい。それよりも、だ。話を聞くにしても、まずはアンタの口から今回の事情を説明してもらいたいと、俺は思っているんだが?」
アザミは頭をガシガシとかきながら言った。
彼女のこの煽り散らかしてくるみたいなこの態度はおそらく素だ。だからそこに噛みついたところで彼女が反省するとも思えない。
それどころか変にツッコんで、万一彼女にヘソを曲げられたりでもしたら面倒事が増えるだけ。
「あら。お手紙に何か不足でも?」
アザミの配慮を知らる由もないトウカがそんな疑問を口にした。
――彼女から受け取った手紙は分かりやすかった。
用件が簡潔に遺漏なく記されて、わざわざ彼女の口から説明をされる必要などない。それぐらいの物だったのだ。
しかしアザミは、その手紙をひらひらと見せつけながら言う。
「いいや。不足はない。――でもな。この手紙の主は俺にとって面白くない奴なんだよ。それこそ簡単には信用したくない程度には、な。それに書いてあるのは用件だけで、その理由まではさっぱりだ。そんな胡散臭い奴からの胡散臭い依頼、普通の人間なら受けたいと思うか?」
アザミはトウカを試すように尋ねた。
もしこれがヤクトからの手紙だったとしたら、自分は散々文句を垂れながらも結局最後には従っただろう。
しかし今回は違う。
今回の手紙の送り主は、つい先日知り合ったばかりの、アザミにとって不倶戴天の敵だったのだ。
不本意ながらも相手に弱みを握られてしまい、臥薪嘗胆の念をもって呉越同舟たらんことを断腸の思いで受け入れた、あの相手。
「そう、ですか……ううん……」
説明を求めるアザミに、トウカが渋っていた。
「どうしても言いたくないならそれでもいい。ま、その場合、当然交渉は決裂になるが」
悩むトウカを突き放しにかかるアザミ。
これで相手が諦めてくれるのならその方がいい。なにしろこの依頼、あの鹿頭からのものなのだ。
どうして津留崎の人間が鹿頭なんて賊徒と繋がっているのか知らないが、どうせろくでもないことが絡んでいるに決まっている。
だからこそ表向きの同盟関係でしかないアザミには、依頼の裏まで説明できなかったのだ。
「……分かりました。それでお受けいただけるのでしたら、わたくし、お話しいたしますわ」
しかしトウカはアザミの言い分を受け入れていた。
「ですが、これをお話しすればアザミ様も無関係とはまいりません。それでもお聞きになるだけの覚悟、アザミ様にはおありですか?」
「おっ? あ、ああ」
覚悟を求めるトウカに気圧されたアザミ。
彼女の印象が違う。さっきまでの彼女はどこかぽけーっとして、人の都合なんてまるで考えないお嬢らしいお嬢だと思っていたが、とんでもない。
今のトウカは、大の男たちの中に交じっていてもそん色ないくらいに大きな存在に見えていた。
そして、諸々の説明を受けたアザミは――
「津留崎ヒカズラめ……正気なのか?」
「ええ。勿論正気ですわ」
父を侮辱するアザミの呟きを、トウカは毅然とした態度で否定した。
「父ははっきりと申されましたわ。これからは朝廷の時代だと。近年、朝廷の力は日を追う毎に増す一方で、下手に逆らうよりも、逸早くその傘下に収まった方が一族の繁栄につながるはずだ。と」
「で、その従属の証がアンタてわけか……」
人質に出されたと言う本人を前に、苦々しい表情のアザミだ。
アザミは……と言うよりも秋津島の最北端に位置するここ、陸国の人間は、昔から中央集権主義の朝廷が大嫌いだったのだ。
そして陸国は京からもっとも遠いが故に、朝廷の統治も未だ十分ではない。
だからこそ、アザミの賀来礼は勿論、トウカの津留崎でさえも、独自の自治権をもって今日までやってこれたのだが……
「てことは、あの鹿頭は朝廷の手の者だったてことなのか?」
陸国の未来を懸念したアザミだったが、それは一旦忘れて尋ねた。
しかしトウカは、
「しか、あたま? ……とは、どなたでしょう?」
「は? ……ああいや。そうか……あー、なんて言えばいいんだ?」
困ったアザミ。
おそらくトウカはあの被り物を被った状態の鹿頭を見たことがないのだ。そして自分はそんな奴の名前を知らない。
これでは互いの認識を合わせられるはずもなく。
「たぶんアンタに手紙を託して、ここまで送ってきた奴だと思うんだが……」
「あら。それでしたらアイナ様のことでしょうか?」
苦し紛れの説明に、トウカはポンと手を合わせる。どうやら認識してくれたらしい。
しかしそんなトウカに、逆に首をかしげたアザミ。
アイナ? あの鹿頭が? 同盟締結の際に素顔を見て女だと知ってはいたが、本当にそんな名前なのか?
「なんからしくないな。本当にそれ、鹿頭なのか?」
「さあ? そう申されましてもわたくし、そのしかあまた様と言う方を存じ上げませんので」
結局、鹿頭=アイナと言う共通の認識を得るまで、もう少しだけすり合わせが必要な二人だった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。交渉が下手なくせに人に頼れない。
ナライ ……真・主人公。兄。また出てこない。主人公とは?
カヤ ……主人公。妹。また出てこない。主人公とは?
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。朝廷に従属する証として京へ向かいたい。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。




