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北天のアリス  作者: 埼山一
第四章 深沢~京へ
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第四章之十二 待ち人

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。さあ昼飯だ。

ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。やった昼飯だ。

カヤ  ……主人公。妹。久々の出番。イサルアレルギーなのでイサルがいなくなって安心したらお腹減ってきた。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。

イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。有能な働き者。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。

安賀多(あがた) ……氷見沢最寄りの港町。西にある。

小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

賀来礼(かくれ) ……アザミの家がある所。


「こんにちは」


 アザミたち一行がそんな声に振り向いたのは、食探しのために市をぶらつき始めた直後のことだった。

 見れば、そこに佇んでいたのは一人の女の人で……


「……?」


 三人は見覚えのないその女に、それぞれに同じように不審な顔をして、お互いの顔を見合っていた。


 ――この女性。

 女性とは言ってもまだ年若いようで、齢はおそらくはナライよりも三、四個上と言った程度だ。

 それなのに妙に気品のある(たたず)まいと顔立ち。着ている物も相応に上等な物のようで、こんな田舎にいるのが不思議でしょうがないぐらいのものだった。


「あれ……誰かな?」

「さあ? アザミの知り合いだろ?」


 と、相手が自分たちの交友関係の外の人物だと確認し合ったカヤとナライだ。

 二人はアザミの影に隠れるようにしてひそひそ話しをし出していた。


「でも先生も知らないみたいだけど?」


 カヤはちょっと困惑している様子のアザミを見て、そう言った。

 しかしナライはまた違う意見のようで。


「分かるもんか。アザミだって男なんだし、オレたちが知らないだけでお相手の一人や二人あちこちに囲ってたって、別にさあ……」


「ちょっと! それってどういう――!?」


 変なこと言わないで! と、いかがわしげな邪推を披露する兄に、つい声を荒げて噛みついたカヤだ。

 カヤにしてみれば、ナライの言うことがその通りならば、それは有るまじきことで、到底容認できるわけがない。


「でも見てみろよ。ほら――」


 と、意外と落ち着いた様子でカヤの気を逸らしたナライ。

 しかし肝心のアザミ、不安げなカヤを余所(よそ)に一人相手に向き直ると、


「あ、どうも。こんにちは」


 と、どっちとも言えないようなあいさつを返すではないか。


「な? やっぱりあの人、アザミの知り合いなんだよ」

「あんなのあいさつされたからただ返しただけでしょ! まだ分かんないわよ」

「分かるよ! だったらなんで向こうから声かけてきたんだよ?」

「そ、そんなの……道を聞きたかったとか、そんなことじゃ……」

「そんなわけねえじゃん。そういう時は『もし』とか、『すみません』から入るもんだろ!」

「別に『こんにちは』から入ったっていいじゃない! 決めつけないでよ!」


 声だけが段々と大きくなっていく二人だ。なぜ言い争ってるのか? よくよく考えるとそんな理由もないのに、とにかくケンカが止む様子はなかった。

 すると、襟首(えりくび)掴まれているナライ。このまま遣り合うのも面倒だと感じたのか、


「だったらもうアザミに聞けばいいじゃん! そうしよう!」

「え!? それはそうだけど……」


 ナライの提案に、カヤは急に尻込みだしていた。

 確かにアザミ本人に聞いてしまえば、アザミとあの女性の関係も一発で分かるだろう。けれど、もしあの人がナライの言う通りの人だったとしたら……


「も、もうちょっと様子を見てからでも――」

「ねえアザミ。あの人誰?」


 カヤが悩んでいる間に、何の懸念もないナライはさっさと尋ねてしまっていた。


「ちょっとお!」


 悲鳴にも似た抗議の声を上げたカヤ。

 心の準備ができていないのだ。確かにアザミは自分よりも齢上で、いい大人なのだから、そう言う人の一人や二人いてもおかしくはないのだけれど、しかしアザミは……


「さあ。俺も知らん」


 アザミは、ちょっとばつが悪そうに答えた。


「本当?」

「ああ。記憶にない。たぶん一度も会ったことはない人なんだと思うんだが」

「でも向こうはこっちのこと知ってるみたいじゃん?」

「むう。やっぱりお前にもそう見えるか……」


 アザミは心当たりのない女性をどう扱えばいいのか、決めかねているようだった。




「あ~……俺に何か用でも?」


 意を決したアザミは、申し訳なさそうに尋ねていた。


「……」


 こくり。と、黙って頷く女性。これまでの彼女は至って物静かで、自分から話をするのをためらっているようにも見えるのだが、しかしその間もアザミの陰では……


「アザミ、やっぱりウソついてるんじゃ?」


 再びアザミの後ろに隠れたナライが、カヤにそう言っていた。


「なんで先生が嘘つかなきゃならないのよ?」


 と、一度は安堵していたカヤだ。


「だってなんか怪しいじゃん。ほら。あの人、ずっと待ち焦がれてましたみたいな目ぇしてアザミのこと見てるしさあ」

「そんなわけないでしょ! あれはあの人の()の目よ。いい加減なこと言わないで」

「何がいい加減なんだよ! あんなんどう見てもアザミといい関係の人だろ!」

「そう言うのをいい加減て言うのよ! 何の証拠もないのに適当なことばっかり言わないで!」


 またしても白熱してゆく二人の言い争い。しかしいつもなら仲裁に入るはずのアザミは、今その女性の相手をしなければいけないわけで……




「あー……その、要件を伺っても?」


 こういう状況に慣れていないアザミは、妙に神経をすり減らしながらそんなことを尋ねていた。


「?」


 しかしキョトンとして首をかしげるばかりの女性だ。

 なぜアザミはそんなことを聞いてくるのか? そう言いたげな様子なのだが……


「ほら。やっぱり知り合いなんだよ。なのにアザミがしらばくれたりするから向こうもあんなふうになっちゃって……」

「し、知り合いなのはそうかも知れないけど、ただの知り合いってことでしょ!」

「じゃあなんでアザミはオレたちにそのこと隠したのさ?」

「そ、それは……」


 珍しく劣勢に追い込まれたカヤは口籠(くちごも)るしかなくなっていた。

 アザミを信じたい気持ちがある一方で、相手の反応を見るとやっぱり……と、揺らぐ信頼の中で、どうにか逆転の一手を見出したいところなのだが、すると――


「……あら」


 と、困り果てていたアザミを前に、女性が何かに気付いたような声を上げていた。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。女性相手にすると対応に困る程度のコミュ力。

ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。アザミの交友関係に理解がある。

カヤ  ……主人公。妹。久々の出番。兄の邪推を許さない。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。

イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。有能な働き者。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。

女性  ……誰?

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。

安賀多(あがた) ……氷見沢最寄りの港町。西にある。

小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

賀来礼(かくれ) ……アザミの家がある所。


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