第四章之十一 到着、安賀多の港
アザミ ……主人公兄妹の保護者。イサルのことをちょっとだけ認めている。
ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。イサルは自分より齢上だけど馬鹿だと思ってた。対抗心芽生える。
カヤ ……主人公。妹。久々の出番。イサルアレルギー。辛辣。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。有能な働き者。ただし、あまり空気は読めない。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
安賀多――氷見沢から西へ行くこと二日強で到着する港町。この町は、元はただの漁村に過ぎなかったが、近年京との交流機会が増えたことで急速に発展。今では京と、北のこの地の物流の要として機能するようになっているのだ。
「それじゃあ、おれはこの辺で」
イサルがふいにそんなことを言い出したのは、安賀多に到着した一行が当座の宿を確保してからのことだった。
「ん? なんだお前、安賀多に用事があるんじゃなかったのか?」
とは、てっきり同じ宿を取るものだと思っていたアザミ。
アザミにとってイサルの発言は、宿泊の手続きもせずに宿から出て来てしまった彼に不審を憶えていた矢先のことだった。
「いえ。おれはただナライとカヤにちゃんと旅ができるのか心配でついて来ただけですから」
「お前なあ……」
イサルの馬鹿正直な返事に、呆れるしかないアザミだ。
イサルが安賀多まで同行すると知った時、もしかしてと思い、すぐにその予感を否定したアザミだ。
しかし、まさか本当にただついて来たかっただったとは……
「隊の仕事そっちのけで、人のケツ追っかけ回すなんざ、どうかしてるんじゃないか? ……お前、本当にヤクトの手下なんだよな?」
アザミは、この二日で満たされたのか、妙に満足そうなイサルに疑惑の眼差しを向けた。するとイサル――
「何言ってるんですか!? おれは正真正銘タイショーの配下ですよ。大体、このことだって、ちゃあんとタイショーにも言ってありますし」
これも仕事の内だと胸を張って答えるイサル。
「タイショーだって本当は二人が心配なんですよ。いくらアザミさんが付いてるって言ったって、ナライもカヤもまだ成人前の子どもじゃないですか。だからそんな二人の旅の様子を第三者であるおれの目を通して確認しておきたい……そう思ってもなんの不思議もないとおれは思います」
「そりゃまあ、お前の言うことももっともだとは思うが……」
イサルの言い分に、アザミは自分を盾にして反対側にいるカヤのことをチラリと見た。
ナライはともかくカヤにとって、安賀多までの道中で最大の危険はイサルが一向に加わっていることだった。
カヤはここまでの道すがら、常に気を張り詰めていたせいか、たった二日の行程だったにもかかわらず、ちょっと疲労の色が出ているように、アザミには見えていた。
「ヤクトも余計なことしたもんだよなあ……」
そう呟かずにはいられなかったアザミ。
ヤクトが二人の関係性をどこまで知っているのか知らないが、親心が裏目に出てしまったせいでかえってカヤが消耗してしまった。
そのことが不憫に思えならないのだ。
「でも驚きましたよ。ナライはともかく、カヤまで馬に乗れるなんて」
そんなカヤの気苦労に気付いていないのか、イサルはそんなことを感心しだしていた。
「馬を扱うようになった時期はほぼ同じなのに、おれは駆歩で、二人はもう襲歩だってできるんしょう? ……アザミさん。おれもどうせ習うんなら貴方に師事したかったぐらいですよ」
「なんだ急に、気持ち悪い」
イサルに急に褒めそやされたアザミは、つい突っぱねていた。しかしそんな態度の割に、実際には満更でもないのが今のアザミの心境で……
――なにしろ、イサルの馬術は賊徒討伐に志願してから学んだもの。つまり隊の教練の中でヤクトに仕込まれたものなのだ。
そのイサルが「自分よりも上手い」と、二人の馬術を褒めたのだから、これはもう自分の師匠としての器量はヤクトをも上回っていると評されたも同然。
知らず知らずのうちにあの鼻持ちならない経歴を誇る旧友を一敗地に塗れさせていたのだから、嬉しくないわけがなかった。
「お前にそんなこと言われたって、ちっとも嬉しくはならん。逆に気味が悪くなるから、そんなこという奴はとっとと行くとこ行っちまえよ」
しかしアザミは憎まれ口を叩いていた。若造にちょっと褒められたぐらいで喜んでいるようでは、自分の大人としての矜持が保てなくなってしまう。
「ハハ……それじゃそうします」
緩みそうな頬をどうにか突っ張らせるアザミに気を遣ったのか、イサルは素直に従った。
しかし挨拶なんかはちゃんとしておきたい性分のイサル。まず彼はナライの方を向くと、
「ナライ」
「うん?」
「京は秋津島一の立派な街で治安もいい所だって聞くけど、実際には危険な場所もだってあるんだろうとおれは思うんだ。だからさ。もしカヤの身に危ないことが迫るようなことがあったら、ナライはお兄ちゃんとして、ちゃんと妹を守ってやるんだぞ」
「あ……うん。そんなの言われるまでもないんだけど……」
ナライは怪訝そうにしながらも返事をした。まるで父親みたいなこと言うイサルにどう対応していいのか分からない様子だった。
するとイサル、今度はカヤの方を向いて、
「カヤ。せっかくの京なんだし、しっかり楽しん来なよ。でさ、帰ったらお母さんにいっぱい土産話を聞かせてあげて……お母さんに、寂しい思いをしてでも送り出して良かった――って思ってもらえるように、実りのある旅にしなよ」
「……そんなこと……分かってるし……」
これまでの道中、ずっとイサルを避けていたカヤだったが、珍しく頷いていた。
態度は相変らずツンツンだったが、自分の代わりに母の気持ちを慮ってくれたイサルに、思うところがあったようだった。
「じゃあ皆さん。おれはこれで。良い旅を」
――こうして一行から離れ、ナライたちの母が待つ賀来礼へと馬首を回したイサル。
空を見ればちょうど中天高くに日が来ていて、小腹の空いたアザミ、ナライ、カヤの三人は、食を求めて安賀多をぶらつくことにしたのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。イサルのことをちょっとだけ認めている。
ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。イサルは自分より齢上だけど馬鹿だと思ってた。対抗心芽生える。
カヤ ……主人公。妹。久々の出番。イサルアレルギー。辛辣。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。有能な働き者。ただし、あまり空気は読めない。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。




