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北天のアリス  作者: 埼山一
第四章 深沢~京へ
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第四章之十 安賀多へ

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。自分の子でもない子にやたらと世話を焼く人。

ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。テンションMAX。

カヤ  ……主人公。妹。久々の出番。テンションのツボは兄と同じなのかも。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。

イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。能天気。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。

安賀多(あがた) ……氷見沢最寄りの港町。西にある。

小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

|秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。


 兄妹(きょうだい)にとって人生初の上京――新たな目標を設定したアザミたち一行は、最初の目的地・安賀多(あがた)を目指し、意気揚々とヤクト宅を出発した。

 そしてこれは氷見沢を出てすぐのこと……




「……」


 アザミと黒雲(くろくも)を先頭として、カポカポと馬の足音がよく聞こえる道中。

 もう秋も本番の晴天の下、カヤは何か腑に落ちないと言った表情で、はるかぜに揺られていた。


「ねえお兄ちゃん」

「ん?」


 すぐ横にいたナライに話しかけたカヤ。


「なんでイサルが付いて来てんの?」

「さあ?」


 そう応えたナライ。後ろをちらっと見ると、そこには一行の最後尾として馬を駆るイサルの姿が。


「なんでだろうな?」


 ナライは呟いた。

 不機嫌さを隠そうともしないカヤよりはマシだが、そのことはナライも気になっていることだった。


「まさかイサルも一緒に(みやこ)に行くとかじゃないよね?」

「そんなのオレが知るわけないだろ。そんなに気になんならお前がイサルに直接聞いてみればいいじゃん」

「いやよ。なんでわたしがイサルに話しかけなきゃいけないのよ」


 とんでもない提案をされて、ムッとした表情を見せるカヤ。

 どうやら自分からイサルに話しかけることは、カヤにとっての禁忌の一種のようだった。


 そんなふうに兄妹でイサルの話をしていると、本人の耳に届いてしまったらしい。


「なになに?二人ともおれの話してなかった?」


 と、追いついてきたイサル。


「してない。話しかけないで」


 しかしカヤはツンとそっぽを向くと、はるかぜをせっついて先に行ってしまったのだ。


「……なあイサル。お前、何でオレたちについて来てんだ?」


 ナライは先行したカヤの背中をやれやれと見送ると、そんな妹に代わってイサルに尋ねた。

 するとイサル、そんなナライに、さも意外そうな表情を見せて、


「何でって……もしかして聞いてないのか?」

「何が?」


 質問を質問で返したイサルに、ナライはさらに尋ねた。


「ナライたちはこれから京に行くんだよな?」

「うん」

「でもそれって、昨日急に決まったことなんだよな?」

「え? うん」


 イサルの確認に、相槌を打ったナライ。しかしどうして無関係のはずのイサルがそんなことまで知っているのだろう。


「てことはさ。ナライのお母さんは、ナライたちが京に行くことは知らないってことだよな? 子どもが黙って勝手に京に行ったりしたら、ナライのお母さんに限らず、大抵の母親はびっくりするんじゃないか?」

「ああ。それじゃあ、イサルは母さんに知らせるためについて来たってことか」


 今のイサルは母への連絡役として動いている――そのことに気付かされたナライは、イサルが懐からチラリと覗かせてきた手紙に、その正解を見た。

 なにしろナライたちの母・エナは普段は凛として勝気な(ひと)だが、いざ不安が募ると落ち込みやすい性格をしている。

 そんな人の子どもが黙って京にまで行ったと知ったら、一体どうなるか? ――そのことを思えば、イサルの任務はヤクト一家にとって、これ以上なく重要重大な任務だと言ってよかった。


「――だったら真直ぐお母さんのトコ行きなさいよ。方向違うじゃない」


 ナライたちの会話を耳聡く聞いていたらしいカヤが、そんな不平を漏らしていた。

 見れば、カヤは先頭のアザミと肩を並べて進んでいたが、その視線はイサルに向けられている。どうやらイサルに付いて来られることがよっぽど不満らしい。「早くどっか行け」と分かりやすく邪険な眼差しを向けているのだ。

 しかしイサル。付き合いが長い分、カヤのそう言う態度にも慣れっこで。


「そんなこと言うなよ。こないだは一年ぶりにカヤとナライに会えたのが嬉しすぎて、ちょっとみっともないとこ見せちゃったけど、いつものおれはそこまで悪い奴じゃないだろ?」


 自分のことがよく見えているのかいないのか? 先日のみっともなさの自覚があるわりに、普段のみっともなさは自覚できていないイサルが、返事に困ることを言い出していた。

 ししかしカヤは取り合う気なんてないらしい。「……ふん!」と、イサルに鼻で返事すると、また前を向いてしまったのだ。




「あ。でもさ。手紙持ってっても、母さん字ぃ読めないけど……」


 カヤの態度になぜか母を思い出したナライが、そんなことを心配した。


「ああ。それは心配ないよ。おれが読み聞かせるから」

「あれ? イサルって、字ぃ読めたっけ?」


 事も無げに言ったイサルに、ナライは驚いた。

 なにしろイサル、以前会った時はそんなことできるそぶりはまるで見せていなかったのだ。

 大人でもなかなかいない読み書きできる存在。――そのことが密かな自慢だったナライにとって、この事実は驚き以外の何物でもなかった。


「そりゃ一年もタイショーに付いてるんだもの。読み書き覚える時間ぐらいはあるよ」


 さらりと言ってのけたイサル。やっぱり、一年前の彼にはできないことだったらしい。

 しかしイサルは軽く「一年も」と言ったが、あくまでも滞陣での一年だ。イサルが普段どんな任務に着いているのか知らないが、そんな余裕があるもんなのだろうか?


「ねえアザミ! イサルが自分も字ぃ読めるとか言ってんだけど本当かな?」


 にわかには信じたくなかったナライは、先頭を行くアザミに確認した。

 しかし返って来たのは、あまりにもバカな質問をするナライに呆れたらしいアザミの言葉で。


「そんなこと俺が知るわけないだろ。本人が読めるって言ってんだからそうなんだろ」


 ナライは質問のバカさ加減を自覚しながらも、自分の自慢がイサルにもできるようになってしまったことを、悔しく思うのだった。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。自分の子でもない子にやたらと世話を焼く人。

ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。最近カヤに気を遣うことが増えた。

カヤ  ……主人公。妹。久々の出番。せっかくのテンションがDOWN。イサル嫌い。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。

イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。有能だけど残念な人。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。

安賀多(あがた) ……氷見沢最寄りの港町。西にある。

小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。


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