第四章之九 新目的地
アザミ ……主人公兄妹の保護者。交渉が下手。幸運値も低そう。
ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。全部アザミが悪い。
カヤ ……主人公。妹。久々の出番。全部アザミが悪い。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。能天気。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
アザミが鹿頭と二人だけの秘密同盟を結んでから、早くも二日。
一行は、しばらく逗留していた氷見沢のヤクト宅を出立する日を迎えていたのだった。
「よし。お前たち、忘れ物はないな?」
アザミはナライとカヤに最後の確認をさせた。
この二日間。ナライとカヤは無事、父・ヤクトとの再会を果たすことができていた。
アザミもまた重責から解放され、旧友と酒を酌み交わすなど束の間の休息を楽しんだりもしたが、心の底に溜まった滓が消え去ることはなく……
「応! いつでも行けるよ!」
「大丈夫です。忘れ物したら取りに戻って来るの大変ですもんね」
何も知らずに二日間を満喫した兄妹が、いつも以上に満ち足りた表情で応えていた。
「でもさ。忘れ物したとしてもどうせ自分家じゃん。来年には帰ってこれるって言われてんだし、あんまり気にしなくてもいいんじゃない?」
「ハハ、そう言われればそうかもな」
ナライの意見に、アザミは同調した。
昨日設けた再会の席で、ヤクトは今度の冬を無事越せれば帰宅も叶うだろうと明言していた。だったらこの機会に夏用品なんかを置いて行ったとしても、そう悪い判断じゃない。
「でさあ、アザミ。今度はどの道通ってくの?やっぱ去年と同じ道?」
ナライは尋ねた。
行きはアザミの都合もあって柴馬を経由したが、あれは道に不案内なナライをもってしてもすぐに分かってしまうぐらいに、明らかな遠回りだった。
するとその意見に、カヤも同調し。
「だとすれば行きよりももうちょっとだけ早く戻れますね。去年は歩きで八日とちょっとだったけど、今度ははるかぜたちもいるから半分の四日ぐらいで済むのかな?」
徒歩と馬の差をざっくりと算出したカヤ。こういう時、数字を好んで使いたがるのがカヤの特徴でもあった。
しかしアザミ、カヤの解答に首を振ると、
「いや。残念だがハズレだ」
アザミはそう答えた。
「え? じゃあ行きと同じ道ですか?」
「それも違う」
「じゃあどの道で……」
なかなか頷いてくれないアザミに首をかしげるナライとカヤ。
するとアザミ、答えるより先になにやら説明を始めて……
「実は以前から計画してたことがあってな。昨日、ヤクトとも話し合ったんだが実行するんなら今が丁度いいんじゃないかって結論になったんだ」
『はあ……』
アザミの要領を得ない説明に、困惑して生返事をする二人。
するとアザミ。ここぞとばかりに声を張って、こう宣言した。
「いいか、二人とも。一度しか説明してやらないから覚悟して聞けよ。――オレたちはこれから安賀多まで行き、そこで船に乗る」
「船ぇ!?」
「船に乗って帰れるんですか?」
意外の進路に、二人が驚いていた。
しかしアザミは首を振る。今回の目的は船でのんびり帰宅することなどではない。
「船が行く先は小波間だ。小波間は秋津島の最高権力が集う場所への玄関口。分かるか? つまりだな、俺たちがこれから向かう場所ってのは、み――」
『京だっ!』
なるべく勿体つけて気分を盛り上げようとしたアザミの最後の仕上げを遮ってしまった二人。
しかしその興奮ぶりを見るに、アザミの目論見は確かに成功したと言えるのだった。
「それホント、アザミ! もしウソだったらオレもう……! ……それホントだよなアザミ!?」
「何でですか? なんかいいことあったんですか? あ、もしかしてカヤの裳着のお祝いでとか……何でですか先生!?」
「ハハハ、ちょっと落ち着け二人とも」
アザミは予想以上に前のめりになった兄妹に圧されながらも、大人の余裕をもって二人を嗜めた。
「今言ったろ。前々から計画してことなんだよ。本当はもっと早く連れてくつもりだったんだが、機会を窺ってるうちにこんな時勢になっちまってな」
暗に自分の発案だと告白したアザミ。彼は少し気恥ずかしそうに、二人からちょっとだけ視線を逸らすと続けた。
「――実は今の騒ぎが収まってからでもいいんじゃないかって考えもあったんだが、そんなこと言ってたらまたなんやかんやで先延ばしにしちまいそうでな……」
アザミは肩をすくめた。アザミはこれでなかなかどうして、基本的に無精者なのだ。
今、腰が上がっているうちにやれることは何でもやっておかないと、次に腰を上げるのはいつになるのか分かったもんじゃなかった。
「でも京って遠いんですよね。たしか二月……」
カヤがどこぞで聞いた噂を思い出して、そんな不安を口にしていた。
「ああ。徒歩で二月。馬でも一月だな」
「じゃあどうすんだよ? オレたち今年は京で年越すの?」
年越しの何がそんなに重要なのか、変な心配を見せたナライ。
「あのなあ、お前ら俺の話なにも聞いてなかったのか? 言ったろ。船だよ船。馬で一月でも船ならあっという間なんだよ」
「へー。船ってそんなに速いんだ?」
ナライの疑問にアザミは説明を付け加えた。
船は馬よりも速いが、しかし海にも川と同じように流れと言うものがあるから、行きと帰りではかかる日数が違う。
それを見越した上でかかる日数を計算すると、往きが八日。帰りが四日。さらに小波間から京までの陸路が往復で二日強……
「ふーん。馬より速いとか、すごいんだな船って」
アザミの説明に、素直に感心したナライがそんな感想を漏らしていた
「他にもここから安賀多までとか天候とか色々あるから、実際に京にいられるのはたぶん数日だけになると思うが、それは覚悟しておけよ」
「はい!」
「分かった!」
やたらと元気の良い兄妹の返事に、アザミはこれまでの苦労がほんの少しだけ報われたような気分になったのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。表向きは子ども嫌いって言ってる気がする。
ナライ ……真・主人公。兄。久々の出番。アザミ好き。
カヤ ……主人公。妹。久々の出番。アザミ大好き。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。出すつもりだったけどやめた。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。能天気。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
裳着 ……女性版の元服。




