第四章之七 憂鬱のアザミ
アザミ ……主人公兄妹の保護者。駆け引きには弱いようで。
ナライ ……真・主人公。兄。出番がない。主人公なのに。
カヤ ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。鹿頭に使い物の手紙を奪われた。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んで去った。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
鹿頭と別れ、再び一人になったアザミだったが、彼は新たに入手した「本物のヤクトからの手紙」に目を通すと苦々しい顔をせずにはいられなかった。
「クソ……あんのシカ野郎、やってくれたな……」
鹿頭が拵えた偽物のそれとは、まったく違う内容に思わず悪態が出てしまうアザミ。
ヤクトが書いた本物の手紙には、子どもたちとの面会を中止する旨などどこにも書かれていなかったのだ。
それどころか会うのが楽しみだとか、機を見てこちらから出向くのでそこで待機のことだとか、賊徒討伐の順調さを窺わせることばかりが記されていたのだ。
「……しかしまあ、状況が好転したんだと思えば……」
アザミは視点を変えて、怒りを鎮めようとした。
偽の手紙の不明瞭な記述に、ヤクトの状況の悪さを勝手に想像してしまっていたアザミなのだ。
それが、実際にはまったく逆の状況だったのだと分かれば、鹿頭に一杯食わされたのだとしても、その悔しさも忘れることができると言うもの。
気を取り直したアザミは、手紙を読み進めた。
「ふうん……『この分なら雪が積もる前には家族を迎えに行けそうだ』か。ハハハ……」
それは吉報のはずなのに、なぜか虚しさを覚えたアザミ。
しかしそれも無理からぬこと。
子ども二人を故郷まで連れて行って父親と再会させる。――そんな無謀とも言えるような企画を発案し、押し通したのは、ひとえに旧友への義理立てがあればこそだったのだ。
それなのに当のヤクトは、わざわざそんな苦労をせずとも、あと二三ヶ月もあれば家族に会えそうだと言う。
(なんで俺はこんな苦労してるんだろうな?)
慣れない子連れの道中に賊徒との遭遇戦。その上、バカみたいな痴話ゲンカに巻き込まれたかと思えば、挙句の果ては鹿頭と秘密同盟まで取り交わすハメになって……
アザミは今すぐすべてを投げ出して、一人山中に籠りたい気分に襲われていた。
しかし――
「ハハッ。そういう訳にもいかないよな」
アザミは柄にもなく弱気になった自分を一笑に付した。
一人を好む性格のアザミだが、人としての責任とか、そう言うことには人一倍うるさい性格なのもまたアザミなのだ。
今回の旅は勿論ヤクトの承認があったとは言え、企画した本人である以上、ここで投げ出すわけにはいかない。
それに鹿頭曰く、この先の空き家に、身動きできないように縛ったイサルを放置しているとのこと。放っておけばいつ発見されるかも分からない以上、自分が行かないわけにもいかないのだ。
「……そうだな。もうここまで来ちまったしな。とりあえずイサル助けのついでに、俺だけでヤクトに会っておくか」
そう決めたアザミは、手持無沙汰で道草を食み始めていた黒雲に合図を送ったのだった。
アザミがその家に入ると、鹿頭の言ったとおりに縄でグルグルにふん縛られたイサルが、気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「ん……んふふふ……ダメだってカヤぁ。おれたちまだそう言う関係じゃないんだからぁ……」
「……」
どうやら何かの夢を見ているらしいイサル。ここに転がされてからどのくらい経っているのか知らないが、ずいぶんと幸せそうに見える。
「あ、あ、あ……いや。ダメダメダメ。そういうことはちゃんと祝言を上げてからでないと……ああっ」
「おいイサル。起きろ」
見かねたアザミはイサルを揺すった。
彼が夢の中で一体誰とナニをしてるのか――まったく興味がないわけでもないアザミだったが、このまま傍観していると後でカヤにこっぴどく怒られそうな気がしてならない。
しかしイサルは、
「あ。ダメ。ダメだって……あ、あ……うんもう。仕方ないなあ……」
「仕方がないことなんてあるか!」
アザミはいくら揺すっても起きそうにないイサルに無性に腹が立ってきて、思わず彼を蹴っ転がしていた。
「さっさと起きろ!この馬鹿野郎!」
溜まっていた不満がついに爆発したアザミ。
そもそもコイツが鹿頭に手紙を奪われるなんて失態さえ犯さなければ、自分が鹿頭の計略に乗せられることもなく、したがってあんな約束を交わすこともなかったのだ。
するとイサル。いくらいい夢を見ているようだと言っても、蹴っ転がされてはさすがに目が覚めたようで。
「はうっ!?――え?ここは?あれ?カヤは!?」
イサルはふん縛られたままの体を器用に使ってガバっと起き上がると、辺りをキョロキョロ見回した。
するとイサル、すぐ傍にいかにも不機嫌そうな表情で自分を見下ろしているアザミがいることに気が付いて……
「ア、アンタ……アザミさん?……そうか……なんてこった……」
「よう。気が付いたか?寝起きのところ悪いとは思うが、こうなった経緯は思い出せるよな?」
アザミは、落胆するイサルの縄を解きながらそう尋ねた。
するとイサルは、自分の失態がよっぽど許せなかったのか、うつむいて震え出したかと思うと……
「やっぱりアンタだったのかあっ!オレのカヤをどこにやったあっ!こん間男がぁっ!」
「いつまで寝ぼけてるつもりだ!この大馬鹿野郎!」
アザミは、夢と現の区別がつかずに激昂し出したイサルに、どぎつい一撃を食らわせたのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。思うに任せない人生。
ナライ ……真・主人公。兄。出番がない。主人公なのに。
カヤ ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。能天気。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。




