第四章之六 二人の同盟(後)
アザミ ……主人公兄妹の保護者。鹿頭と手を組むことになった。
ナライ ……真・主人公。兄。出番がない。主人公なのに。
カヤ ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。今は真っ当だと言い張る。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
「あ、忘れてた。こいつをアンタに渡しとかなきゃいけねぇんだったわ。」
黒雲に跨ったアザミが立ち去ろうとすると、鹿頭がおもむろにそんなことを言い出した。
「なんだこれは?……手紙か?」
「ああ。元々アンタ宛てだったんだけど、もうオレが持ってる意味もねぇし……ほら。」
無造作に突き出された手紙を訝しい目で見たアザミ。
鹿頭の寄越す物など、たとえそれが単なる手紙だったとしても受け取りたくはないのだ。
しかし、「元々の宛てが……」などと言われてはさすがに拒否するだけの理由も思いつかないわけで。
「……。」
アザミは、用心深くそれを受け取った。
鹿頭がどうやってこの手紙を手に入れたのか、勿論気にならないでもなかったが、とりあえず今はそのことを考えないようにして手紙を開く。
するとアザミ。開いた瞬間に飛び込んできた文字に見覚えがあって――
「……っ!――お前っ!」
驚いたアザミは思わず手紙をクシャっと握り潰していた。
すると鹿頭。そんなアザミの様子がよっぽど嬉しかったのか、実にいたずらっぽい情感で語るのだ。
「フフ……やぁっと気付いたかぁ……。そうさ。今日アンタに届いたあの手紙。書いたのぁ実ぁオレだったのよ。」
鹿頭は嬉々として自分の仕業を白状していた。
「……っ!」
今自分がここにいること自体が、鹿頭の策略だったのだと聞かされたアザミ。
彼は懐に突っ込んでおいた「ヤクトからの手紙」を取り出すと、その内容をもう一度確認する。
そこに書かれた字は確かにヤクトの字だ。しかしその手紙と、今受け取った“本物の”手紙をじぃっと穴が開くほどに見比べていると……。
「ああっ!クソっ!」
まんまと嵌められたのだと認めざるを得なくなったアザミは、偽物の手紙を破り捨てたのだった。
鹿頭は楽しそうだった。
思惑通りに事が運んだのがよっぽど可笑しかったのか、頼んでもいないのに嬉々として自分の企みを語り始めるのだ。
「いやぁさぁ……俺もできるだけ早ぇ内にアンタと接触したかったんだわ。けどよぉ、オレの方からノコノコ出向くってぇわけにもいかねぇし、かと言ってぇ、いつ来るか分かんねぇアンタ待って、ずぅっとここで丸まってるわけにもいかねぇ。」
「……。」
そして一方のアザミは苦虫を嚙み潰したよう顔で聞くのみだ。
偽の手紙に騙されて、持病に苦しむふうの娘に騙されて。挙句に相手の鹿頭を呑んで手を組むことになってしまったときたら……今日半日、自分はコイツの掌の上で踊らされていたようなものじゃないか。
しかも種明かしされてみるまで、そんなカラクリに気付けもしなかったのだ。そんな阿呆がこの期に及んで何かを言ってみたところで、もう恥の上塗りにしかならないだろう。
「――でさぁ、どうしようかって考ぇてたら丁度都合のいい奴が通りかかったんだわ。まぁ一目見て随分チョロそうな小僧だなぁたぁ思ったんだけど、試しにちぃっと誘ってみたらまぁその通り。あんまりチョロいモンだからちぃとばかし悪ぃ気がしなくもなかったんだが――」
「その小僧とやらはどうしたんだ?まさか始末して谷底に、とでも言うんじゃないだろうな?」
アザミは鹿頭のウンザリするような自慢話を遮って尋ねた。
鹿頭の言う小僧とはおそらくはイサルのことだろう。
たぶん、イサルはヤクトの手紙を届ける途中この鹿頭に遭遇し、そして奴の奸計にまんまと引っ掛かって手紙を奪われたのだ。
「ははは、そんなワケねぇっじゃねぇか。たかが小僧から手紙取り上げるだけのことで、わざわざそんな物騒なマネしやぁしねぇよ。あの小うるせぇ小僧ならこの道ずぅっと行って最初にぶつかった家に転がしてあらぁ。」
鹿頭は笑ってそう答えた。
「てことは、ウチまで手紙を持ってきた奴。あれもお前だな?」
「そう言うこった。」
「ハァ……よくもぬけぬけと……。」
アザミは呆れ果てた。自分自身の手で偽の手紙を届けに来る鹿頭の豪胆さもそうだったが、それ以上にアザミ自身のマヌケぶりにだ。
アザミは最初から疑問に思っていたのだ。――なぜヤクトはせっかく顔見知りになったイサルを使わなかったのか、と。なのにそこまで気付いておきながら、なぜそこをもっと深く考えなかったのか。
知らない奴が持ってきた、行き届いていない内容の手紙。二つの不審点があるのならもっと注意深く疑ってかかるべきだったのだ。
「……他にもう話はないんだな?……だったらもう行け……。」
失意のアザミは鹿頭を追い払いにかかった。
何かよく分からない疲れがどっと出てきている。
これ以上こんな奴の相手をするなんて御免だ。
それどころか何もかも放り出して、独り山奥で狩猟に興じたい気分にアザミはなっていた。
「ハハ……それじゃぁオレぁお暇させてもらうけどよ。でもなぁ……さっき交わした約束。そいつだけぁ忘れねぇでくれよ。」
それだけ告げると、鹿頭は去った。
「……。」
そうして一人残されたアザミ。彼の跨る忠勇の駒・黒雲が、なんとも居心地悪そうに頭を下げていた。
煮ても焼いても食えない――そんな奴に一泡吹かせる方法がどうしても思い付かなかったアザミは、鹿頭のいた場所をただぼうっと見つめるばかりだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。もしかしたらあんまり頭が良くないのかも……。
ナライ ……真・主人公。兄。出番がない。主人公なのに。
カヤ ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。
鹿頭 ……序章に出てきた賊徒たちの元頭領。常人離れした体技を操る。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。




