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北天のアリス  作者: 埼山一
第四章 深沢~京へ
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第四章之五 二人の同盟(前)

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。基本力押しの人生だったせいか、結構やらかす。

ナライ ……真・主人公。兄。|出番がない。主人公なのに。

カヤ  ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの頭領。意外と簡単に正体を晒した。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。


 鹿頭(しかあたま)がどうだとか言う前に自身の慢心(まんしん)に負けた。

 優位に立つと脇が甘くなる。それは自身も自覚しているアザミの欠点。


「くそ……なんてこった……。」


 絶対にしくじれない相手に痛恨の失敗を犯してしまったアザミが、そんな(うめ)きを漏らしたのは、鹿頭が「人」から再び「鹿頭」に戻った時のことだった。


「まさかアンタ、たった今決めたばっかりの約束を反故(ほご)にしようってんじゃぁないだろうなぁ?」

「そんなことは……ない……。」


 鹿頭の疑念にそう答えるしかないアザミ。

 実際のところ、こんな奴と交わした約束事など反故にしたところで痛くもかゆくもないアザミだ。

 しかし、たった今取り交わしたことすら守れないような奴にはなりたくないと言うのが、アザミにとって譲れない信義だったのだ。




「それにしてもな。もしやとは思ってたが……。」


 何もかも上手くいかないアザミは、気を取り直そうとそんなことを呟いた。

 交渉自体は敗北したアザミだったが、鹿頭の正体を暴くことには成功したのだ。

 そうやって暴かれた奴の正体は、以前アザミが予感していたものと一致するものであり、そう思えば自信だっていくらかは戻ってくると言うものだった。


「なんだよ?まさかアンタァ気付いてたってぇのかい?」


 アザミの呟きを耳聡(みみざと)く拾い聞いた鹿頭が反応した。


「まあな。」

「へぇえ?そりゃぁいつから?」

「そんな気がしたのは、オレの放った矢をお前が避けた時だな。」

「そりゃほどんど最初っからじゃねぇか。ホントかねぇ?」


 アザミの言い分に疑惑の目を向けた鹿頭。

 アザミは、一度相手の素顔を知ったせいか、被り物越しでもかなりはっきりとその感情が判るようになっていた。


「お前、なんでこんなことしてる?」


 アザミは尋ねた。

 鹿頭がその素顔とは釣り合わないことを生業(なりわい)にしていることが気になったのだ。

 それに経緯はどうであれ、手を組むことになった相手。その程度のことすら聞けないようでは、今後上手くやっていけるはずがない。

 すると鹿頭は答える。


「別に。気が付きゃこういう生き方してただけさ。他に生き方も知らねぇし、まぁその都度どうにかこうにかやってたら今日まで生き延びちまったってぇだけさ。」

「その技はどこで?」

「さぁね?どこだったかなぁ?憶えてねぇ。」


 過去はすべて風に任せて流してしまったような回答だった。

 雲のように風のように。何者にもとらわれない生き方。――そういう生き様に魅かれたこともあるアザミだ。

 しかし実際にそうやって生きたであろう鹿頭の現況がこれだ。そんな生き方はどこまで行っても理想にすぎないのだろう。

 やはり人間が人間であるためにはどこかに根を張って生きる必要があるのだ。




「で?オレは何をすればいいんだ?」


 アザミは引き続き尋ねた。

 鹿頭とは一時の付き合いになるだろうと考えているアザミだ。だからこそ、早い内に義理を果たして、いつでも縁を切れるようにしておきたかった。

 しかし鹿頭は、なぜそんなことを聞くのか分からないと言ったふうに答える。


「ん?いや。別に何も。」

「は?」

「別に今すぐして欲しいことがあって声かけたわけじゃねぇのよ。アンタもやることあんだろうし、それにオレの仕事ぁアンタにゃぁちょっと……ってぇのばっかりだしな。」


 そう言ってケラケラと笑う鹿頭。

 こう言う笑い方をするときの鹿頭は、実に無邪気でいい奴のようにも見えるのだが……。


「……まさか貴様、まだあんなことやってるんじゃないだろうな?」


 アザミは鹿頭を睨みつけた。

 自分には頼めない仕事。それが一体どんな仕事を指すのか、想像するのは容易だった。


「ハ。そりゃぁ言わぬが花って奴だな。」


 はぐらかす鹿頭。

 これにはアザミ。さすがに黙認するわけにもいかず。


「貴様……。」


 アザミは刀に手をかけた。

 率いていた賊徒(ぞくと)が壊滅して独り身になった鹿頭だからこそ、手を組むのもやむなしとなったアザミなのだ。

 それがもし、鹿頭が以前と変わらない賊働きをしているのであれば……。


「もう一度だけ聞いてやる。答えろ。お前、今も賊徒なのか?」


 アザミの目が鹿頭だけを捉えていた。

 たった今手を組んだ相手だろうが何だろうが、そんな外道を斬り捨てることに何の躊躇(ちゅうちょ)もない。

 三、二、一……。

 と、斬り捨てるまでの猶予を数えるアザミ。

 すると鹿頭はひらひらと手を振って、


「そんな怖い顔すんなってぇの。冗談だよ、冗談。」


 と、降参して見せたのだった。




「今のオレぁアンタが考えてるほどのこたぁしてねぇよ。まぁ安心しなって。」


 鹿頭は敵意を向けたままのアザミに弁解した。


「なるほど。俺が考えるほどのことはしてない、か……。てことは、俺の考えが及ばない程度のことは今もやってることになるんだが、間違いないんだな?」


 アザミは問い(ただ)した。

 自分でもあまり性格の良い返しではないとは思ったが、どうせ相手は鹿頭。あまり気にする必要はないだろう。


「ハハッ、まぁそう言うことだわな。……でもまぁそのぐれぇのこたぁ大目に見てくれや。アンタだって、ずっと真っ当に生きてたわけじゃねぇんだ。オレの苦労だって分からねぇわけじゃねぇだろ?」

「……。」


 アザミは抜きかけの刀を収めた。

 鹿頭の苦労など所詮(しょせん)は己が所業(しょぎょう)の報いに過ぎないと考えるアザミだが、それでも知らない土地で一人生き延びなければならないことの厳しさぐらいは想像できるつもりなのだ。


「二度とするな。今回はそれで手を打ってやる。」

「ほっ。ありがてぇや。」

「もう用はないんだろう?だったらさっさと去るんだな。この辺はお前みたいなのがウロウロしていていい場所じゃない。」


 アザミは胸をなでおろす鹿頭にそう忠告すると、黒雲(くろくも)(またが)ったのだった。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。義理堅いんじゃなくて信念があるってだけ。

ナライ ……真・主人公。兄。|出番がない。主人公なのに。

カヤ  ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの頭領。生い立ちが特殊な人。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。


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