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北天のアリス  作者: 埼山一
第四章 深沢~京へ
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第四章之四 鹿頭の要求

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。過去にあれやこれやある人。

ナライ ……真・主人公。兄。|出番がない。主人公なのに。

カヤ  ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの頭領。口の割に切れ者。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。


「なんかもう駆け引きとかめんどくせぇし、包み隠さねぇで言っちまうとさぁ。オレぁアンタが欲しいのよ 。」


 鹿頭(しかあたま)が藪から棒に衝撃の告白をしたのは、アザミがその構えを()いてからのことだった。


「……なぜだ?」


 警戒心(けいかいしん)ありありと言った様子で問い返すアザミ。本当は応答するのも嫌だったが、弱みを握られていると知った以上はもうどうしようもないことだった。

 そんなアザミとは対照的に鹿頭はどこまでも余裕だ。アザミの当たり前の疑問にも、さもありなんとばかりに言って退()ける。


「別になぜってこたぁねぇだろう。さっきも言った通りさ。オレぁアンタに興味を持ったんだ。それにアンタがついてくれりゃあ、()()()()()()を差し引いても釣りが来るってモンだしな。」


 カラカラと笑う鹿頭。

 こないだの件――以前アザミが鹿頭一味に与えた損害は相当な痛手だっただろうに、鹿頭の態度からはそんな様子など微塵(みじん)も見られなかった。


「――だからよぉ。アンタ、オレと組んでくれねぇかな?」

「断ったらどうなる?」


 アザミは差し出された手を無視して、さらに質問を重ねた。

 勿論(もちろん)、そこはアザミのこと。回答がどうであれ、こんな奴と手を組むなどありえないのは当然だった。

 しかしそれはそれとして、そもそもどうして奴は「話を聞け」などと要求したのか?そこが気になるアザミだ。

 奴が本気ならば、そんな面倒な工程は全部すっ飛ばして「仲間になれ」とだけ命令すればよかったのだ。

 アザミが鹿頭に握られた弱みとは、それぐらい重大なものなのだ。

 しかし鹿頭は、そんなもの握っていないかのように律儀(りちぎ)に質問に答えてくる。


「そうだなぁ……まぁ、残念にゃぁ違いねぇが、別にどうもしねぇかなぁ……。縁がなかった――それでこの話ぁ終わりってぇトコだな。」


 完全に想定外の返答だった。

 あまりにもさばけすぎている上、ちゃんとした交渉で仲間に、という鹿頭の意気(いき)さえも見えるものだから、奴の本質は実は誠実さにあるのでは?と、思いたくなるほどだ。

 しかしアザミ。一度はナライとカヤを窮地(きゅうち)(おとしい)れた張本人(ちょうほんにん)が、目の前にいるこいつなのだと思えば、そんな悪党の言葉を軽々に信用できるほどお人好しにもなれず。


「ふん。そうか。」

「……あ~。アンタぁ、オレのこと信じてねぇな?でもまぁ、それもしょうがねぇっちゃあしょうがねぇが……。」


 疑惑(ぎわく)の眼差しを向けるアザミに、鹿頭が抗議した。


「――一応言っとくがよぉ。オレぁ別にアンタにフラれたからって、その腹いせにアンタの『秘密』を吹いて回ってやろうとか、そんな気ぁサラサラねぇんだぜ。」


 秘密。と聞いて、アザミはほんのわずかだけ表情を曇らせた。

 しかし鹿頭は構わず続ける。


「――そりゃあよぉ。出るとこ出てアンタのこと密告(チク)りでもすりゃあ、まぁ結構な金になるのは間違いねぇだろうよ。――でもよぉ、考ぇてみねぇな。……そもそもオレ自身がその『出るとこ』にゃぁ出られねぇ人間なんだ。だから仮にそういう場所にってみたところで……てなワケだからよ。あんまりつまんねぇこと心配しねぇでいいから、お互ぇざっくばらんにやらねぇか?」


 それから鹿頭は「要はオレたちゃ同じ穴の(むじな)って奴よ。同じアナグマ同士、()り合う理由はねぇってな。」と付け加えると、またケラケラと笑ったのだった。


 ――アザミは考えた。

 確かに理屈は通っている。

 鹿頭の言うことは一々もっともで、仮に奴がどこぞの役所に駆け込んで「恐れながら」とアザミのことを密告しようとしたところで、奴もまた賊徒(ぞくと)の身。世間の敵なのだ。

 だからそんな奴が自分からノコノコと役所に出向とは考えられず、無理に駆け込んでみたところで捕縛(ほばく)からの死罪がいいところ。

 そう考えればこそ、今は自身の「秘密」が余所(よそ)()れることを心配する必要はないと言う奴の言い分は確かにその通りなのだ。


「……なるほど。そうかも知れないな。」


 差し当たってのこととは言え、一応の納得を見たアザミは鹿頭の言い分を認めた。

 しかしそのことと鹿頭の要求の可否は当然別の扱いとなるわけで……。


「――だが、お前が本気で俺を引き入れたいと思ってるんなら、まずは顔ぐらい見せてみたらどうなんだ?」


 アザミは試しにそんな条件を出してみた。

 勿論、鹿頭が素顔を(さら)したぐらいのことで、奴に味方する気などサラサラありえないと考えるアザミだ。

 しかし今の奴からは以前に会った時のような酷薄(こくはく)さや危険さはさほど感じられないのは本当のことだったし、その上、奴が正真正銘(しょうしんしょうめい)真っ当な手段で交渉する気ならば、その程度のことは()んで(しか)るべきだろうと、そう考えたのだ。

 それに対して鹿頭の答えは……。


「いんや。そりゃぁ無理な相談だわな。」


 簡潔(かんけつ)で迷いのない明確な拒否。それが鹿頭の返答だった。


「ほおう?なぜだ?俺を引き入れたいんじゃなかったのか?」


 予想以上に早く主導権が取れたことで(あざけ)り問うたアザミ。

 理由はどうあれ、こんな簡単な条件ですら相手は蹴ってきたのだ。したがってこの件はこれで破談だ。

 あとはもう好きなところで話を打ち切ればそれで終わり。――あまりに拍子抜けする鹿頭の浅慮(せんりょ)に、アザミはほくそ笑むのを止められない。


「そりゃぁそうなんだがよぉ。顔はちっとなぁ……。」

「都合が悪いか?――ふん。残念だったな。自分の正体の一つで俺を引き込めたものを……。」


 (しぶ)る鹿頭に、余裕のアザミが話を締めようとした。

 すると鹿頭。ふぅとため息を一つ吐いてから、


「まぁ……しょうがねぇか。それで話を受けてもらえるってぇんなら、テメェの顔の一つや二つ……。」


 しぶしぶ承知(しょうち)した鹿頭。そして鹿の被り物に手をかけると……。




 アザミはポカンしていた。

 鹿頭がなぜか突然翻意(ほんい)したのだ。

 しかしそれも束の間のことで、彼はすぐに「あっ!」と自分の失言に気付くと、


()()()()()()()()()()()()()()()()だと!?)


 なんて馬鹿なことを!――と悔やんだのだが、しかしすべてはもう後の祭り。


「いや待て!脱ぐな!脱ぐんじゃない!」


 アザミが慌てて鹿頭を止めようとした時、すでに鹿頭はその素顔を外気に晒していたのだった。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。意外と傲慢(ごうまん)だしうっかり者。

ナライ ……真・主人公。兄。|出番がない。主人公なのに。

カヤ  ……主人公。妹。出番がない。主人公なのに。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの頭領。台詞の修正が大変。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。


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