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北天のアリス  作者: 埼山一
第四章 深沢~京へ
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第四章之三 交渉と弱み

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。突如現れた鹿頭(しかあたま)にどうしたもんか苦慮(くりょ)

ナライ ……真・主人公。兄。|存在感がない。主人公なのに。

カヤ  ……主人公。妹。存在感がない。主人公なのに。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの頭領。名前の由来は鹿の頭部を被っていることから。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。


 相手の話を聞いているほんの少しの間。それだけのこと。

 しかしそんなささやかな休戦ですら「(すき)を見せれば……」などと腹黒(はらぐろ)い計画に利用しようと考えていたアザミミは、わずかな好機すらも逃すまいと相手の出方を(うかが)っていた。


「さて、と……何から話したもんかなぁ……。」


 そんなアザミの企みを知ってか知らずか、ヘラヘラと近寄ってくる鹿頭(しかあたま)

 その態度は、あごに手を当てて空を見上げる。と、いかにも考えていますと言った感じで、いっそ白々しいものだ。


「……。」


 鹿頭がつまらない演技に興じている間も、無表情に(てっ)するアザミ。

 奇襲を悟られる()だけは犯したくない。しかしその一方で、鹿頭のなめくさった大根演技にイラつきを感じているのもまた事実。


(構うな。無だ。今は無こそが至上(しじょう)。)


 アザミは自分に言い聞かせた。

 鹿頭が油断しきっているのならそれこそ望んだり叶ったりではないか。あいつがあと()()()()ほども近寄ってこようものならば、今度こそこの一刀で真っ二つにしてやれるのだ。


「なぁ、オレ何から話せばいいかなぁ?」

「……知るか。思いついたことから話せ。」


 奇襲をひた隠しにしたいアザミは、何が楽しいのか悩むふりして時を浪費(ろうひ)する鹿頭にそう回答した。

 しかしこの偽りの厚意(こうい)。かえって疑念(ぎねん)の元になってしまったようで、鹿頭はわずかに首をかしげると、


「……おっといけねぇ。これ以上は……なぁ?」


 鹿頭は、死線まで「あと半歩」の所でピタリと立ち止まると、挑発(ちょうはつ)するようにそう言うのだった。




「……。」


 今の会話のどこをしくじったのか分からなかったが、それでも奇襲を見抜かれたアザミ。

 鹿頭の挑発にボロに出すようなことこそなかったが、さりとて上手(うま)い返しができるほどの機転(きてん)があるわけでもなく、彼は無言でいるしかなかった。

 すると、そんなアザミに鹿頭は言う。


「ふふ……そうガッカリすんなって。別にアンタが下手(へた)打ったわけじゃなくて、オレが上手(うわて)だっただけなんだからよ。相手がオレじゃなきゃぁたぶん上手くいってたと思うぜ。……たぶん。……知らねぇけど。」


 (なぐさ)めているようで、その実おちょくってくる鹿頭。

 これにはアザミ。当然腹が立ちもしたのだが、もう小手先(こてさき)の対処ではシラの切りようもなく……。


「……なんでもいいから早くしろ!今すぐ()ってやってもいいんだぞ。」


 アザミはムッツリと吐き捨てるしかなかった。

 残念だが仕方がない。こちらの企みを見透(みす)かされていた以上、何を言ったところで無駄なことだ。

 すると鹿頭。まだおちょくり足りないのか、またしてもこんなことを言う。


「フフ……やっぱオレ、アンタのそう言う正直なトコ好きだわ。」

「そうか。じゃあ話はこれで終わりってことでいいな?」


 鹿頭の言葉に、アザミはさっさと消えろと手を振った。

 アザミにはもう鹿頭と話をする気などない。

 先ほどの(くわだ)てが見抜かれ、今ここで鹿頭を討ち取るのは不可能となった以上、こんなのと仲良くお話なんて考えられないことだった。


「は。冗談きついね。そんなわけ――」

「お前の話は分かった。失せろ。」


 相手の言い分を(ろく)に聞きもせず、御座(おざ)なりに追っ払いにかかるアザミ。

 好機が見込めないないのであれば、わざわざ取り合う理由もない。それに、さっきの「好きだわ」発言も正直言って気持ちが悪かったのだ。

 しかし鹿頭は動じない。

 アザミの邪険(じゃけん)な態度にもやれやれと首を振っただけで、ただ一言。


「アテルイ。」

「――っ!!」


 小さく。しかしハッキリとしたその一言が、御座なりなアザミの動きをピタリと止めたのだった。




「……な、んだと?」


 アザミは動揺(どうよう)していた。はっきりと。


「ウフフ……。」


 鹿頭は目を細めていた。ニンマリと。


「オレもさぁ……さすがにこれ出すのぁ悪いかなぁ、とは思ったんだ。でもさぁ、アンタがこっちの話全然聞いてくれようとしねぇじゃん?……だったらもうしょうがねぇって……なるよな?」

 ゆったりとした歩みでアザミに近づきながら言う鹿頭。

 気が付けば、二人は「あと半歩」の間合いどころか、鼻と鼻がくっつくぐらいまで近づいている。


「……何を知っている?」


 (かぶ)り物の奥に怪しく光る鹿頭の眼に()まれないように、丹田(たんでん)に意識を集中しているアザミが問うた。


「さぁて、何を知ってるんだろうなぁ……。」


 くるり。と、無造作に、しかも隙だらけで背を向けた鹿頭。


「……。」


 今こそが、鹿頭を討ち取る絶好の機会だった。しかしアザミは動けない。

 (つか)にかけたままだった手は強張(こわば)り、(あし)も大地に突き刺さっているのかと思えるほど自由にならない。

 今のアザミは案山子(かかし)も同然だ。

 背を伝い落ちて行く冷たい汗だけが、アザミが本物の案山子ではないことを教えてくれている。


「オレもさぁ、最初はアンタにどうやって復讐(ふくしゅう)してやろうかって考ぇてたんだ。やっとこさで集めた連中台無しにされたんだ。そりゃあハラワタだって煮えくりかえるってモンさ。――けどな、そうやってアンタのことばっか考ぇたら、なんか段々アンタに興味が出て来ちまって。……だからちょぉっとだけアンタのこと調べさせてもらったのさ。そしたらまぁ面白ぇこと面白ぇこと。アンタァ……意外と……。」


 鹿頭はそこで一度「フフ」と笑った。

 そしてまたアザミの方を向くと、何事もなかったかのように言う。


「……アンタはオレの話をちゃあんと聞く。だよな?」

「……。」


 アザミの沈黙を是認(ぜにん)と受け取った鹿頭は、こうしていよいよ本題に入ろうとするのだった。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。意外と汚い手段も平気で使う。

ナライ ……真・主人公。兄。|存在感がない。主人公なのに。

カヤ  ……主人公。妹。存在感がない。主人公なのに。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。

鹿頭(しかあたま) ……序章に出てきた賊徒たちの頭領。なんか諜報っぽいこともできる。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。


丹田(たんでん)……へその下。気合を入れる時はここに。武道の基本らしいよ?


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