第三章之終 短い手紙
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。この一年でだいぶ老けた。子を持つ大人の責任とは?
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。賊徒に単身立ち向かう胆力も妹の前では無力。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。母に似ている部分多し。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。本来ならば賊徒討伐に参加するような立場の人間ではない。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。賊徒討伐の総責任者。イサルの上長。連絡くれた。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
「残念だがお前たちがヤクトに会うことは出来なくなった。」
『は!?』
アザミから飛び出した思いもよらない重大発表に、カヤとナライはまったく同じ声を上げていた。
「え?……は?」
「それってどう言うことだよアザミ!?そこにそう書いてあるってことなのか!?」
それぞれの反応を見せる兄妹。
特にナライなどは、聞いた次の瞬間には頭に血が昇ったようで、尋常ならざる勢いでアザミに食ってかかっている。
反応こそ二者それぞれの様相を見せた兄妹だったが、楽しみにしていたことを急に中止にされて、納得できていないという点では同じのようだ。
しかし兄妹の感情情緒がどうであろうと、ただ事実を伝えなければならないのが、今のアザミの立場なわけで。
だからアザミは、手紙に書かれた内容を二人に聞かせることだけに腐心するのだった。
「――ま、そんなわけで、あいつに会うのは俺だけになったんだが……納得したか?」
手紙の内容に加えて、昨今深沢を取り巻く状況なども交えて説明したアザミは、最後に一つ「ふう」と息を吐いて話を締めていた。
しかしそんなアザミの話を聞き終えても、兄妹はムスッと考え込むばかりで、何か返してくる様子はなく。
「でもま、さすがにこんな説明一つで納得できるなんて俺も本気で思ってるわけじゃないさ。しょうがない。怒りたきゃ怒れ。」
うつむきがちな二人の中に強い不満を見て取ったアザミは、批判を受け止める覚悟を決めた。
無論、そうして欲しいわけではなかったが、ここまで二人を連れて来ておきながら、いざ実際にヤクトに会えるのは自分だけなど言う理不尽を通告した以上、批判に晒されるも仕方のないことだ。
しかし、そんな気遣いに対して返ってきたのは予想外の言葉で。
「……分かったよ。アザミが悪いわけじゃないんだし、いいよもう。」
と、率先して物分かりの良いことを言ったのは、意外なことにナライの方だった。
ナライのまさかの発言に、「えっ!?」と驚きをあらわにするアザミとカヤ。
「カヤ。お前もいいよな?」
「え?……う、うん。」
急に見せられた兄らしい態度に、思わずうなずいてしまったカヤ。
ナライ本人にしてみれば、別に大人ぶっていると言うわけでもないのだろう。
しかしそれでもナライは、自分よりもはるかに大人びて物分かりの良いはずの妹に先んじて今回の事態を受け入れると、妹にもそれを受け入れさせたのだ。
「でもさ、アザミ。会えないのは分かったけど、父さんの方はどんな感じなのよ?深沢で戦争してるのは最初から分かってたけど、それでもオレたちはこうして父さんに会いに来てるわけじゃん。なのにここまで来てから『会えない』なんて言われてもさあ。」
ナライはあっけらかんとした口調で尋ねていた。
前線で指揮を執る父の身を案じる気持ちはないのか、それとも父への全幅の信頼のあらわれなのか。ただ単に感想を述べただけと言った様子のナライだ。
そして、そんなその問いに対してアザミは答える。
「まあ、実際のところはどうだか俺にも分からないな。でも差し迫った何かがあって――って事じゃあないとは思う。」
「じゃあなんで父さん、急に会えないなんて言い出したのさ。」
「だからそれは俺にも分からないんだって。何しろ、手紙には『状況が変わった』とだけしか書かれてなかったんだ、まったくあの野郎……。」
知りたいことを書いて寄越さない旧友に悪態をつきながらも、アザミは「ほら」と手紙を差し出していた。
「ま、あいつが指揮を執ってる以上、賊徒がちょっと束になって掛かってきたぐらいでどうにかなる深沢じゃないとは思うけどな。」
「ふうん。そうなんだ。」
その言葉を聞いたナライは少し嬉しそうに手紙を受け取った。
そして、おもむろにそれをくるりとひっくり返して裏側なんぞを眺めたのだが……。
「……ん?そういやお前、字、読めるよな?」
「当ったり前じゃん。バカにすんなよ。」
アザミの要らぬ一言に、ナライはムッとなって答えていた。
しかしナライのこの不快感は当然と言えば当然だ。
なぜならナライ。意外なことに、こんな性格でも読み書きがそれなりにこなせる方だったのだから。
それはかつて役人をやっていた父の指導の賜物以外の何物でもなかったのだが、氷見沢で読み書きができる貴重な人材は、大人を含めても片手足りてしまうぐらいのもので、ナライはその貴重な者のうちの一人だったのだ。
そんな理由があればこそ、読み書きができることが密かな誇りだったナライ。
しかし、余所者のアザミがそんなことを知る由などないわけで。
「そうか。お前が手紙をひっくり返すもんだから、もしやと思っだんだが。」
「後ろにも何か書いてないか見てみただけだよ!」
こうして憤ったナライだったが、気を取り直すとあらためて手紙を開いたのだった。
しかしその手紙。いざ音読しようとしてみると、その中身は拍子抜けするほど簡潔なもので……。
――宛・アザミ
状況が変わった。
かねてからの計画は中止とする。
尚、相談事有り。
至急来訪されたし。
ヤクト――
「――追伸。子どもたちはそこに留め置くように。」
そこまで読み上げたナライが口を閉ざすと、場には妙に張りつめた感のある空気が漂っていた。
「……。」
「……。」
「……。」
ナライ以外は何も発してはいけないような変な空気。しかし待てどもナライに続きを読む意思はないようで。
「え?……続きは?」
いくら待っても先を読み上げない兄に焦れたカヤが、続きを催促していた。
しかしナライは顔を上げて言う。
「……ない。これで終わり。」
「うそ?」
「ホント。ほら。」
「ええ……。」
手紙を見せられて困惑するカヤ。
そこには確かにナライが読み上げた以上のことは何も書かれていないようで……。
「な?」
「う、うん。」
カヤは釈然としないものを感じながらも、そう返事するしかなかった。
それからナライは、アザミに手紙を突き出して言う。
「話は分かったし、返す。」
「おう。」
アザミはたたまれもせずに返ってきた手紙を受け取りながら、ナライの顔を見た。
分かったと言っておきながら、ナライもカヤとまったく同じ表情だ。実際に知りたいことは何も分かっていないのだろう。
しかし無理もないことだった。なにしろ手紙があまりにも事務的過ぎたのだから。
どうしてヤクトはこんなしょうもない手紙を書いて寄越したのか?
兄妹の心境に同意すること大だったアザミは、少ししわの付いた手紙をたたみながら、まだ見えてこない事情を思案するのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。この一年でだいぶ老けた。子を持つ大人の責任とは?インテリ狩人。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。字、読める、書ける。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。字、少し読めて、あまり書けないが、それでも貴重な存在。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。本来ならば賊徒討伐に参加するような立場の人間ではない。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。賊徒討伐の総責任者。イサルの上長。連絡くれた。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




