第三章之十九 前置き
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。イサルに対する好感度が兄妹と違い過ぎてちょっと悲しい。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。強がりとかやせ我慢とか、そういうことしがち。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。強がりとかやせ我慢とか、そういうことしがち。この辺が兄妹っぽさなのか。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。本来ならば賊徒討伐に参加するような立場の人間ではない。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。賊徒討伐の総責任者。イサルの上長。連絡くれた。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
ナライとカヤの声が聞こえてきたのは、アザミが件の手紙をしまったあとのことだった。
「カヤ、早くしろ!」
「ちょ、何!?放してお兄ちゃん!痛いって!」
「いいから来い!アザミが呼んでるんだよ!」
「だから痛い!」
何やら気忙しい言い争いと共に近づいてくる二人の気配。
そして――
「アザミ!カヤ連れてきた!」
やたらと大きな声を出したナライが顔を見せたのは、それからすぐのことだった。
そしてそんなナライが引っ張っているのは、何が何だか分からないまま連れて来られたらしいカヤの手首で……。
「もう!痛いって言ってるでしょ!いい加減に放してよ!」
カヤは自分を拘束している手をやっとのことで振りほどくと、その主を睨みつけた。
どうやらナライは、碌に事情の説明もせずにカヤを強引に引っ張ってきたらしい。それが証拠に、カヤは締めつけられていた手首を痛そうに擦りながら怒るばかりだ。
いくら大雑把な所があるナライと言えど、いつもならばそんな失態は侵さないはず。
アザミはそんな二人の様子に苦い笑みを浮かべると、まずは座るようにと勧めたのだった。
「む。全員そろったな。」
アザミは行儀よく座った兄妹を前にやおら立ち上がると、一人朗々と話し始めた。
「ここに来てから今日でもう六日目だな。俺の予想じゃヤクトが何かしらの連絡を寄越すまで早ければ当日中、遅くてもまあ二日程度……と、そう踏んでたんだが……。」
そう言ったアザミは当てが外れたことを詫びるように肩をすくめた。
しかしまあそれはそれとして、今日ようやく深沢から連絡が来た。――そう続けようとしたアザミだったのだが……。
「アザミ!」
アザミの演説はナライの物言いによって中断させられていた。
「あのさ。前置きは別にいいよ。それよりオレ、本題の方が気になっちゃって。」
どうやらナライは手紙のことが気になって仕方がないようだ。
ここ数日無為に過ごした退屈さがそうさせているのかも知れないが、ナライにしてはちょっと珍しいぐらいの焦れ方だった。
「ははは。そいつは悪かったなナライ。それじゃ早速本題の方に……でもお前、何をそんなにイラついてるんだ?」
「は!?オレ別にイラついてなんかないよ!」
そう指摘されたナライは顔を真っ赤にして反論した。
「いや明らかにイラついてるぞお前。ちょっと深呼吸でもしてみたらどうだ?」
「要らないって!アザミがどうでもいい話から入るからちょっと退屈してきただけで――」
「どうでもいいってお前……。」
「でもどうでもいい話だったじゃん実際。」
そう言われたアザミは少しだけしゅんとなっていた。
たしかに本題に入る前の組み立てが上手くなかったのは事実かも知れないが……。
すると横からカヤがナライに対して――
「ねえお兄ちゃん。」
「なんだよカヤ。今オレ、アザミと話して――」
「ちょっと黙ってようね。」
「――るんだか……え?」
「黙ってようね。」
「……。」
ナライどころか、アザミまでもがカヤの浮かべる極上の笑顔に思わず凍り付いていた。
「ね?お願い。」
顔も口調も穏やかなはずなのに背筋に寒いものを感じずにはいられないナライとアザミ。
どうやらカヤ、連れて来られた理由も知らずに痛い思いだけしたものだから、ナライに相当思うところがあったらしい。
「今ね、先生が大事なお話をしてるの。お兄ちゃんはわたしよりも齢上でお兄ちゃんなんでしょ?だったら、人が話してる間は黙って聞く。出来るよね?」
「……はい。ごめんなさい。」
そこはかとなく母親を彷彿とさせる妹のお願いに、兄は一も二もなく従うより他なかったのだった。
「……ああうん。ゴホン!まあ二人ともまずはこれを見てくれ。」
一旦仕切り直すことになったアザミはおもむろに懐から手紙を取り出すと、それを二人に見せていた。
「あっ!?それってもしかしてお父さんの。やっと来たんですか?」
「ああ。ついさっき来たばかりだ。」
思わず歓声を上げるカヤと得意げに答えるアザミ。
しかしその一方で、冷めた態度を取るのはナライで、
「ふん……今さらそんなトコはどうでもいいっての。」
カヤに恐れを抱き始めたナライは、誰にも聞こえないような小声で一人悪態をついていた。
何しろナライにとって、深沢から手紙が来たことなど最初から知っていることなのだ。
重要なのは何が書かれてるかであって、手紙が来たことじゃない。だからナライにはアザミの前置きが勿体付けているようにしか思えなかったのだった。
そして、今もナライはその焦りを抑えられずにいる。
膝はイライラと揺れているし、その膝を指でコツコツ叩きもするしと、焦れる気持ちが無意識に行動に表れていた。
しかし無意識とは時として罪なもの。特にそういう焦れた態度は、他人から不評を買ってしまうのが常と言うもので。
「あのねお兄ちゃん。ちょっとだけ膝がうるさいですよ。出来ればでいいから動かさないようにしてね。」
「はい。もう二度と動かしません。」
カヤは、一体いつの間にそんな技を身に付けたのか?
息が詰まりそうなほどに冷たく深く突き刺さってくる妹の視線に、兄は小さくなるより他になかったのだった。
さておき。カヤの「冷たい視線」は今のところ対兄専用のようだ。
「先生、早く内容を教えてください。お父さんからのってことは、きっとこれからの予定とか書かれてるんですよね?」
二度にわたってナライにお願いを聞いてもらったカヤは、アザミに向き直ると一転。いつもどおりのカヤに戻っていた。
それに対してアザミは、
「……あ、ああ……まあそうだな。」
と、困ったように答えていた。
実は、「どうでもいい」と評されるような前置きをアザミがわざわざ作ったのにはそれなりの理由があった。
なにしろこれから話すことは、持って行き方次第では兄妹を怒らせることになるかも知れず、或いは悲しませることになるかも知れず……と言った具合で、とても気軽に話せるような内容ではなかったのだ。
しかし、そんな事情など知りもしないカヤは、期待に満ちた瞳を向けて早く話せとせっ突いてくる。
「それで、お父さんはなんて?もう六日も経ってるんだから、すぐ会えるように準備してたとかなんですよね?」
「ん……まあ、あいつが今日まで何してたかなんてことは書かれれなかったけどな……。」
これ以上の答えが出てこないアザミは目を閉じた。
こんな短時間で、上手な話の持って行き方だとか、波風立たない物の言い方だとか、思い付けという方が無理な相談なのだ。
「すまん。」
「え?」
これ以上、黙っているわけにもいかない。
どうにもならずに観念したアザミはすべてを詳らかにすることに腹を括った。
「残念だがお前たちがヤクトに会うことは出来なくなった。」
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。カヤの中にその母親を見出してしまって恐怖せずにはいられなかった。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。こういう時こそ気を使える人間になった方がいい。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。兄の横暴にブチ切れた。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。本来ならば賊徒討伐に参加するような立場の人間ではない。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。賊徒討伐の総責任者。イサルの上長。連絡くれた。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




