第三章之十八 深沢からの手紙
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。とりあえず今いるここが旅の終点と言うことになってるので気が抜けがち。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。豪傑型なので眠るときは泥のように眠って、起きる時はスバッと起きれる。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。低血圧。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。出立をアザミだけに報告してそっと去ろうとしたら、思いがけず見送ってもらえることに。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いけど出番は少ない。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
この旅を始めて以来、初めて訪れた「予定に追われることのない朝」と言うこともあり、いつもよりもちょっとだけ遅くなった朝食の席でのこと。
「あ、そうだ先生。」
思い出したように声を上げたのは、ついさっきまでの寝ぼけ顔はどこへやら。すっかり目も覚めてしゃっきりはっきりしたいつもの性格のカヤだった。
「ん?なんだ?」
「なんか久しぶりのお家で嬉しくなっちゃって忘れてたけど、わたしたちってお父さんに会いに来たんですよね?」
「ああ。そうだな。」
「それじゃあ、このあとどういう順序でお父さんと会うことになってるんですか?」
「ああ……それか。」
アザミは一つ相槌を打つと、ちょっとだけ困ったような表情を見せて答えた。
「実はな、俺もこのあとどうすればいいのか知らないんだ。」
「は?それってどういうことですか?」
予想外に無責任な回答を貰って訝しむカヤ。
するとアザミは――
「……これは俺の方から提案してヤクトに飲ませたことだったんだが――」
一体何がそんなに誇らしいのか、どこか得意気そうなアザミだ。
そしてそのまま理由を語り始める。
「時にカヤ。お前、俺が普段何をして生計を立ててるか知ってるよな?」
「……狩人。」
「そう。俺は狩人だな。で、まあそんなことを生業にしてるせいか、最初から最後までガチガチに決めてその通りに進めるってのがどうにも性に合わないらしくてな。」
「はあ……。」
「だから今回の旅を企画した時にこう決めたんだ。とりあえず俺はお前たちをこの家まで連れてくる。そのあとのことはまたその時に決めよう――ってな。」
「じゃあわたしたち、これからどうすればいいんです?」
カヤは露骨にムッとした表情で応じていた。
しかしそうなるのも無理はない。ここから先は行き当たりばったりですと言われたようなものなのだ。
だからしっかり者のカヤにしてみれば、腹の一つも立てたくなるのも当然のことだった。
しかしアザミ、そんなカヤの気を知ってから知らずか、実にあっけらかんとしたもので。
「そう心配しなくても俺たちが到着したことはヤクトにも伝わってるはずなんだ。ここでのんびり待ってればそのうち向こうから連絡付けてくるだろ。」
アザミはそう言ってカヤのジトっとした視線をいなすと、食事に手を付けようとするのだった。
しかしそんなアザミの行動に割って入るように口を開いたのは、今まで食べることに夢中になっていたナライで……。
「ん?どうして父さん、オレたちが家に着いたこと知ってんのさ?」
ナライは箸を止めることなく、気になったことを思い付くままに口にするのだった。
だからアザミは食事を再開することもままならず、仕方なくナライの質問に答える。
「昨日言わなかったか?イサルだよ。――イサルが家に来たのは俺たちの到着を確認する役目を負ってたからだ。で、そのイサルが俺たちがここにいることを知ってる以上、わざわざ俺たちの方から動かなくても、今ごろはあいつ経由でヤクトにも伝わってるだろうって、まあそういうことだ。」
「ふーん。そうなんだ」
自分から聞いてきた割にさほど関心がなかったらしいナライの御座なりな返事。
しかしその直後に何かを思い出したようで。
「――あれ?そう言えばイサルは?」
ナライは、なんやかんやの末に家に泊まったはずのイサルがいないことにようやく気付いたらしかった。
ぐるりと見渡してイサルがいないことを確認すると、またしても箸をくわえたまま質問を口にする。
「なんだお前、気付いてなかったのか?イサルならお前たちがまだ寝てるうちに出てったんだぞ。」
「ふーん、そうなんだ。」
呆れるアザミにまたしても御座なりなナライの返事。
それからナライは「せっかちな奴。」と呟くと、それで今度こそ関心を失ったようだった。止めた箸をまた忙しなく動かし始めている。
するとそんなナライの感想に同調したのはアザミで。
「まったくだな。どうせなら朝飯ぐらい食ってから出てってもこっちは全然構わなかったのにな。そう思わないか?」
「ん?いや、全然。」
「寝てるうちに出てってくれてよかったです。」
「お前ら……。」
どうやらこの兄妹は、本当に心の底からイサルのことが苦手らしい。
一瞬のためらいもなく返ってきた残念な回答にアザミは苦笑するよりほかなかった。
(つくづく不憫な奴だな……。ま、それも身から出た錆なのかもしれないが。)
アザミは、どうあってもとしてこの兄妹から良い評価を貰えそうにないイサルに、自分の知らない過去の醜態を勝手に想像して、もう一度苦笑したのだった。
それから――。
アザミの予想に反して深沢のヤクトからの使いがやってきたのは、イサルと別れた日から数日後。お天道さまの南中到達を数えること、実に六回目達成寸前という頃になってのことだった。
「――それでは失礼します。」
「ああ。ご苦労。」
足早に去ってゆく見知らぬ顔の使者を、見送りもせずに家に戻ったアザミ。
するとそんなアザミに声をかけてきたのは珍しく家でゴロゴロしているナライで……。
「何?誰か来たの?」
「手紙だよ。ヤクトからの。」
「へえ。それで父さんなんて?」
ナライは父からの手紙と聞いても、別に起き上がるわけでもなく話を続けていた。
「ちょっと待て。まだ読んでもいないんだ。」
「じゃあ早く読んでよ。」
アザミはそんなダラけたナライを跨いでいつもの席に腰を下ろすと、早速手紙を読み始めたのだった。
そして黙読することしばし。
「……ふうん……そうか……。」
読了したアザミはため息とも鼻息ともつかない息を吐き出して渋い顔をすると、手紙をたたんで天を見上げていた。
「で?なんて書いてあったの?」
待ちかねたように聞いてくるナライ。
ナライはその間もずっとダラけていて、手紙のことも暇だから聞いただけのように振舞っていたが、実際にはちゃんと興味があったらしい。
「ああ。ヤクトはな――あ、いや。先にカヤを呼んできてくれ。一緒に話した方が面倒がない。」
「ん。分かった。」
アザミがそう命じると、ナライは素直に従っていた。
カヤは今、どこぞで一人あくせくと働きまわっているはずだ。
なにしろここに到着してから早数日。すぐに来るものと思っていたヤクトからの連絡は一向に来る気配はなく、さすがにじっと待つことが出来なくなったのだろう。
最初の二日ぐらいはぐっと耐えていたカヤだったが、三日目には我慢の限界が来たようで、今では必要のない仕事を無理に見繕っては動き回るようになっていたのだ。
そうしてナライを外に出して一人家に残ったアザミは……。
「……これ本当にあいつが書いた物なのか?あいつ、大丈夫なんだろうな?」
アザミは再び手紙を開いてその内容を今一度と吟味すると、心配そうに一人呟いたのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。しっかりしてるようで実は結構いい加減。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。口に物が入っていても喋る人。今この場に母がいないから怒られることもない。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。ちゃんとしてない人は嫌い。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。何故か再訪しなかった。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。間接的とは言え、超久々に出番ありけり。手紙書いただけだけど。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




