第三章之十七 一夜明けて
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。イサルの性格にちょっと引っ掛かるところが。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。悪ガキぶりが足りないから空気になりがち。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。良い子がたまにわがままになると目立つ。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。登場以来目立ちすぎ。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いけど出番は少ない。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
それから――
アザミのとりなしも空しく、イサルと夕食を共にすることに難色を示していたナライとカヤの二人。
特にカヤなどは面と向かって反対するようなことはしないくせに態度は頑なで、これにはアザミとしても放っておくわけにもいかず……。
「――ほら、イサル。お前の分。」
「あ、申し訳ないです。たまたま居合わせただけのおれにまでこんな……。」
「そういうのはいい。遠慮せずに食え。」
突き出された椀を恐縮しながら受け取るイサルと、遠慮は無用と声をかけるアザミ。
しかし、そんな様子の二人に苦々しい視線を向ける者が一人。それはカヤで、
「ふん。のんきにご飯なんて食べてないでさっさと帰ればいいのに……。」
「カヤ。何か言ったか?」
「……何も。」
「なあカヤ。不満があるならちゃん言ってくれ。聞いてやれることなら聞いてやるんだから。」
「……ふんだ。なんでもないです。」
「……はあ……。」
――とまあ、食事中ずうっとこんな調子だったカヤに困り果てしまったアザミ。
しかしカヤのそんな態度も結局のところは、空腹に原因があったようだ。
いつもよりも美味しくなさそうに食事するカヤだったが、腹がふくれて体が温まってくると今度は睡魔に襲われたらしく、おもむろに横になったかと思うと、
「すう……すう……」
と、それまでの邪気はどこへやら。幸せそうな寝顔を見せながら眠ってしまうのだった。
それでその夜は何事もなく過ぎて――
――翌朝。
「お世話になりました。」
「おう。確かに世話が焼けたな。」
まだ夜の昏さの残る秋空の下。玄関先に立ったアザミは、頭を下げるイサルに冗談半分に憎まれ口を叩いていた。
「ホント最初見た時は酷いもんだったもんなあ。あの時はとんでもない奴が乱入してきたって思ったもんだが……。」
「あ、いや。それはホント申し訳ないことで……。」
「ただの冗談だ、謝るな馬鹿。お前、何かっちゃあ謝ってるな。」
「ハハ……申し訳ないです。」
わざとなのかついなのか、とにかくイサルはこの癖を改める気はないようだった。
そして話題変わって、
「……で、本当にナライとカヤは起こさなくていいんだな?」
アザミは「見送り不要」と、淋しく出て行こうとしていたイサルに気を遣った。
見上げれば、空は藍色から少しずつ少しずつ青色を強めようとしているところだ。
遥か天空がそんな具合なのだからその藍色の下、大地に眠るナライとカヤが起きていようはずもない。
しかしイサルは、そんなアザミの気遣いも無用のこととばかりに朗らかに言う。
「はい。せっかく寝てるんだからわざわざ起こさなくていいですよ。それに、おれなんかのために起こされたと分かったら二人とも却って不機嫌になるでしょうし。」
「ふはっ……」
自分の立ち位置と言うものをよく理解している。そんなイサルにアザミは思わず苦笑させられていた。
そうして暗い屋内に目を向けて見れば、やっぱりと言うべきか、二人ともぐっすりと眠っている様子だ。
久しぶりの我が家に安心しきっているのか、二人ともいつもより寝相が悪そうだ。
「確かに。あれじゃ起こしたところで怒り出すだけだな。」
「でしょう。それじゃあおれは行きます。二人が起きてしまう前に――」
イサルはそう言うと発とうとした。しかし……。
「あ、待て。最後に一つ。」
「はい?」
「お前、大丈夫なのか?」
「何が、ですか?」
イサルはふいに突き付けられた話題の意味が判らずに首をかしげた。
しかしアザミの方だって、たったそれだけの言葉で話が通じるとは到底思ってはいない。
「深沢での生活の話だ。はっきり言うが、俺にはあそこはお前には合ってないって思えるんだが。」
アザミは遠慮なしに自分の考えを伝えていた。
イサルに討伐隊は向いていない。――これはあくまでもイサルを一見しただけの評価ではあった。しかし、アザミはこの評価については確信に近いものを持っていた。
このイサル。つい昨日からの本当にごく短い間の付き合いではあったが、そのわずかな付き合いの中でも極端に違う二つの性格を見せている。
一つはやたらと生気が過剰になっているのか、理性よりも感情が先に立ってアザミたちを振り回していた状態。
そしてもう一つは理性的で落ち着きがあり、有望な若手として周囲の期待に応えられる振舞いができている状態。
アザミは経験上、どこかしらで無理をしている奴ほどそういう二面性を持ってしまうことがあることを知っていた。そしてそれは放置しておくと、良くない方向に転がるということも……。
しかしイサルはそんなアザミの心配もどこ吹く風のようだ。
「いえ。お気遣いはありがたいですが大丈夫です。毎日大変なのは確かですけど、その分やりがいもありますし。」
と、変わらない朗らかさで返事するイサル。
確かに、今のイサルを見る限りでは、彼の中の目に見えない何かに不具合があるようにはとても見えない。
しかし……いや。だからこそ――
「……そうか。俺の杞憂だったならそれでいい。悪かったな変なこと言って。」
アザミはそれ以上追及しようとはしなかった。
今、自分がなんのかんのと忠告してみたところで、イサル自身が自覚していなければ意味を為さないのだ。
それに、これはあくまでも討伐隊以前のイサルを知らないアザミの私見に過ぎず、見当違いの線もまた否定できない。
「それじゃあ行きます。あ、お弁当、ありがとうございました。」
「どうせ昨日の残りだ。遠慮せずに持ってけ。」
「はい、遠慮しません。――それじゃあ。」
そう言ってペコリと頭を下げたイサル。そしてくるりと背を向けると、今度こそ走り去って行くのだった。
「……行ったか……。」
イサルの背をしばらく見送っていたアザミは、一つ息を吐くと今日の空模様を眺めていた。
どこまでも見渡せてしまえそうな秋の空。今日も清々しいぐらいの晴れになるだろう。
「……よし。寝るか。」
アザミはそう呟くと家に戻ろうとした。
旅の間、ナライたちの前では余裕綽々な態度を崩さなかったアザミだが、実際はそれなりに疲れていた。
特に今回の旅などはナライの看護に費やした疲労が馬鹿にできないぐらいに溜まっていて、休めるのなら休んでおきたいというのが、ここ数日のアザミの本音だったのだ。
だから旅の終点にいる今日こそは思い切り眠ってしまおうとするアザミだったのだが、そんな彼と鉢合わせになるように奥から人影が出て来て――
「おはよー、おとーさん……。」
そんなふうに、寝ぼけた声をかけてきた人影とはカヤだった。
「……お、おう。」
おとーさん――寝ぼけた子どもの失言とはいえ、そう呼ばれてしまったことに何とも言えない淋しさを抱いたアザミ。
「起きちゃったのかカヤ。まだ寝ててもいいんだぞ。」
しかしアザミ。そこは大人としてすぐに気を取り直すと、何も聞かなかったように返事をする。
見ればカヤは本当に寝ぼけているらしい。体がふらふらとして所在ない感じで、今にもその場に寝てしまいそうだ。
「おとーさんなんでおきてるの……?」
「俺か?俺は……いや。そうだな。父さんも寝るところだよ。さあ、お前ももう少し寝ような。」
「うん。」
こうしてイサルを送り出してから二度目の寝床に就いたアザミ。
しかしカヤに「おとーさん」と呼ばれた衝撃は思いのほか大きく、眠りに就くことはちょっと難しそうだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。知人が多いのでイサルみたいな人の危うさも知ってた。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。悪ガキぶりが足りないから空気になりがち。言うほど悪ガキじゃないってことか。(いまさら)
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。拗ねた。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。こういう二面性には注意が必要。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いけど出番は少ない。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




