第三章之十六 兄妹とイサル
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。なんだか齢食っただけの子どもに見えないこともない。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。性格にあまりブレがない。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。でもそのせいで今日は苦労が絶えない。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。今は極めて常識的に振舞っている。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いな……。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
「――とにかくっ!もうそういうことだったんですっごくすっごく大変だったんですっ!終わりっ!はあ……。」
結局、あーだこーだとおとなりさんへの不満をグチグチと全部言い切ってしまったカヤは最後に上を向いてため息を一つ。
それで気が済んだのか、それまで眉間に表れていた険しさはすっかり鳴りをひそめていた。
「お、おう。そりゃ大変だったな。」
そんなカヤの苦労を、アザミは苦笑しながら労わった。そう言いながらも、心の中ではそんな面倒なことについて行かないで済んだ自身の幸運に感謝などもしていたが。
すると次に口を開いたのは、それまでナライたちの会話を黙って聞いているばかりだったイサルで、
「それは大変だったなあカヤ。おれがその場にいればその、ナトリさん?にビシッと言ってやったのに。なんなら今からちょっと言ってこようか?」
イサルはカヤが困っている時こそ自分の出番だと一人息巻いている様子だった。
しかしカヤはうんざりしたふうにため息をついて言う。
「あのねえイサル。あんたみたいな変なのがこんな時間に急に押しかけて行ったら騒ぎになるだけでしょ。わたし疲れてるんだから、余計なことだけはしないで。」
「あ~、そう言われればそうかもなあ……。」
せっかくのいいところを見せる好機がふいになったイサルは残念そうに肩を落としていた。
するとカヤ。今のやり取りに何か違和感を覚えたようで。
「……?」
カヤはどうにも正体の分からない違和感に怪訝そうに首をかしげていた。そして……。
「うぇっ!?イサル!?ウソっ!やだっ!」
「あっ、イサル!お前、起きてたのか!?」
違和感の正体に気付いたカヤは、まったく同じ疑問を持っていたらしいナライと一緒になって騒ぎ出していた。
それから慌てたカヤはまるで猫みたいに後ろっ飛び。兄の後ろに回って、まるで天敵から身を隠す野ネズミみたいにイサルの動向に注目するのだった。
しかし予想外の事態になって驚くのはイサルだって同じことなわけで……。
「ええ?二人とも気付いてなかったの?おれ、最初っからここに座って話聞いてたんだけど?」
「ウソつけよ。お前が黙って座ってるなんてできるわけないじゃん。」
「いや待って。おれだってそれぐらいのことできるからね?」
イサルはナライの主張に落ち着いて異議を唱えていた。
しかしナライはそれでも強弁する気のようで。
「ウソだあ。だってオレ、お前が黙ってるトコなんて一度も見たことないもん。」
「いやいやいやいや、ナライ。さすがにそんなはずないって。」
イサルはナライの無理筋の主張に苦笑しながら応えていた。
「第一さあ考えてみなよナライ。仮におれがそんな嘘ついたとしてさ、それでおれに何の得があるんだ?」
「それは……。」
冷静なイサルの反論にナライは早くも返す言葉を失ってしまったようだった。
しかしどうしても負けを認めたくないのか、ナライはくるっとアザミの方に首を回すと、
「アザミ!こいつ本当に――」
「ああ。イサルは最初からそこで話を聞いてたぞ。」
アザミはナライの問いを皆まで聞かずに答えていた。そして続ける。
「俺はむしろ、なんでさっきはあんなにギャアギャアやりあってたお前ら兄妹が、今度はそんなにきれいに無視できるんだと思って感心してたんだが……。そうか、気付いてなかったのか。」
アザミは、この兄妹から本気でいないモノ扱いされていたイサルが不憫に思えてならず、イサルに目を向けた。
しかし当のイサル。そんな扱いも意外に気になっていないようで、
「いえね。実はおれ、なんか知らないんですけど昔っから黙ってじっとしてると誰にも気付かれなかったりするんですよね。」
と、慣れているのか実にあっけらかんとした様子だった。
「へえ……妙な特技持ってるんだなお前。」
「いやあ、特技って言うのともちょっと違うとは思うんですけど、まあそうです。」
「――だ、そうだ。分かったか、ナライ?」
「……。」
頼みのアザミにもあえなく振られて負けが決定したナライはムッとした表情をすると、そっぽを向いてしまったのだった。
ナライがあえなく沈黙すると、次に声を上げたのは兄の後ろに隠れて事態が好転することを祈っていたカヤだった。
「イサルがいつから起きてたとかそんなことどうだっていいんです。起きたんなら早く出てってよ。ここはわたしの家なんだから。」
カヤは、頓珍漢なやり取りに終始して不甲斐ない結果に終わった頼れない兄に代わって、自らイサルを追い出しにかかる覚悟を決めたようだった。
しかし、いくらカヤにそう言われたからと言って「はいそうですか」とはなれないのが今のイサルの立場と言うもので、
「いや、ごめん。」
イサルは実に申し訳なさそうにカヤの願いを断っていた。
「ホントごめん。それがカヤの願いだって言うんならすぐにでも出て行きたいんだけど、まだそうするわけにはいかないんだ。おれ、まだアザミさんと話さなきゃいけないこともあるし。」
「そう言う言い訳とかはどうでもいいの。わたしが言いたいのはとにかく今すぐ出てってってことだけだから。――あ、先生!先生も言ってください。ここはイサルがいていい場所じゃないって――」
「……カヤ。悪いが今はお前に加勢出来ない。俺もイサルにはまだいてもらう必要があるんだ。」
「えぇ!?」
いつだって自分の味方をしてくれた先生が助けてくれない。――思わぬ事態に泣きそうな顔をするカヤに、アザミは説明する。
「お前たちが帰ってくる前に簡単に事情を聞いておいたんだよ。こいつ、ヤクトの使いでここに来てるらしい。」
「お、お父さんの?ウソでしょ?」
父の使い。そう聞いて泣き色に加えて困惑の色までもが混じるカヤの顔。
「う~ん……まあ、お前は信じたくないかも知れんが、本当のことらしい。俺だって、さっきのあれはまだちょっと納得しきれてないしな。でも事情が事情だからしょうがない。だからカヤ。お前もここは一つこらえてだな……。」
「うう……。」
カヤは、父に会うためにはイサルの存在が必要だと聞かされて懊悩せずにはいられないようだった。
するとイサル。今のアザミの発言が引っかかったようで。
「……あ、あの、先ほどの件についてはホント申し訳なく思っていて――」
「しっ!黙ってろ。それはもういいと言っただろ。次謝ったりしたら張っ倒すからな。」
アザミは心底申し訳なさそうに話しかけてくるイサルを小突いて黙らせていた。
「――とにかくだ、カヤ。そんなわけだから、今のところはもうこれで終わりにしよう。どうしてもイサルに耐えられないって言うんなら、今度は俺も味方してやるから。な?」
「……。」
「ナライ、お前もだ。そう言うことでいいよな。」
「……。」
何も答えない兄妹だったが、アザミはそれを応諾と受け取っていた。
「さあ、もう時間も時間だし早く飯にしよう。」
こうして、途中一騒動あったものの、帰郷からイサルとの再会までに及んだ一日は無事終ろうとしていたのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。くそ真面目なイサルのことが嫌いじゃない。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。イサルはただのバカだと思ってる。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。イサルが嫌い。お疲れさま。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。ニンジャプレイに集中してればこれ以上カヤに嫌われなくて済むのでは?
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いな……。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




