第三章之十五 アザミとイサル
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。目的達成までもう一息。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。ブー垂れながらも近所に顔出しに行った。エライ。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。一行の中で一番気が利く。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。意外と常識人(?)
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いな……。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
「お前が隊だと?」
賊徒討伐隊の人間だ――イサルからその素性を聞かされたアザミはおおよそのことに合点したものの、どうにも納得できない部分があってそのまま受け入れることができなかった。
「一応確認するが、お前の言う隊ってのは一年前に結成されて、今も深沢に陣を構えて賊徒とやり合ってるあの討伐隊ってことだよな?」
「はい。おれの言う隊って言うのは一年前に結成されて、今も深沢に陣を構えて賊徒とやり合ってるあの討伐隊のことです。」
自分の言葉の一言一句、違わずに返してきたイサルを前にアザミは天を仰いでしまった。
「やっぱりそうなのか……。」
失望なのか安堵なのか。自分でもよく分からない感想がつい口から漏れてくるアザミ。
するとイサルは、そんなアザミに追い打ちをかけるように口を開いて――
「これでもおれ、一応タイショーの直臣でやらせてもらってるんですが……。」
「おおい、ウソだろ?お前みたいなのがか?」
イサルの発言を聞いたアザミは、もう唸るしかできなくなってしまうのだった。
(伊指のイサルか……。そう悪い奴じゃないのは何となく分かったが、それにしたってよくもまあこんな奴を……。)
次の句が出て来ずに沈黙してしまったアザミだったが、そうやって考えていたのは、なぜイサルは討伐隊の本営から離れたこんな場所に来たのかということだった。
アザミが考えるに、このイサル。こいつはヤクトが自分たちと連絡を取るために用意した連絡要員だ。
ナライとカヤをヤクトに引き合わせると決めた当初、連絡は日に一度アザミがヤクトに入れることになっていた。
しかし実際に旅を始めて見ると、きちんと連絡を入れていたのは最初の数日間のみですぐにやめてしまったアザミだ。
アザミが連絡を取るのをやめてしまった理由。
それは、例の鹿頭一味との遭遇やらなんやらでそれどころじゃなくなっていたのも要因の一つだ。しかしそれ以上の要因として、元々単独で自由に行動することを好むアザミの性格によると言うのが大きいのが実情だった。
そしてその結果、ふいにアザミたち一行からの連絡が途絶えたことを危惧したヤクトが打った手段を言うのがこのイサル。――それが、アザミが予想した答えだったのだが……。
「――という訳です。」
それからイサルが語った事情は、大方アザミの予想したとおりのものだった。
「うん。そうか、分かった。それでお前はこんな所まで来たのか。」
「はい。」
「了解はしたが、今日で十九日目か……。」
呆れるやら申し訳ないやらといった渋い顔で呟いたアザミ。
聞けば、イサルがこうして深沢と氷見沢を往復するようになってから十九日経つと言う。
その日以来、今日まで毎日毎日深沢の本営と氷見沢のヤクト宅を一日二往復しているのだとイサルは教えてくれたのだが……。
(……旅程が順調なら確かにそのぐらいで到着してたな……。)
負傷したナライの回復を待つ。その間、ヤクトと連絡を取ることもせずに悶々とした日々を過ごしていたアザミだったが、それがまさかこんな形で第三者に迷惑をかけていたとは。
「済まなかった。俺のせいでお前が割を食っちまったみたいだな。お前には詫びをしなきゃならんか。」
「あ、いえ。とんでもないです。それにこれ、タイショーが『特に』って他の人たちには秘密で任せてくれたおれだけの任務ですし。それに行き帰りに走れば訓練にもなるって考えたら、詫びなんてそんな……。」
頭を下げたアザミに、イサルはブンブン手を振って応えた。
その様子から、深沢氷見沢間、片道七里の苦労なんてまったく苦労とは考えていないように見えて、だからアザミは――
「……。こまっしゃくれてるな、お前。気に入らん。」
頭を上げたアザミはムスッとした視線でイサルを睨みつけていた。
「そうですか?」
「そうだよ、この優等生め。お前みたいな奴ほど最後まで生き残ったりするもんなんだよ。」
「あ……ありがとうございます!これからもそう言ってもらえるようにおれ、目一杯精進に努めます!」
「ふん、別に褒めてないからな。本当お前、ヤな奴だな。」
イサルに対してはっきりと嫌悪を表明したアザミ。
しかしその言葉とは裏腹に、アザミはこの愚直なまでに真直ぐなイサルにある種の好感を抱き始めていたのは確かだった。
そんな感じで、危惧されていたイサルとの再衝突も無事回避したアザミ。
それからそのまま夕餉の支度に取り掛かっていると、外から聞こえてくるのはナライとカヤの話し声だった。
「うっへえ~、腹減った~。なあカヤ、今日のメシ何だと思う?」
「……あのさあ、お兄ちゃん。家に帰ったってお母さんいないのにそんな話してどうするの?」
「あ……そうだったっけ。……じゃあやっぱり今日も乾き物だけなのか?」
「知らないけど、多分そうなんじゃない。」
「ええ……オレ、あれ飽きたよもう。」
「ふふん。そんなに言うんなら自分で何か作ってみれば?」
久しぶりの我が家に気が緩んでいるのか、まるで一年前に戻ったみたいな怠めの話し声が聞こえてくる。
「た~だいま~。アザミ~、腹減ったよ~。」
「よう、お疲れ。」
以前と変わらないようなやり取りの中にも、ちゃんと挨拶が混じるようになっている。
アザミはちょっと懐かしいような寂しいような奇妙な感覚になりながら、帰ってきた二人に労いの言葉をかけていた。
「ねえアザミ~、今日のメシ何?干肉も干魚も飽きたし、違うのがいいんだけど。」
「だったら自分で作ればって言ってるでしょ。あ、先生。ただいま帰りました。」
「応。お帰りカヤ。――それよりお前たち一体どこまで行ってたんだ?ずいぶん時間食ってたが。」
「え~。オレ時間よりメシ食いたいんだけど?」
「我慢しろ。話が終わったらすぐに食わせてやるから。」
「なんでもいいから早くしてよ。」
ナライは鳴き止まない自分の腹を慰めるようにさすりながらその場に座り込むと、それっきり黙ってしまっていた。
だからその話を引き継いだのは、当然カヤだ。
「えと、顔を見せに行ったのはナトリさん家だけです。」
「ナトリってたしか隣家だったよな。にしちゃあ、遅すぎるみたいだが?」
「あ、はい。それにはちゃんと訳があって……。」
そう言ったカヤは、ちょっと嫌そうな表情をしながら続きを話すのだった。
「ナトリさん家って、一家そろって話し出すと止まらない人たちなんです。わたしもいつもならこんな時間に行かないように気を付けてたんですけど……今日はその。ちょっと……。」
「ああ、なるほど。それでこんなにかかったのか。そりゃ災難だったな。」
アザミはカヤの苦労を察して労っていた。
するとそれを聞いたカヤの表情が一転。堰を切ったように愚痴が飛び出してきて……。
「ホンットそうなんですよ。まったくなんであそこの人たちっていつでもうんざりするぐらい話が長い――あ、いや。そうじゃなくて。うんざりって言うほどのことでもないんですけど、ただホント『加減』ってものを覚えてほしいって言うか、空気読めって言うかじゃなくて――」
愚痴りたい本心と、いつもどおり澄ましておきたいに建前のせめぎ合いに忙しい様子のカヤ。
しかし一日の終わりにさすがのカヤも気疲れしているのだろう。今日ばかりは本心の方が優勢で、それはもう揺るぎそうにない。
「別にあの人たちも悪気がないんだっていうのは分かってるんです。でもだから余計に腹が立つって言うか、そうじゃなくて腹は立たないんですけどイライラするって言うか――」
「……。」
珍態を見せ続けているカヤ。アザミは思いがけず見られたその幸運をもうしばらく堪能することにしたのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。見た目は大人。中身は……まあそれなり。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。空腹で動けなくなるタイプ。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。ストレスをため込むタイプ。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。第一印象が極端に分かれるタイプ。
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いな……。
鹿頭 ……ナライを襲撃して負傷させた賊徒たちの首領。アザミ一人に賊を壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
ナトリ ……ナライの家のおとなりさん一家。秒で思い付いた名前。多分もう出てこない。基本田舎なのでおとなりと言っても結構遠い。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




