第三章之十四 イサル、起きる
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。ナルシスト率10%ぐらい。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。アザミに悩みを打ち明けたら笑われた。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。でも水汲みは長い。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。アザミに襲い掛かって返り討ち。お寝んね中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
自意識過剰とも言える悩みを抱えるアザミが、何も知らずに不思議そうな顔をするナライにある種の恨めしさを感じていると、当のカヤが水汲みから戻ってきたところだった。
「ただいま――行ってきます。」
「え?あ、おい。どこ行くんだ?」
水を置くなり出て行こうとするカヤを呼び止めたアザミ。
「おとなりさんに顔を見せに行ってきます。まだ帰ってきたこと言ってなかったから。」
「あ。そうか……うん。」
カヤの言い分に、何となく視線を泳がせてしまったアザミ。
ご近所への挨拶。ほんの数日間だけの一時帰宅とは言え、帰ってきた以上はたしかに必要なことだろう。
いい大人がそんなことすっかり忘れて……と言うよりも、そんなことなど端から頭になく、子どもの方が気がついていようとは。
自分の気の回らなさ加減に気後れしながら、どうにか大人らしい平静さを装うアザミだ。
「それは分かったが、明日でもいいんじゃないか?今から行っても遅すぎやしないか?」
悠長に掃除なんかしていたせいで、もう日は傾いていた。
しかしカヤは反論する。
「でもほんの二三件にだけですよ?それに一日経っちゃうとなんかメンドクサくなっちゃって、いいやってなっちゃいますし。だからやっぱり今行った方がいいと思います。」
「ふうむ……ま、それもそうか……。」
アザミは簡単に折れていた。カヤの言い分は一々尤もで、自分の主張よりも明らかに理があった。
「よし。それじゃあナライ。お前も一緒に行ってこい。」
アザミは、それまで事の成り行きを見守っているだけだったナライに声をかけた。
「え?」
「そこの変なのは俺が見ててやる。」
と、未だに目覚めないイサルを顎で差して促すアザミ。
「ええ!?ヤだよメンドクサイ。アザミが行けばいいじゃん。イサルはオレが見てるからさ。」
「バカ。余所者の俺が一体誰に向かって『ただいま』するんだよ。お前が行くから意味があるんだろう。いいからさっさと行ってこい。」
「ちぇ、分かったよ。」
しぶしぶといった感じで頷きながらナライは立ち上がっていた。
こうして二人を送り出したアザミ。しかしそれが正しい判断だったのか、面倒事と言うものはこういう時にこそ起きるもので……。
それは二人を送り出して手持ち無沙汰になったアザミが、湯を沸かそうと火を起こしにかかった時のこと。
「――うう~ん……。」
それまで気味が悪いぐらいにうんともすんとも言わなかったイサルが不意に唸りだしたかと思うと、目を覚ましたのだ。
「あれ?ここは……?」
「気が付いたな。どうだ、気分の方は?」
間の抜けた表情で状況を理解しようと努めるイサルと、そしてそんなイサルに声をかけたアザミ。
するとイサルは――
「ん?――ああっ!あんたはっ!?」
イサルはそんなアザミの存在に気付くとほんの一瞬だけ思案して、そしてすぐに先程のドタバタを思い出したのか、キッと身構えていた。
「あんた……確か……カヤの……!」
「……ふうん。その様子じゃあさっき何があったのかもちゃんと憶えてるようだな?」
イサルの敵意などまったく意に介さないアザミはつまらなそうにそう答えていた。
しかしそれも当然と言えば当然。先の顛末からも知れる通り、イサルとアザミとではその実力に天と地ほどの差があるのだ。
もしイサルが懲りずにまた暴れ出したとしても、その時はまた眠ってもらうだけ。そう思えるだけの力量差があればこそ、アザミも彼の敵意に無関心でいられるというものだ。
「あんた……カヤの……。」
「で?どうするんだ?」
ギリリと歯噛みして今にも飛びかかろうとするイサルに淡々と尋ねるアザミ。
アザミの眼中にイサルはなく、その瞳には起こしたばかりの火が写り込んでいる。
そんな傍若無人な態度のアザミに、イサルはついにその握った拳を振りかざして……。
「すみませんでしたぁっ!」
イサルの取った行動は、アザミにとってちょっと予想に反したものだった。
「お?」
「ほんっとにどうもすみませんっ!先ほどは大っ変な失礼をしてしまいまして!」
「あ、ああ。……うん。そうだな。」
地面にめり込みそうなぐらいにぐりぐりと額づいて謝るイサルと、戸惑いを隠して受け答えるアザミ。
少し前までは完全に不審者・暴漢の類だと思っていた奴が襲ってこない。――イサルのことをよく知らないアザミにしてみればそれだけでも驚きだったが、それ以上に驚いたのがこの暴漢まがいが頭を下げた。つまり謝罪の形やら礼節やらをちゃんと知っていたと言うことだ。
「ほんっとに申し訳ないですっ!なんてお詫びすればいいのかっ!」
「あ、おう。うん。まあ、いいさ。そんなにしなくても俺は気にしてないが……。」
「いえっ!気にしてないはずがありませんっ!おれ、さっきは本気であなたを殺そうとしたんです!そんなに危険な目に遭ったのに『いいさ』で済まそうだなんて!」
「お、そうなのか?でもなあ、そうは言っても俺にしてみれば言うほど危険も感じなかったぞ。」
何だか毒気を抜かれて、間の抜けた答えを返したアザミ。
しかしアザミの答えは事実だった。
こう言ってはなんだが、高々イサル程度の腕っぷしではそれなりに場数を踏んでいるアザミをどうこうするなんてことできるはずがない。
だから「襲われた」だの「危険」だのと言ったところで、アザミにして見れば野犬に飛びかかられた程度の感覚でしかなく。
しかしイサルは――
「そんなはずないでしょう!おれは本気だったんです!あなたは大変な危機を感じたはずで、そんな見え透いた気休めはやめていただきたいっ!」
「……。」
何だか一方的に捲し立てるイサルに、アザミは口を噤んでいた。
(ちょっと……いや。かなり面倒臭い奴だな。まあ、そんな奴だろうとは薄々感づいてたけどな……。)
あまり関わりたくない型の人間に関わってしまった。そう悟ったアザミ。
そしてそう思うが早いか、アザミは今もなおもあーだこーだと釈明し続けているイサルのことを迷いなく張り倒したのだった。
「なあ。分かってもらえなかったみたいだからもう一回言うがな。」
ドターンと必要以上に派手にひっくり返ったイサルに、アザミは怒るわけでもなく淡々と言い聞かせた。
「――俺はな。『その話はもうこれ以上掘らなくていい』って言ったんだ。だからこれ以上その話をするなよ。それでもまだウダウダ言うようならお前にはまた眠ってもらうことにするからな。」
今度は三日三晩うなされ続けるようなキツ目のヤツを食らわせる。口には出さなかったがそんなことを考えながら言って聞かせたアザミ。
「あ……はい。すみませんでした。」
アザミの言外の意図を感じ取ったイサルは顔だけ起こしてどうにかそう返事していた。
そしてそれを聞いて納得したアザミは手を差し延べがらこう言う。
「よし。じゃあ、俺からお前に一つ質問だ。……お前は一体何なんだ?ナライたちとは顔見知りみたいだったが、間違いないんだよな?」
「あ、はい。そうです。」
アザミに引き起こされながら返事をしたイサル。そしてきちんと座り直すと改めて自分の身の上を語り始めたのだった。
「申し遅れました。おれの名は伊指のイサル。ナライとは昔っから友人で、今はヤクト大将の下で一兵士として賊徒討伐隊に参加している者です。」
「お前が隊だと?」
それだけ聞いたアザミは、この男の正体にいっぺんに合点がいっていた。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。ナルシスト率10%ぐらい。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。嫌なことを引き摺らないタイプ。
カヤ ……主人公・妹。兄より器量がいいし、要領もいい。嫌なことを隠し通すタイプ。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。一番キャラが立っている。どうしてこうなった?
ヤクト ……ナライとカヤの父。アザミの旧友。イサルの上長。肩書多いな……。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




