第三章之十 イサル(二)
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。自分で提案しといてなんだけど、掃除が面倒臭い。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。掃除もイサルも苦手。
カヤ ……主人公・妹。兄よりも要領がいい。掃除は好き。イサルは……。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。鬱陶しい。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。
「ところでさ、ナライ。……なんだ……その~……き、今日はいい天気だよな?」
「は?」
ナライが、目の前で散らかされ続けるイサルの話を無視していると、イサルは急に話題を方向転換。天気について話し始めていた。
だからナライは、そのあまりの不自然さに思わずイサルに注目してしまったのだが……。
(何モジモジしてんだ、こいつ?)
落ち着かない様子のイサルに、そんなことを思ったナライ。
(小便か?)
だったらサッサと自分家に帰ってしたいだけすればいいのに。
天気の話とのつながりはサッパリだけど、とりあえずイサルを追い払いたくてしょうがないナライなのだ。
しかしナライの気持ちなど知るはずのないイサルは――
「あ~……ア……アレ、は……来てないのか?」
と、天気の話はどこへやら。
ナライの回答も待たずに、またしても話題を転換。全然要領を得ない質問をしてくるではないか。
こうなると、如何にナライが意図的に話を聞かないようにしていても、興味を持たずにはいられないと言うもので。
「は?アレ?」
「ほら、アレだよ。分かってるだろ?だからその、ア、アレだよ、アレ……。ナライがいるってことは、ほら!その~……ナライの……か、家族とかも一緒に来てるんじゃ、ないのかな~、なんて……ハハハ……。」
「ああ……。」
ようやくのことで察したナライ。
――イサルは以前からカヤにご執心だった。
四つも下の子どもに熱を上げるのもどうかと思うが、それはさておき今のイサルは、こっちをチラ見してはそしてすぐに視線を彼方へと向ける。と、そんなふうにとにかく落ち着かない様子だ。
それだけカヤに会いたいと言うことなのだろうが、ナライにしてみればまどろこしいことこの上ない。むしろその態度に不快感すら覚えるぐらいだ。
だからこんな奴の期待に応えるなんて、実は結構癪なナライなのだけれど……。
「カヤ!ちょっと!」
しかしナライはイサルの期待に応えていた。
このままイサルの相手をし続けるのも、正直ちょっとキツいものがあったのだ。
だから自分の身代わりとしてカヤを呼びつけてやったのだが、その言葉に目を輝かせたイサルが視界に入って、ナライは余計にムカついたのだった。
「なーにー?」
家の中から聞こえてきた妹の声に、ナライはちょっと悪いことをしたような気になっていた。しかし――
「ちょっと来て!用事がある!」
と、いったん決めたことは完遂する無情のナライ。
すると何も知らないカヤが家から出て来てナライに言う。
「なーにお兄ちゃん。わたし今ちょっと忙しいからあんまり難しいことは自分でやって――って、ゲッ!?」
カヤはイサルの姿を見つけると、露骨に嫌そうな顔をして言葉を詰まらせていた。
しかし想い人の登場に、イサルはそんな態度でも全然気ならない……いや。それどころか、嫌悪を示されたことすら気付かないぐらい舞い上がっているようで。
「おおっ!カヤ!」
「え!?なんで!?ウソでしょ!?」
「いやあ、逢いたかったぞカヤぁ!相変わらずきれいだなあ!いいや、前逢った時よりもきれいになったんじゃないか?うん。そうだ。きれいになったよな。たぶん十割ぐらいは。」
イサルの存在に動揺するカヤに、全然届かない褒め言葉を構わず送りまくるイサル。
「ちょっ、お兄ちゃんっ!なんでイサルがいるのっ!?」
こんなのの相手してらんない。――説明を求めるカヤの悲鳴みたいな言葉。
するとナライは、確かこんな事情だったはずだと語り始める。
「えーと……。確かイサル、一回は兵士んなったんだけどさ……あ~……で、クビ?になっちゃったんだってさ。……ん~……で、だから家に帰る途中だったんだけど、たまたまウチの近くを通ったらオレを見かけたから寄っただけ……だったっけ?」
「あ。そ、そう……なんだ……ふ~ん……。なんて言うか、その、残念だったね。元気出して。」
ちょっと可愛そうな事情を知らされて、カヤは思わずイサルに気を遣っていた。
いくら相手がイサルだからって、こんな傷心の状況であんまりきつく当たるのも悪い気がしたのだ。
しかしそんなカヤたちにイサルは――
「違うよ!?ちょっとナライ。何言ってくれてんの!?カヤ、それウソだから信じないで!」
と、そんな気遣いは無用に願うと、ナライの話を否定するではないか。
「え?あ、そうなの?」
「あれ?違ったっけ?」
「全然違うよ!」
「だってお前、さっきから『退場』『退場』って言いまくってなかったっけ?だからオレてっきり……。」
「はぁ?」
ナライの言い訳にイサルが眉をひそめる。
――しかしまあ、イサルの話に関心を持ちたくなかったから、ほとんど何も聞いてなかったナライなのだ。だからそれっぽい単語が頭の隅っこの方に残ってただけでも実は中々の快挙のようなものなのだが、イサルがそんなことを知るはずもなく。
「おれがいつそんなこと言っ……ああ!違うそれ!『退場』じゃない!『タイショー』な!タ・イ・ショ・ウ!」
それでもナライの聞き間違いに気付いたイサル。イサルはこれでもかと言うぐらいに念を押していた。
しかし、それだけやってもナライの関心を勝ち得ることは容易ではない。
「あっそ。で、『タイショー』って?」
「ナライのお父さんのことだよ。初日にみんなを集めて挨拶した時、お父さんが『今日から俺はタイショーを名乗る』とかそんな感じのこと言ったんだよ。最初はみんなちゃんと『なんとかタイショー』って呼んでたんだぜ。でもさ、『なんとかタイショー』って結構長くて呼ぶのメンドクサイし、覚えられない奴も結構いたんだよな。そんなだったから結局、今じゃみんなが簡単に覚えられるようにって、ただ『タイショー』って呼ぶようになったんだ。」
「ふうん。要は呼び方をちゃんと憶えらんなかった奴から退場になってくって仕組みなんだな?」
「だから違うって!何聞いてたらそうなるの!?おれは退場させられてないし!」
結局、どれだけ言葉を尽くして言い聞かせてみても、ちゃんと聞く気のない相手には意味のないこと。
そのことにイサルが気付くのは、まだもうちょっと先の話。
「――ねえカヤぁ。この困ったお義兄ちゃんをどうにかしておくれよ~。」
どうあっても話を聞いてくれないナライに、イサルが言葉に含みを持たせながらカヤに助けを求めていた。
しかし、なるべくイサルとは関わりを持ちたくないのはカヤも同じ。
「あっ!ちょっ、ヤだ!こっち来ないで!それ以上近付いたら大声出すからね。」
だから、けんもほろろに釣れない態度のカヤだ。
しかしそんなことぐらいで引くぐらいなら、イサルがこれほどまでにこの兄妹からウザがられることもないわけで。
「そんなヒドイこと言うなよ~。未来の旦那さまが困ってるんだからさ~。な?」
「なんでイサルがカヤの旦那さまなのよっ!――あっ、ちょ、だからこっち来ないで言ってるでしょ!」
ちょっとずつ間合いを詰めてくるイサルと、ちょっとずつ退がるカヤ。でも家を背にしているカヤには逃げ場なんてそれほど残されていない。
「なあカヤぁ。頼むからそんなこと言わないで、一緒にお義兄ちゃん説得しよ?」
「うるさい!それ以上こっち来んな!――もうっ!先生!助けてえ!」
いよいよあとがなくなったカヤは、最終手段とばかりにアザミを呼んだのだった。
「なんだ一体?ナライが外で騒ぎ出したと思ったら今度はカヤまで。俺はな、お前たちがこんな寝床じゃ嫌がると思ったから掃除しようって言ったんだ。なのに肝心のお前たちが――うおっ!?」
実は一人で掃除していることが不満だったらしいアザミ。グチグチ小言と一緒に姿を現すと、突然カヤに盾にされたことで少し慌てたようだった。
「どうした?何事だ、カヤ?」
「先生。この人、追っ払ってください。変質者なんです。」
「は?」
事情が呑み込めないままカヤの指差す方を見たアザミ。そこには知らない若者の姿が。
「こいつが?その?」
「はい。その人、変質者なんです。だから早く追っ払ってください。」
カヤの返事に困惑するアザミ。
そう言われたからって、「はいそうですか。」となれるわけがないのだ。すると傍でやり取りを聞いていたナライは――
「へー、イサル。お前、そうだったんだ。そっかあ、どおりで……。」
と、ナライには思い当たる節があり過ぎるようで、ニヤニヤしているではないか。
しかしそんなこと、変質者に指定された当人はたまらない。だからイサルは当然反論だってするわけで。
「何言ってんの二人とも!?俺は変質者なんかじゃないし。むしろカヤの頼れる旦那さま。ナライの可愛い義弟さんだし。」
『はあっ!?』
しれっと言って退けたイサルの妄言に、ナライとカヤの怒号がぴったりと重なっていた。
しかしイサルはそんな兄妹が反論をする前に、アザミに向かってこう言い放つ。
「てか、そこのアンタ!あとからノコノコ出て来て随分おれのカヤと親しそうじゃないか!旦那のおれを差し置いてそんな羨まし――じゃなくて、不逞な真似しやがって!アンタ一体どこの誰なんだ!」
イサルは突然現れたアザミが気に食わなかったようだ。
自称・カヤの旦那のイサルは、その背中に愛する妻を隠してしまったアザミをビシッと指差して、まるでやっと遭遇した因縁の恋敵みたいに誰何するではないか。
しかし、そんな事情など知る由もないアザミだ。だからただ、問われたことに答えようとしていると……。
「おう?俺か?俺は――」
「先生はカヤの旦那さまですっ!」
アザミの背後から発せられた衝撃の告白。
それはまだまだ暑い秋の始まりに、アザミの世界が凍り付いた瞬間だった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。兄妹を父と逢わせるために引率中。この人不幸体質と言うか、巻き込まれ体質なのか?
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷するも回復。妹を売り渡すな。
カヤ ……主人公・妹。兄よりも要領がいい。付きまとい被害者。
イサル ……自称・ナライの友人。伊指の人。ナライの兄貴分気取ってるけど、全然そう思われてない。このままじゃやべー方向に振り切りそう。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。しばらく出てこない。
深沢 ……主人公兄妹の父が賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。今いるトコ。
伊指 ……氷見沢のすぐ隣にある大集落。てか町。むしろ氷見沢の方が伊指のおまけ的な立ち位置にある。




