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北天のアリス  作者: 埼山一
第三章 帰郷~再会
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第三章之七 帰宅

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。兄妹を父と()わせるために引率(いんそつ)中。

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒(ぞくと)から妹を護って負傷するも回復。一年ぶりの故郷にキョロキョロしがち。

カヤ  ……主人公・妹。兄よりも要領(ようりょう)がいい。一年ぶりの故郷にそわそわしがち。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。


柴馬(しま)  ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。

深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父が賊徒討伐(とうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。


 それから。一行(いっこう)は何事もなくヤクト(たく)へと到着していた。

 そしてそのことを一番喜んでいるのは当然(とうぜん)、一年ぶりの帰宅を果たせたナライとカヤの兄妹だ。しかしいざ自分家(じぶんち)に着いてみると、二人はなぜか呆然(ぼうぜん)とするばかりで……。


「ねえ、お兄ちゃん?」

 呆然と自宅を(なが)めていたカヤが、ナライに話しかけていた。


「うん?」


 そしてそう(こた)えたのは、やっぱりカヤと同じような格好で呆然と自宅を眺めるナライだ。

 その返事を聞いたカヤは言う。


「草。ボーボーだね。」

「うん。」

「畑もお庭も……みーんな、草ボーボーだね。」

「うん。」

「あとお(うち)も。」

「……。」


 二人が呆然としていた理由はそこだった。




 氷見沢住人(ひみさわのじゅうにん)ヤクト宅。――ここは確かに自分たちが生まれ育った自分たちの家だった。その証拠(しょうこ)庭先(にわさき)に生えた(かき)の木が、一年()っても変わることない姿で自分たちを出迎(でむか)えてくれている。

 でも、ここが自分たちの家だと言える証拠はそれだけ。

 久ぶりに帰ってきたこの家。しばらく来ないうちに庭はただの荒地(あれち)へと変わり、家の壁はところどころに()がれ(くず)れがあって、畑に(いた)ってはかつての面影(おもかげ)など微塵(みじん)も感じられないぐらいに雑草(ざっそう)蔓延(はびこ)った「野性味(やせいみ)あふれる草木の楽園」に様変(さまが)わりしていたのだ。




「ねえお兄ちゃん。ウチってこんなだったっけ?」

「……。」


 その問いにナライは何も言えなかった。

 本当にここは自分家か?――どれだけ見回しても、ハッキリと自信をもって答えられるだけの要素がこの家には見当たらなかったのだ。




 その一方で、一人(ひとり)家の周りをぐるりと観察して戻ってきたアザミ。


「ふうん。想像(そうぞう)してた以上だなこれは。たった一年でこれか。」


 そう言ったアザミはどこか楽しそうな様子だった。

 変わり果てた自分の家に愕然(がくぜん)とするしかない兄妹(きょうだい)とは違い、他人のアザミにとってはこの荒れようもちょっとした娯楽(ごらく)みたいなものだったようで……。だから失望(しつぼう)するどころか、むしろこの荒れっぷりが興味深(きょうみぶか)くてしょうがないといった感じが(かく)せていないのだ。




 このナライたちの家。――空き家の宿命(しゅくめい)だとは言えばそれまでだが、見事なまでに荒れ果てていた。

 住む人がいないのだから当然(とうぜん)のことではあった。しかしそれを考慮(こうりょ)してもなお(ひど)いと言えるのが屋根だ。

 この、かつては茅葺(かやぶき)だったはずの屋根。今じゃ草生(くさは)放題(ほうだい)苔生(こけむ)し放題で、その様子はまるでどこぞを流れる川の土手だ。

 ちょっと放っておくだけで、すぐに荒れてしまうのが茅葺の致命的(ちめいてき)弱点(じゃくてん)だとは言え、これほどまでに植生(しょくせい)豊かに育った屋根と言うのも、なかなか希少(きしょう)な物ではあった。




「はは、こりゃ来春(らいはる)はなずなが大豊作(だいほうさく)だな。」


 特に際立(きわだ)って育っていたぺんぺん草を見つけたアザミが、そんな冗句(じょうく)を言っていた。

 しかしそんなことを言われて面白くないのはカヤだ。


「先生、なんか楽しそう……。」


 ムッとしたカヤは、アザミをジトっとした目で睨みつけていた。

 事情があって仕方なく離れた自分家を悪く言われて面白いはずがないのだ。

 そしてそういうカヤの視線で、ようやく自分の失言に気付いたアザミは――


「や!?いや。そんなことないぞ。俺だって久々のお前たちの家がこんなになって、悲しいんだからな。」


 思ってもいないことを騙り出すアザミ。

 しかし今さらそんな殊勝(しゅしょう)なことを言ってみても、すべては後の祭りと言うもので。



「なんかウソっぽいです。」

「うん。オレもウソっぽいと思う。絶対ウソだよな。」

「ね。ウソだよね。」

「イヤ、そんなことはない。そんなことはないぞ。さあ!いつまでもこんな所に突っ立ててもしょうがない。早く入ろう。」


 こうして子ども二人に()められたアザミは、話を有耶無耶(うやむや)にしながら閉ざされた戸を()けにかかったのだった。




「よっ!」


 アザミが力を込めて戸をこじ開けようとすると、その勢いに反して戸はすんなりと開いていた。


「うお……なんだ、簡単に開くのか。」


 戸締(とじま)りしてなかったのか?と、拍子抜(ひょうしぬ)けのアザミ。

 確かに、この里は特に戸締りなどしなくてもなんの不都合(ふつごう)のない安穏(あんのん)とした土地だ。とは言え、すぐそこまで賊徒(ぞくと)の影が迫っているこのご時世(じせい)に戸締りせずに済ますと言うのも、少し不用心(ぶようじん)じゃないだろうか。


「何やってんだヤクトの奴?そんな脇の甘い奴でもないだろうに。」


 そう(ひと)()ちたアザミ。

 すると後ろから――


「ぷっ。アザミ、カッコ(わり)い。」


 との声にアザミが振り向いて見れば、ナライが笑っているではないか。


「『よっ!うおっ!?』だって。『よっ!うおっ!?』――あっははははは……。」


 何がツボに入ったのか、自分で再現しては笑うナライだ。


(そんなにおかしいことだったか?)


 そういう疑念(ぎねん)()くアザミだが、このまま笑いものにされて面白(おもしろ)いはずもない。

 だからアザミは――


「ナライ。」

「あ、なんでもない。何も言ってないよ、オレ。」


 アザミがゲンコツを構えると、(さっ)したナライはピタリと笑うのをやめたのだった。




 ともあれ、こうして閉ざされていた戸は開かれた。

 そしてナライとアザミがギャアギャアやりながら入って行く後ろでは、カヤが一行の最後尾として家に入ったのだった。


「ただいまー。」


 誰が待っているわけでもないのに、律儀(りちぎ)帰宅(きたく)()げたカヤ。


「誰もいないのに何言ってんだお前?」


 そんなカヤにそう言ったのはナライだ。

 挨拶(あいさつ)なんて等閑(なほざり)にしがちなナライには、カヤの律儀さがただの奇行(きこう)にしか思えないらしい。

 しかし兄に突っ込まれたぐらいで、考えを変えないのがカヤという娘だ。


「いいでしょ別に。お家に帰ってきたんだから。だからお兄ちゃんもちゃんと言いなさいよ。ほら、『ただいま』って。」


 カヤは考えを変えるどころか、ナライにもそうするよう(すす)めていた。

 しかしナライだって妹に言われたぐらいで、行動を変えるような柔な兄貴ではない。


「へいへい。また今度な。」

「もうっ!いっつもそう言うだけで結局やらないじゃない!」


 結局、二人のやり取りはいつだって平行線(へいこうせん)のまま終わるのが(つね)だった。




 カヤが勧めて、ナライが拒否する。――兄妹がいつも通りの()()いをしている間、一人家の中の様子を観察していたアザミは、首をかしげていた。


「うう~ん……こんなもんなのか……。」


 (まゆ)をひそめて、そう独り言ちたアザミ。

 アザミの予想では、家の中は一年分の()もりに積もった(ほこり)で、ちょっとそこにはいられないぐらいになっているはずだったのだ。しかし現実は……。


「どうしたんですか?」


 そんなアザミの不審顔(ふしんがお)に気付いたカヤがそう(たず)ねていた。


「ん?いやな、誰も住んでなかった割に綺麗(きれい)だと思ってな。」


 そう説明したアザミ。

 何回見渡してみても想定の半分も汚れていない。なぜだろうか?


「そうですか?でもそこの壁、穴開いてますよ。」

「ああ。いやまあ、それはそうなんだがな。……でもそう言うのを差し引いてもやっぱり綺麗なもんだよな……。カヤもそうと思わないないか?」

「はあ……よく分かんないです。」


 カヤは逆に首をかしげていた。

 カヤは基本的に有人の家しか知らないから今アザミが問題にしている違和感(いわかん)が理解できないのだ。

 すると、そこに口を挟んだのは――


「ふっふーん。だろうな。」


 ドヤ顔で口を(はさ)んできたのはナライだった。


「何?どうしたの急に?」

「ナライ。お前、何か知ってるのか?」


 カヤとアザミ。二人の注目がナライに集まる。


「あのさ、去年家出る前に大掃除(おおそうじ)やったじゃん。オレ、あの時結構(けっこう)頑張(がんば)ったんだよね。だからそのせいじゃないのかなあ?」


 注目を浴びたナライは、遠慮(えんりょ)なく自分の働きをひけらかしてしていた。

 しかしそんな兄に注意するのも、カヤと言う名の妹の役目と言うものらしい。


「お兄ちゃん、ウソ()かないの。」


 カヤは怒りもせずにナライを(たしな)めていた。


「なんだよウソって?」

「だってあの時のお兄ちゃん、動かすのは口ばっかりで結局何もしてなかったじゃん。ねえ先生?」

「ん?ああ、そうだな。――いいか、ナライ。お前の働きで家が片付いたなんて事実は俺も知らない。お前、本当にあの時掃除してたのか?」


 巻き込まれる形だったにもかかわらずきちんと乗っかってきたアザミが、容赦(ようしゃ)ない追い打ちをかけていた。


「ええ!?オレ、ちゃんとやってたよ!絶対頑張ってやってたよ!」

「そう言われてもなあ……。」

「お兄ちゃんが掃除してるトコなんて見たことないし。」

「やってたんだって!」

「うう~ん……そうだったっけか?」

「お兄ちゃん。無い記憶(きおく)を勝手に(つく)んないの。良くないよ、そう言うの。」

「創ってない!オレ、ホントに頑張ってたんだってば!」


 結局、なぜ家の中が片付いていたのかは分からずじまいだった。

 その代わりに分かったのは「日ごろの行いは大切」という教訓(きょうくん)で。

 だからナライはこの日を境に、やるべきことはちゃんとやろうと思うようになったとかならないとか……。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。兄妹を父と()わせるために引率(いんそつ)中。いろんなところで大人になりきれない人。独身だしね。しょうがないね。

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒(ぞくと)から妹を護って負傷するも回復。日頃の行いの大切さを知る。

カヤ  ……主人公・妹。兄よりも要領(ようりょう)がいい。時たまアザミに失望する。今回みたいな時に。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。


柴馬(しま)  ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。

深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父が賊徒討伐(とうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。一年ぶりに帰郷せり。


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