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北天のアリス  作者: 埼山一
第三章 帰郷~再会
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第三章之二 兄妹と本音

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。兄妹を父と()わせるために引率(いんそつ)中。

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒(ぞくと)から妹を護って負傷するも回復。まだ万全じゃないのでアザミの黒雲に同乗。

カヤ  ……主人公・妹。兄よりも要領(ようりょう)がいい。はるかぜのことが心配。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。賊徒の(わな)(はま)って軽傷を負っていた。


柴馬(しま)  ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。

深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父が賊徒討伐(とうばつ)のために()めている村。


 アザミたち一行は草っ原の中にある木立(こだち)の影に入ると、それぞれが思うように休憩(きゅうけい)と取り始めていた。

 木立を背もたれ代わりにして座ると早速(さっそく)アザミから渡された弁当を広げ始めたのはナライだったし、(つな)がれなかったのをいいことにすぐそこの草原(くさはら)で気ままに草を()み始めたのは黒雲(くろくも)疾風(はやて)だ。

 そして残りの面子(めんつ)が何をしていたのかと言えば……。




「むうう……。」


 アザミははるかぜの脚を念入りに調べていた。


「うん?……うん。……うむむ……。」


 見たり、触ったり、動かしてみたり。とにかくいろいろな角度からはるかぜを()ているアザミ。

 そしてその検査も一通りやり尽くした頃になると……。


「ふう……。」

「どうですか?」


 アザミが一息(ひといき)()いたのを合図に、ずっとその横で様子を見守っていたカヤが早速検査の結果を(たず)ねていた。


「う~ん……やっぱり問題ないと思うがなあ……。乗ってみた感じも別に前と変ったところとかはないんだろ?」

「……でも乗ってるとなんかこう、落ち着かないって言うか……。なんとなくはるかぜが『あんまり大丈夫じゃないよ』って言ってるような、そんな気がしてくるんです。」

「そうか……。」


 カヤの返答を聞いたアザミは戸惑(とまど)っていた。

 今言った通り、これだけ入念(にゅうねん)に調べてみてもはるかぜに異常らしいものは見つからなかったのだ。

 もうすっかり完治(かんち)している脚をいくら触ってみても、はるかぜが嫌がることは当然(とうぜん)なかったし、その歩様(ほよう)(いた)って良好だ。

 だと言うのにカヤときたら、「なんかこう」やら、「なんとなく」やらと……。そんなふわっとした所見(しょけん)を聞かされたところで、そんなものは単なるカヤの感想でしかない。――そう裁断(さいだん)したくなるアザミなのだ。


(ふむう……。(まい)ったな。どうすればカヤを納得されられる?)


 アザミは今、頭をひねり尽くして活路(かつろ)見出(みいだ)そうとしていた。

 騎乗(きじょう)拒否(ひょひ)するのなら歩かせてしまえばいいのでは?――(いな)徒歩(かち)での旅など論外(ろんがい)だ。勿論(もちろん)そうすること自体は問題ないが、ただでさえ予定が大幅に遅れている。

 そこに来てさらに徒歩による遅延(ちえん)が重なるとなれば、我が子の到着を今か今かと心待ちにしているであろうヤクトもさすがに我慢(がまん)できなくなるだろう。


(んん……面倒臭(めんどうくさ)いな。いっそ、命令して……いや。ダメだな、それは……。)


 アザミはせっかく思い付いた「最も簡単に解決できそうな手段」を頭から追い払っていた。

 確かにそんな強硬(きょうこう)な手段でも、カヤが相手ならばきっと大人しく従ってくれるだろう。しかしそういう手段はなるべく取りたくないアザミなのだ。


(俺の決めたことなんぞに価値はない。……だよな……。)


 何しろ()()()賊徒(ぞくと)の気配を逸早(いちはや)く感じ取った自分が「二人だけで(はし)れ」などと不用意(ふようい)な命令を下したせいで、()()()()()(まね)いてしまったのだ。

 二度と同じ(てつ)()みたくない。――アザミ自身も気付いてはいないが、あの賊徒襲撃(しゅうげき)で心に傷を()ったのは、ナライとカヤだけではなかったのだ。




「なあカヤ。お前がはるかぜを大切に思ってるのは知ってる。でもな、これだけ調べても異常はなかったんだ。だから俺としてはお前にははるかぜに乗ってもらいたいんだが、ダメか?」


 困ったアザミは命令ではなく、お願いする形でカヤに(うかが)いを立てていた。


「……。」


 しかしアザミの希望に反して、浮かない顔のカヤだ。


(こういうふうに、変なところで(ゆず)ってくれない性格は何とかならないのか?)


 いよいよ困り果てたアザミだ。

 カヤが譲ってくれないのならばこちらが譲るしかないのだが、一体何を譲れと言うのか……。


「――よし、カヤ。はるかぜの荷を()こう。」

「え?」


 急に表情を明るくしたアザミの提案(ていあん)に、カヤがキョトンと意外そうな顔を見せていた。


「はるかぜの荷を全部疾風に任せるんだ。そうすればその分だけはるかぜの負担も減るだろ?」

「あ。はい。そうですね。」


 説明に同意してくれたカヤに満足なアザミ。

 そうなのだ。カヤが譲ってくれないのならば譲ればいいのだ。――はるかぜの荷を疾風に。


「だから聞いてくれ、カヤ。そしたらお前ははるかぜに乗るんだ。これが俺が思い付く精いっぱいだよ。それでも嫌だって言うようなら俺にも考えがあるからな。」

「考え、ですか?」

「ああ。お前がどうしても乗りたくないって言うなら俺がはるかぜに乗る。それでカヤはナライと黒雲だ。」

「うええ~!?」


 アザミの提案を聞いて、露骨に嫌そうな顔をするカヤだ。

 黒雲はともかくとして、ナライと一緒と言うのがありえないのだろう。


「嫌か?」


 アザミはここぞとばかりに(たた)みかけていた。もうこれ以上こんなつまらないことで悩まされるのはウンザリだった。


「イヤです。イヤに決まってます。」

「じゃあ決まりだな。カヤははるかぜ。俺とナライが黒雲で、はるかぜの分の荷物は疾風だ。」




「ナライ!悪いがそれでいいか?」

「んぐ?」


 アザミが疾風使用の許可を得ようとナライに尋ねると、木立の(ふもと)で弁当を食べていたナライが聞き返していた。


「……っん。何ー?」


 口の中の物を()み込んでからまた聞き直したナライ。どうやらナライは目の前の弁当を平らげることに夢中になっていて、アザミたちのやり取りなんてこれっぱかりも興味がなかったらしい。


「はるかぜの負担を減らしたい。だからはるかぜの荷を全部疾風に任せたいんだが、(かま)わないか?」

「ふうん。それで疾風が嫌がらないんなら、オレは別にいいけどー。」

(おう)。分かった。それじゃ()()えるぞ。あとになってから文句言うなよ。」

「あ。別にいいけど、やるんならちゃんと疾風に聞いてからにしてよ。」

「……。ああ、そうする。――疾風!悪いが、それでいいよな?」


 くそ真面目(まじめ)な顔して疾風の許可を()にかかったアザミ。

 しかし疾風はそんなアザミを一瞥(いちべつ)すると、また草を食むばかりで……。

 疾風。――この馬ときたら、「食い気に勝る物はない」と言う残念なところが主人に似てしまったようだった。




「ああ~ん……むぐむぐ……。」


 アザミがせっせと荷の載せ替えをやっているのを尻目(しりめ)に、大口(おおぐち)を開けたナライが弁当の最後の一口を頬張(ほおば)っていた。そしてそんなナライの元にやって来たのはカヤで……。


「お兄ちゃん。」


 カヤはナライの前に立つと、見下ろすような形でナライに声をかけていた。


「んぐ?」


 カヤを見上げながら(こた)えたナライ。だが口いっぱいに頬張った弁当のせいで、何を言っているのかちっとも伝わらない。


「あのね、ありがと。」


 しかしご機嫌そうなカヤは、そんなこと気にもせずにナライに礼を言っていた。


何が(んんぐ)?」


 すぐに尋ねたナライだ。

 いつもならナライの行儀(ぎょうぎ)の悪さを見つけると、(よろこ)(いさ)んで注意(ちゅうい)してくるはずのカヤだ。それが一体どうして?

 

「はるかぜの荷物のこと。疾風に載せていいって言ってくれたでしょ。」

「んん……。」


 理由を聞かされて拍子抜(ひょうしぬ)けしたナライ。

 あれは単に道中(どうちゅう)での疾風が、自分を乗せていないせいで物足りなさそうな顔してるように見えたからだったのだけど……。


「わたしね。お兄ちゃんのことずっと誤解(ごかい)してたの。」


 しかしそんなナライの思惑(おもわく)など知るはずのないカヤが、ちょっと照れくさそうにしながら何かの告白を始めていた。




「――だってそうでしょ。お兄ちゃんてさ、自分勝手(じぶんかって)で人の分のご飯も勝手に食べちゃうし、お母さんにどれだけ怒られてもちっとも()りないし、起きてる間はずうっとうるさいし、寝てたって寝相(ねぞう)悪くって邪魔(じゃま)だし……。」

「むぐう!……むむ……。」


 何だか随分(ずいぶん)な言われ様に(いきどお)ったナライ。しかし口いっぱいの弁当が(あだ)になって何も言い返せない。


「――だからね。わたし、お兄ちゃんてさ、自分のことしか考えてない『ホンッッットにしょうがないお兄ちゃん』だなあって、わたしずっと思ってたんだ。」

「むぐっ……っんく……んっんっ……ぷはっ!」


 ナライは急いで口の中の物を呑み込んでいた。これ以上のんびりしていたら、言いたい放題言ってくれるカヤに反論できないまま終わってしまう。


「でも違ったんだね。お兄ちゃんはわたしが危なくなったら真っ先に助けてくれたんだもん。」

「おい、カヤ!お前――って……へ?」

「あの時のお兄ちゃん、(すご)くカッコよかった。」

「……。」


 せっかく急いで口の中を空にしたのに、結局何も言い返せなかったナライ。

 慣れてないせいか、真正面(ましょうめん)から()められると何だかものすごくこそばゆいのだ。

 だから(かえ)って居心地(いごこち)の悪くなったナライは尻がムズムズするのを感じながらカヤの言葉を聞き続けるしかなく……。

 ナライはせめて気持ちを落ち着けようと、水の入った竹筒に口を付けていた。


「だからね、お兄ちゃん。」

「な、なんだよ……?」

「カヤね。お兄ちゃんのこと、大好き。」

「んぶっ!?」


 ナライは飲みかけの水を()き出したせいで、呑み込んだはずの米粒が鼻に入ってしまっていた。


「げほっ!げほっ!……な、何?」

「キャア!きったない!」

「げほっ!……何?……今お前、なんて言ったんだ?……げほっ!」

「なーんて、そんなのウソに決まってるじゃん。バーカ。」

「あ、お前――ぅげほっ!」

「あっははは……。あ~あ、ホーントしょうがないお兄ちゃんをからかうのは楽しいな~。」


 むせるナライをその場に残して、カヤは背中を見せて離れていった。

 しかし今のナライでは、そんな後ろ姿だけでカヤの本音を見抜くことは、とても出来ないことなのだった。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。兄妹を父と()わせるために引率(いんそつ)中。実は書見なんかもできるし万能っぽく見えるけど、それでも本職は狩人(かりうど)

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒(ぞくと)から妹を護って負傷するも回復。食ってる弁当は柴馬(しま)のナリタに用意してもらった物。消費期限(しょうひきげん)は当日中。

カヤ  ……主人公・妹。兄よりも要領(ようりょう)がいい。兄貴が好きになった?

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。大物。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。大物感が(ただよ)いつつある。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。賊徒の(わな)(はま)って軽傷を負っていた。


柴馬(しま)  ……ナライを治療するため、しばらく滞在していた村。

深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父が賊徒討伐(とうばつ)のために()めている村。


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