表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北天のアリス  作者: 埼山一
第二章 約束の村にて
45/90

第二章之終 柴馬の屋敷・出発(二)

アザミ ……主人公兄妹の保護者。急に思春期の子どもが出来ていつも四苦八苦してる人。でも実はちょっと嬉しくもある。

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷する。とりあえず怪我自体はほぼ治った。アザミは尊敬の対象なのでただ反抗するだけじゃない。母さんは……うん。まあ、ね。

カヤ  ……主人公・妹。なんか急に怒りが爆発。なんで?

ヌシカ ……柴馬(しま)の名主。先代名主と同じ名前。元すけこまし。

ヤクト ……主人公兄妹の父。現在は家族と別れて賊徒討伐の指揮を執っている。

ナリタ ……名主(なぬし)家の使用人モブ。モブなんだから新作の説明要らなくない?

鹿頭(しかあたま)  ……牡鹿(おじか)の頭を(かぶ)った賊徒(ぞくと)たちの首領(しゅりょう)。賊徒団をアザミ一人に壊滅(かいめつ)させられて逃亡中。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。


柴馬(しま)  ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹(きょうだい)に「この村で待つように」と指示して送り出していた。今現在滞在中(たいざいちゅう)の村。

深沢(みさわ)  ……ヤクトが賊徒討伐の拠点にしている村。


「ホンットにバッカじゃないの。お兄ちゃん、まだちゃんとちゃんと歩けもしないくせに、わがままばっかり言わないでよ。」


 どうあっても引き下がろうとしないナライに、ついに口を出してきたカヤ。しかしそれは、ちょっと行き過ぎじゃないかと思えるような辛辣(しんらつ)さだったった。

 言い草がそんなだったから、言われた方のナライも急に()びせられた毒舌(どくぜつ)に、ついカッとなってしまうのも当然(とうぜん)なわけで……。


「はあ?わがままってなんだよ?オレの何がわがままなんだよ!」

「わがままはわがままでしょ!昨日、先生と一緒に乗るって約束したくせに、『やっぱり疾風(はやて)がいい』なんて、どう見てもわがままじゃない!?」

「それはわがままじゃない!オレはもう一人でも平気だって言ってるだけだ!」

「それがわがままだって言ってるの!今だってすぐふらふらになっちゃうくせに、そんなんでどうやって疾風に乗るつもりなの!?」

「オレは乗れる!」

「だからどうやって!?乗れるわけないでしょ!」

「乗れるったら乗れる!お前に何が(わか)るんだよ!」

「判るに決まってるでしょ!今日の朝ご飯だって半分しか食べられなかったくせに!」


 カヤの辛辣な言葉から始まったこの二人の言い争いは、熱を()びる一方だった。




「今日はちょっと腹減(はらへ)ってなかっただけだ!」

「別に今日だけないでしょ!いつもならカヤの分まで食べちゃうくせに!」

「じゃあここの飯が不味(まず)かったんだよ!」

「お、おい……。」


 突然始まった兄妹(きょうだい)ゲンカに、アザミは一人取り残されていた。

 一緒に暮らすようになってもう一年。この兄妹を象徴(しょうちょう)する言葉は何かと聞かれれば、「ケンカ」と迷わず答えるアザミだ。

 この二人は十日あれば二三日は言い争いしているような兄妹だった。だからアザミにとっても、この二人がケンカすること自体は全然(ぜんぜん)珍しいことじゃない。

 しかし、こんなに(はげ)しく()り合っている二人を見るのはこれが初めてじゃないだろうか……。


「大体お兄ちゃん、いっつも勝手(かって)すぎるのよ!」

「オレは勝手じゃない!」

「勝手だって言ってるでしょ!勝手なの!」

「オレの何が勝手だってんだよ!?」

「だってそうでしょ!お兄ちゃん、いつもカヤのご飯まで食べちゃうし、お母さんに言われたことも守らないし。自分でやるって言い出したことだって結局やらないし。勝手なことばっかりしてるじゃない!」

「そんなの今関係ないだろ!だったらお前だって――」

「それにっ!!」

「――っ!?」


 言いたい放題(ほうだい)不満(ふまん)をぶちまけるカヤに反論しようとしたナライ。しかしそんなナライを黙らせたのは、カヤが出した一際(ひときわ)力強い声だった。

 そしてカヤは静かになったナライに向かって、こう続ける。


「あの時だって、(ころ)んだのカヤなのに……なのに……勝手にカヤを助けて……そんなことするから……ご飯も食べられなくなっちゃって……。」


「だからもう勝手なことばっかりしないでよっ!お兄ちゃんのバカぁっ!」




 アザミは、泣きながらナライを(なじ)っているカヤを見て、二人がやっていたのは決してケンカなんかではなかったことをようやく理解していた。


(カヤ。ずっと我慢してたのか……。)


 思い返してみれば、この柴馬(しま)村に入ってからのカヤは、ナライに対して妙に聞き分けが良いと言うか、大人しすぎるところがあった。

 自分に対してはいつもそんな態度だったからなかなか気付けなかったアザミだが、あれはきっとカヤが言いたいことを言わないようにしていたからなのではないだろうか。

 カヤはナライに言いたいことがあっても、何も言おうとしなかった。――それは、「ありがとう」だけじゃ全然(つた)え切れないナライの自己犠牲(じこぎせい)への不満とか後悔(こうかい)とか、そう言う色んな感情がいっぺんに()き出して、怒らずにはいられないのが分かってたからなのだろう。

 結局のところ、カヤがナライに()っかかっているのは、ナライのことが心配で仕方がなかったからなのだ。




「カヤ。言いたいことは全部言えたか?」


 ナライがすっかり黙り込んでいる中、アザミはグズグズと鼻をすすっているカヤに声をかけていた。


「……うん。」


 どうにかそう返してくれたカヤ。カヤは流した涙なんかを自分の袖で遠慮なくグシグシと拭い始めている。

 カヤはまだ心が(たかぶ)っているようだ。無理もない。こんな状態じゃはるかぜには乗せられないし、この分じゃもうしばらくは出発するのは無理だろう。


「ナライ。やっぱりお前は黒雲(くろくも)に乗るべきだと、俺は思う。それでもお前は(ひと)りで疾風に乗りたいか?」

 アザミはカヤの方に手を置くと、そのままナライの意思を確認していた。

 ナライがそれでも乗りたいと言うのであれば、もう止める気はない。それはナライを()()()として(あつか)うと言うことでもあった。しかしナライは……。


「……分かった。オレ、乗るよ。黒雲に。」


 ちゃんと妹の健気(けなげ)な気持ちに(こた)えたナライ。

 アザミはそんなナライに「本当の一人前」を見出(みいだ)して、満足そうに笑みを浮かべたのだった。




「ナリタ。世話になったな。新しい名主(なぬし)様と突っ込んだ話ができなかったってのがちょっと心残りだが、まあ出かけちまったもんは仕方ない。また次の機会に土産(みやげ)でも持って(たず)ねるから、その時はよろしくって当代(とうだい)に言っといてくれ。」

「はい。確かにお伝えしておきましょう。それでは、皆さんの旅のご無事をお(いの)りしております。」


 こうしてアザミたちはナリタに見送られながら、当代の名主・ヌシカが野暮用(やぼよう)不在(ふざい)になっていた柴馬村をあとにしたのだった。


アザミ ……主人公兄妹の保護者。割と人が成長する瞬間に立ち会えてるんじゃなかろうか。

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷する。とりあえず怪我自体はほぼ治った。妹の真心を受け止められるだけの器が出来た。

カヤ  ……主人公・妹。健気。

ヌシカ ……柴馬(しま)の名主。先代名主と同じ名前。元すけこまし。不在の理由は「野暮用(やぼよう)」だって。なるほど。

ヤクト ……主人公兄妹の父。現在は家族と別れて賊徒討伐の指揮を執っている。

ナリタ ……名主(なぬし)家の使用人モブ。いろいろ便利だった。

鹿頭(しかあたま)  ……牡鹿(おじか)の頭を(かぶ)った賊徒(ぞくと)たちの首領(しゅりょう)。賊徒団をアザミ一人に壊滅(かいめつ)させられて逃亡中。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。


柴馬(しま)  ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹(きょうだい)に「この村で待つように」と指示して送り出していた。今現在滞在中(たいざいちゅう)の村。

深沢(みさわ)  ……ヤクトが賊徒討伐の拠点にしている村。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ