第二章之終 柴馬の屋敷・出発(二)
アザミ ……主人公兄妹の保護者。急に思春期の子どもが出来ていつも四苦八苦してる人。でも実はちょっと嬉しくもある。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷する。とりあえず怪我自体はほぼ治った。アザミは尊敬の対象なのでただ反抗するだけじゃない。母さんは……うん。まあ、ね。
カヤ ……主人公・妹。なんか急に怒りが爆発。なんで?
ヌシカ ……柴馬の名主。先代名主と同じ名前。元すけこまし。
ヤクト ……主人公兄妹の父。現在は家族と別れて賊徒討伐の指揮を執っている。
ナリタ ……名主家の使用人モブ。モブなんだから新作の説明要らなくない?
鹿頭 ……牡鹿の頭を被った賊徒たちの首領。賊徒団をアザミ一人に壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹に「この村で待つように」と指示して送り出していた。今現在滞在中の村。
深沢 ……ヤクトが賊徒討伐の拠点にしている村。
「ホンットにバッカじゃないの。お兄ちゃん、まだちゃんとちゃんと歩けもしないくせに、わがままばっかり言わないでよ。」
どうあっても引き下がろうとしないナライに、ついに口を出してきたカヤ。しかしそれは、ちょっと行き過ぎじゃないかと思えるような辛辣さだったった。
言い草がそんなだったから、言われた方のナライも急に浴びせられた毒舌に、ついカッとなってしまうのも当然なわけで……。
「はあ?わがままってなんだよ?オレの何がわがままなんだよ!」
「わがままはわがままでしょ!昨日、先生と一緒に乗るって約束したくせに、『やっぱり疾風がいい』なんて、どう見てもわがままじゃない!?」
「それはわがままじゃない!オレはもう一人でも平気だって言ってるだけだ!」
「それがわがままだって言ってるの!今だってすぐふらふらになっちゃうくせに、そんなんでどうやって疾風に乗るつもりなの!?」
「オレは乗れる!」
「だからどうやって!?乗れるわけないでしょ!」
「乗れるったら乗れる!お前に何が判るんだよ!」
「判るに決まってるでしょ!今日の朝ご飯だって半分しか食べられなかったくせに!」
カヤの辛辣な言葉から始まったこの二人の言い争いは、熱を帯びる一方だった。
「今日はちょっと腹減ってなかっただけだ!」
「別に今日だけないでしょ!いつもならカヤの分まで食べちゃうくせに!」
「じゃあここの飯が不味かったんだよ!」
「お、おい……。」
突然始まった兄妹ゲンカに、アザミは一人取り残されていた。
一緒に暮らすようになってもう一年。この兄妹を象徴する言葉は何かと聞かれれば、「ケンカ」と迷わず答えるアザミだ。
この二人は十日あれば二三日は言い争いしているような兄妹だった。だからアザミにとっても、この二人がケンカすること自体は全然珍しいことじゃない。
しかし、こんなに激しく遣り合っている二人を見るのはこれが初めてじゃないだろうか……。
「大体お兄ちゃん、いっつも勝手すぎるのよ!」
「オレは勝手じゃない!」
「勝手だって言ってるでしょ!勝手なの!」
「オレの何が勝手だってんだよ!?」
「だってそうでしょ!お兄ちゃん、いつもカヤのご飯まで食べちゃうし、お母さんに言われたことも守らないし。自分でやるって言い出したことだって結局やらないし。勝手なことばっかりしてるじゃない!」
「そんなの今関係ないだろ!だったらお前だって――」
「それにっ!!」
「――っ!?」
言いたい放題に不満をぶちまけるカヤに反論しようとしたナライ。しかしそんなナライを黙らせたのは、カヤが出した一際力強い声だった。
そしてカヤは静かになったナライに向かって、こう続ける。
「あの時だって、転んだのカヤなのに……なのに……勝手にカヤを助けて……そんなことするから……ご飯も食べられなくなっちゃって……。」
「だからもう勝手なことばっかりしないでよっ!お兄ちゃんのバカぁっ!」
アザミは、泣きながらナライを詰っているカヤを見て、二人がやっていたのは決してケンカなんかではなかったことをようやく理解していた。
(カヤ。ずっと我慢してたのか……。)
思い返してみれば、この柴馬村に入ってからのカヤは、ナライに対して妙に聞き分けが良いと言うか、大人しすぎるところがあった。
自分に対してはいつもそんな態度だったからなかなか気付けなかったアザミだが、あれはきっとカヤが言いたいことを言わないようにしていたからなのではないだろうか。
カヤはナライに言いたいことがあっても、何も言おうとしなかった。――それは、「ありがとう」だけじゃ全然伝え切れないナライの自己犠牲への不満とか後悔とか、そう言う色んな感情がいっぺんに噴き出して、怒らずにはいられないのが分かってたからなのだろう。
結局のところ、カヤがナライに突っかかっているのは、ナライのことが心配で仕方がなかったからなのだ。
「カヤ。言いたいことは全部言えたか?」
ナライがすっかり黙り込んでいる中、アザミはグズグズと鼻をすすっているカヤに声をかけていた。
「……うん。」
どうにかそう返してくれたカヤ。カヤは流した涙なんかを自分の袖で遠慮なくグシグシと拭い始めている。
カヤはまだ心が昂っているようだ。無理もない。こんな状態じゃはるかぜには乗せられないし、この分じゃもうしばらくは出発するのは無理だろう。
「ナライ。やっぱりお前は黒雲に乗るべきだと、俺は思う。それでもお前は独りで疾風に乗りたいか?」
アザミはカヤの方に手を置くと、そのままナライの意思を確認していた。
ナライがそれでも乗りたいと言うのであれば、もう止める気はない。それはナライを一人前として扱うと言うことでもあった。しかしナライは……。
「……分かった。オレ、乗るよ。黒雲に。」
ちゃんと妹の健気な気持ちに応えたナライ。
アザミはそんなナライに「本当の一人前」を見出して、満足そうに笑みを浮かべたのだった。
「ナリタ。世話になったな。新しい名主様と突っ込んだ話ができなかったってのがちょっと心残りだが、まあ出かけちまったもんは仕方ない。また次の機会に土産でも持って訪ねるから、その時はよろしくって当代に言っといてくれ。」
「はい。確かにお伝えしておきましょう。それでは、皆さんの旅のご無事をお祈りしております。」
こうしてアザミたちはナリタに見送られながら、当代の名主・ヌシカが野暮用で不在になっていた柴馬村をあとにしたのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。割と人が成長する瞬間に立ち会えてるんじゃなかろうか。
ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷する。とりあえず怪我自体はほぼ治った。妹の真心を受け止められるだけの器が出来た。
カヤ ……主人公・妹。健気。
ヌシカ ……柴馬の名主。先代名主と同じ名前。元すけこまし。不在の理由は「野暮用」だって。なるほど。
ヤクト ……主人公兄妹の父。現在は家族と別れて賊徒討伐の指揮を執っている。
ナリタ ……名主家の使用人モブ。いろいろ便利だった。
鹿頭 ……牡鹿の頭を被った賊徒たちの首領。賊徒団をアザミ一人に壊滅させられて逃亡中。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。
柴馬 ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹に「この村で待つように」と指示して送り出していた。今現在滞在中の村。
深沢 ……ヤクトが賊徒討伐の拠点にしている村。




