表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北天のアリス  作者: 埼山一
第二章 約束の村にて
43/90

第二章之九 柴馬の屋敷・ナライ覚醒

アザミ ……主人公兄妹の保護者。今はナライたちを父親に会わせに行くところ。独身貴族。

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷する。今話の主役。いや、いつでも主役のはずなんだけど。

カヤ  ……主人公・妹。兄とケンカが絶えない。変にウジウジするところは母似だなあ。全然意図してなかったけど。

ヌシカ ……柴馬(しま)の名主。先代名主と同じ名前。元すけこまし。

ヤクト ……主人公兄妹の父。現在は家族と別れて賊徒討伐の指揮を執っている。

ナリタ ……名主(なぬし)家の使用人モブ。家宰(かさい)の一人。つまり意外と(えら)い。

鹿頭(しかあたま)  ……牡鹿(おじか)の頭を(かぶ)った賊徒(ぞくと)たちの首領(しゅりょう)。賊徒団をアザミ一人に壊滅(かいめつ)させられて逃亡中。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。


柴馬(しま)  ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹(きょうだい)に「この村で待つように」と指示して送り出していた。今現在滞在中(たいざいちゅう)の村。


 ナライが目を覚ましたのは、丁度(ちょうど)ナリタがナライの傷の手当てを終えて、その後片付けをしている時だった。


「あれ?どこだ、ここ……?」


 まぶたを開くなり映った見覚えのない風景にそんな疑問を漏らしたナライ。

 すると今度は、やっぱり見覚えのない男が話しかけてきて――


「あ、お気付きになられましたね。アザミ様!ナライ様が――」


 見覚えのない男とはナリタのことだった。

 ナリタはナライの覚醒(かくせい)に気が付くと、すぐにアザミのことを呼んだのだった。

 しかし、この村に着くころにはすでに気を失っていたナライだ。だから当然(とうぜん)素性(すじょう)の知れないナリタの存在に(いぶか)しむばかりで……。


「え、誰?」


 ナライは率直(そっちょく)な疑問を口にしていた。

 分からないなら聞けばいい。いかにもナライらしい明快(めいかい)な行動だ。

 そしてその質問に丁寧に答えるナリタ。


「はい。私、名主家(なぬしけ)の使用人・ナリタと申します。」

「なぬしけ?」


 しかし残念なことに、ナライにはせっかくのナリタの自己紹介もさっぱり理解できていなかった。

 名主家?使用人?――ただでさえ事情が分かっていないのに、さらに知らない情報が追加されて、ナライの困惑(こんわく)はますます深まるばかりだ。

 するとそんなナライの元にやってきたのは、ナライもよく知っている顔で……。


「ナライ!」

「あ。アザミ?」


 やってきた者とは、ナライの覚醒を聞きつけてすぐにやってきたアザミだった。

 アザミがいる。それは良いことには違いない。だけどナライは……。


(え?なんでアザミがいるんだ?)


 ナライは()()()()()()()アザミがこの場にいたことに、またしても困惑していたのだった。




「ナライ、やっと目覚(めざ)めたか。」


 アザミはナライにそう言っていた。

 ナライの覚醒。それは今のアザミにとって、何よりも歓迎(かんげい)すべき出来事だ。

 だからさすがのアザミも、今回ばかりは冷静に(つと)めると言うこともできず――


「どうだ、気分は?」

「心配したぞ。何しろお前、あれから四日も目を覚まさなかったんだからな。」

「あ、腹減ってないか?何しろ四日も何も食ってないんだからな。」


 アザミはそんなふうに思い付くことを全部(しゃべ)くっていたのだった。

 しかしそんな過剰(かじょう)な歓迎をされても困るのはナライで……。


「気分?」

「四日?」

「腹?」


 ナライは言われたことをポカンとしながらオウム返しにしていた。

 アザミ、どうしたんだ?――ナライの困惑ぶりは相変(あいか)わらずだ。

 せっかく知った顔のアザミがこの場にいたというのに、(いま)だに事情が()み込めていないナライだ。なのに一方的に次から次から()り出されてくるのは、アザミの役に立たない言葉の嵐。

 え?何?何?――意味がさっぱり頭に入ってこない上に、どちらかと言えば鬱陶(うっとう)しい。

 しかし今のアザミでは、そんなナライの困惑にもなかなか気付けず……。


「何かあれば遠慮(えんりょ)するなよ。なんでも言え。」

「実はな。今ヤクトに手紙を書いてたんだが……お前が起きたんなら全部書き直しだな。」

「ははは。いやあ良かった。このまま目を覚まさないんじゃないかって、さすがの俺もちょっと(きも)を冷やし――」


 自分勝手じぶんかってに喋り(まく)ったところで、ようやくナライの困惑顔に気付いたアザミ。


「あ……すまんナライ。」


 アザミはちょっとばつが悪くなっていた。

 いくら何でも一方的に捲し立てすぎだった。おかげでナライはさっきからポカンとするばかりで、全然(ぜんぜん)付いて行けていないではないか。


「ま、無事で何よりだ。」


 アザミはそれだけ言うと、話を(しめ)たのだった。




「ねえ、アザミ。」


 アザミの()()()()()興奮がやっとのことで収まると、次に口を開いたのはナライだった。


「なんだ?」


 そしていつもの冷静さを取り戻して(おう)じたのは、さっきまでの言動の(ひど)さを反省しているアザミだ。

 いかにナライの四日ぶりの覚醒が想像以上に興奮する出来事だったとはいえ、あんなのは大の大人の言動じゃない。

 だからアザミは、今度こそちゃんとした大人って奴を見せてやろうと気合を入れて、ナライの次の言葉を待ち受けてようとしていた。だが――


「あのさ、オレ、アザミがさっきから何言ってんのか全然分かんないんだけど。何?オレがどうかしたの?あとなんでアザミがオレん()にいんの?」

「は?」


 ナライの言葉を聞いたアザミは、大の大人らしからぬ間の抜けた返事をせずにはいられなかった。




「ナライ……。お前、何も(おぼ)えてないのか?」


 ナライの質問を受けたアザミは、反対に聞き返していた。

 たった今、ナライは言った。「さっきから何言ってんの?なんでオレん家にいるの?」と。そう言われて思い付くのは、ナライの意識(いしき)混乱(こんらん)しているのでは?ということだ。

 しかし、そうして返ってきた答えはまたしても質問形で……。


「何が?なんのこと?」

「……お前一人で賊徒(ぞくと)とやり合ったことをだよ。お前、本当に憶えてないのか?」

「はあ?ゾクト?何言ってんの?」


 そう言われても、ナライは全然ピンと来ていないらしい様子だった。

 間違いない。ナライは混乱している。目が覚めたとはいえ、まだ意識がはっかりしていないのかも知れない。

 しかしナライは……。


「大体なんでオレがカヤを助けなきゃ――」


 ナライはそこまで言って動きを止めていた。

 半開きのままの口。

 それから(まばた)きを一つ。

 すると、見る見るうちにナライの瞳に()()()()危機感(ききかん)が戻ってきて……。


「――そうだっ!カヤは!?」


 全部思い出したらしいナライは、寝ていた体をガバッと起こしていた。




「――そうだっ!カヤは!?」

「あっ!ダメだ!」


 アザミは急に体を起こしたナライを(あわ)てて止めに入っていた。

 今のナライはただ目が覚めただけで、怪我が治ったわけではないのだ。今まで食事も()らずにずっと寝ていたたわけだから、当然怪我の回復もそれなりでしかない。

 しかしアザミの制止(せいし)が、もう動いてしまったナライの役に立つはずもなく。


「うがっ!」


 ナライはそう悲鳴を上げると、全身を硬直(こうちょく)。そしてそのまま倒れてしまったのだった。


「ナライ!大丈夫か!?」

「カッ――ハッ――ヒュッ――」


 いつ息を吸っているのか。肺の中の空気を残らず(しぼ)り出しているみたいなナライの苦悶(くもん)の呼吸音が続く。


「ナライ!ナライ!しっかりしろ!」


 だから今のナライには、心配するアザミの声などまったく届いてはいないようだった。




「何をするにも、なるべくゆっくり動くことです。そうすれば今みたいなことにはならないはずです。出歩くのもまだ(ひか)えてください。体に(さわ)ります。」

「でも小便(しょうべん)とかうんことかしたい時は?ここでたらしていいの?」

「いえ、さすがにそれは……。そういった時は、人の手を()りてください。しばらくは誰かしら、付くようにしておきます。」

「うん。」


 ナリタの説明を聞いていたナライが、いつになく素直(すなお)な返事をしていた。




 ――急に動いて苦しんでいたナライを介抱したのは、アザミではなくこのナリタだった。

 狩人(かりうど)本職(ほんしょく)とするアザミにだって当然治療(ちりょう)知識(ちしき)はあった。

 しかし、それはあくまでも自分自身のための治療法。今回のような打ち身の(たぐい)は全部我慢(がまん)するのが治療法のアザミだ。

 そんなだったから、名主家を取り仕切るナリタのそれには到底(とうてい)(かな)わなかったのだ。


「それでは、私はこれで。」

「ああ。助かった。それじゃ引き続き頼む。」


 部屋を出て行くナリタを、アザミは(ねぎら)った。

 そしてナライと二人きりになると、今度こそちゃんと大人らしい落ち着きを持って、ナライと話しをするのだった。




「大丈夫か、ナライ?」

「うん。」

「……そうか。お前、自分が怪我してることも忘れてたんだな。最初に注意しておくべきだった。済まん。」


 アザミは(あやま)っていた。

 ナライが覚醒したぐらいで、はしゃぎ過ぎたのだ。だから大切なことを見落とす。――ここのところ反省やら後悔(こうかい)やら、毎日のようにしてばっかりいるアザミだ。

 しかし、当のナライは謝られたところでアザミが悪いなんて思っているはずもなく……。


「いいよ別に。それよりカヤは?」


 ナライは御座(おざ)なり流すと、今一番の気がかりの行方(ゆく)(たず)ねていた。


「今、ナリタが呼びに行ってる。すぐに戻って来るさ。」

「ふうん。そっか。てことは、カヤ、大丈夫だったんだな。」

「ああ。怪我もないしピンピンしてる。お前があそこで()()ったおかげだな。」

「そっか。へへ……。」


 そう言って顔を()らしたナライ。その表情は満足そうだ。つい()みが(こぼ)れたのを見られたくなかったのかも知れない。


「あいつさ、今何してんの?」


 アザミの方を向いたナライは、またカヤのことを尋ねた。


「ああ。はるかぜの世話だ。黒雲(くろくも)疾風(はやて)も一緒にな。あいつ、ついさっきまでここにいたんだが……ちょっと間が悪かったな。」


 少し苦笑(にがわら)いしてそう答えたアザミ。

 実はカヤを外に出したのはアザミだったのだ。




 昨日までのカヤは、すっかり忘れ去っていた友だち・はるかぜに合わせる顔がなかったのか、名主屋敷の外はおろか、この別棟(べつむね)からすら出ようとしていなかった。

 ナライのことが気がかり。――そう言う理由もあったしカヤの本心でもあっただろうが、子どもが完全に家に()(こも)ってるなんてのは、いくらなんでも不健康だ。

 だからアザミは少しでもカヤが外に出るようにと、はるかぜたちの世話を(なか)ば命令に近い形でお願いしていたのだ。




「ふうん。でもさ、あいつに疾風の世話できんの?()られたりしなきゃいいけど。」


 カヤの行方を聞いたナライは、そんな感想を漏らしていた。

 何しろカヤは普段、素直で大人しいはるかぜとばかり()れ合っている。だから不用意(ふようい)に、気の強い疾風の後ろに回り込んでやしないかと気が付いたようなのだ。

 しかし、それを聞いたアザミは――


「なんだナライ。そんなにカヤが心配なのか?」

(ちが)っ!?そんなわけないじゃん!」


 アザミの茶化(ちゃか)し言葉に、ナライはプイっと反対を向いていた。


「あっ!?いかん!」

()てっ!」


 そして、すっかりナリタの注意事項(ちゅういじこう)を忘れていたせいで、また痛みに(おそ)われたナライ。

 しかし幸いなことに、今度はそれだけで済んだようだった。


アザミ ……主人公兄妹の保護者。今はナライたちを父親に会わせに行くところ。話を進めるほど不完全さが目立ってゆく。どうしてこうなった?

ナライ ……主人公・兄。真・主人公。賊徒から妹を護って負傷する。栄養状態が悪いと意識・記憶が混乱するんだよね。ちな実体験。

カヤ  ……主人公・妹。兄とケンカが絶えない。(あん)ずるより産むが(やす)し。

ヌシカ ……柴馬(しま)の名主。先代名主と同じ名前。元すけこまし。

ヤクト ……主人公兄妹の父。現在は家族と別れて賊徒討伐の指揮を執っている。

ナリタ ……名主(なぬし)家の使用人モブ。モブってなんだ?有能。

鹿頭(しかあたま)  ……牡鹿(おじか)の頭を(かぶ)った賊徒(ぞくと)たちの首領(しゅりょう)。賊徒団をアザミ一人に壊滅(かいめつ)させられて逃亡中。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い方。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い方。


柴馬(しま)  ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹(きょうだい)に「この村で待つように」と指示して送り出していた。今現在滞在中(たいざいちゅう)の村。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ