第二章之五 柴馬の屋敷・使用人は語る
アザミ……主人公兄妹の保護者。結構好戦的なのは若いからなのか、それとも守らなくてならないものがあるからなのか?
ナライ……主人公・兄。しばらく出番ないからここの情報も増えないです。真・主人公なのに。
カヤ ……主人公・妹。宣誓、今回は出番がないことを、誓います。アザミ不在で兄貴の看護してるのは不安だろうね。
ヌシカ……柴馬の名主。まだアザミぐらいには若く、豪気な男。だが……。
ナリタ……名主家の使用人。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
柴馬 ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹に「この村で待つように」と指示して送り出していた。約束の村。
ナリタのおかげで、あれほどキナ臭かったこの場もどうにか落ち着いて、皆が冷静さを取り戻した頃。
「で、ヌシカが逝ったってのは本当の話なんだな?」
「はい。もう五年前のことになります。」
「……。」
ナリタの無情な返事に、アザミは返す言葉を持っていなかった。
言われて見れば、もう何年もこの村に来ていないのだ。だからその間、あの初老のヌシカの身に何かあったとしても、別に驚くようなことでもない。
そしてそんなことがあったとも知らずに、不義理にも訪問を敬遠し続けていたアザミは――
「そうか……。知らなかったとは言え、失礼した。」
アザミは目の前のヌシカたちに頭を下げていた。
たとえ先代のヌシカが好きになれない相手だったとしても、世話になっていたことに違いはないのだ。
だと言うのに、その先代に不幸があったことも知らず、その上その先代の息子を自分勝手に疑って、あまつさえ敵と決めつけて殺害しようとしていたのだ。これはもう人として有るまじき蛮性でしかない。
大体、ちょっと考えてみれば目の前のヌシカが敵じゃないことぐらい解りそうなものじゃないか。
顔見知りのナリタが相変わらずこの家に仕えていたのだ。何かしらの危うい理由で名主が代わっていたのであれば、ナリタが無事でいられるはずがないのだ。
(まったくとんだ大馬鹿野郎だな、俺は。)
御大層に「その正体、見極めてやる」と息巻いていたくせに、そんな簡単なことにすら気が付かないなんて……。そういうところは昔から変わってないんだなと、アザミは大人になれない自分を嘲っていた。
「うん。いや、いい。自分でもちょっと悪ふざけが過ぎたと思ってる。こっちこそ悪かった。」
すっかり化けの皮が剥げたヌシカが、そんなふうに頭を下げ返していた。
さっきまでの豪気はどこへやら。今のヌシカはさっきとまでとは正反対の好青年ぶりだ。
(なんだこいつ?……わけの分からん妙な特技持ちやがって。こっちの方が素なのか?)
アザミはじいっとヌシカのことを観察していた。
今のヌシカは、どう見てもどこにでもいるただの男だ。しかもどちらかと言えばヘタレ寄りの。そんな奴が、本当にあの豪放磊落そうなヌシカを演じていたというのか。
「アザミ様。わたしからもお詫び申し上げます。わたしどもに色々至らぬところがあり、ご不快な思いをさせてしまったかと思いますが、こちらにも少々事情があるのです。主人もこうして頭を下げております。ここはどうかお怒りを鎮めてはくださいませんか?」
アザミの鋭い観察眼を怒りと勘違いしたらしいナリタが、どうかと頭を下げて寛恕を願い出ていた。
「ん?ああ。――で、事情って?俺がこいつを知らないことと、なにか関係が?」
しかし当代のヌシカに興味を持ちこそすれど、決して怒ってるわけじゃないアザミだ。だから当然のように許すと、ナリタの言わんとしている事情とやらを催促していた。
すると、一度天井を見て目を閉じたナリタ。
「はい。これは他所に漏れるのは少々憚られることなので、口外無用にしていただきたいのですが……。」
天を仰いでいたナリタは、アザミに向き直るとそう前置きをしていた。そしてその事情とやらを語りだす。
「実はご当主。他家に奉公に出されたまま、当家には戻っておられなかったのです。」
「ふうん。そうか。」
ナリタの語った事情は、別にそう珍しいことでもなかった。権力者の子息であれば見聞を広めるために他所に出されることなど、まああることなのだ。
「で、俺が知らないってことは、結構長いんだよな?」
「はい。およそ十五年。」
「十五年?」
ナリタの言葉をアザミがオウム返しにしていた。
十五年と言えば、ナライが生まれるよりももっと前。ヤクトが宮仕えを辞して故郷で嫁を貰ったころだ。そして自分も、それまでの好き勝手な振舞いをやめ、方々に手広く人脈を作る様になった頃でもある。
いくら何でも長すぎる。そんなに長いこと外に出されていたとは……。
「へええ。十五年も、よくもまあ……。」
アザミは目の前のヌシカの意外な根性に感心していた。
アザミがこの柴馬村との付き合いを始めてからおよそ十年だ。それでも十分に長い時間だと思うが、それ以上の歳月、他家に仕えていたのであれば、そこのヌシカは見た目以上に芯が強い奴なのかも知れない。
「それで、なんだって十五年も家に帰らなかったんだ?」
「はい。それは――」
そしてナリタはまた続きを語り始めるのであった。
「はい。それは、奉公とは申しましたが、それは外聞の良いように取り繕った結果でして……。」
「……勘当か。」
「……ご明察の通りでございます。」
言い淀んだナリタの心情を察したアザミがピタリと言い当てると、ナリタは正直に認めていた。
(ああ。そういうことか。)
勘当。それなら確かにあの老ヌシカが、この若ヌシカのことを何も語らなかったことにも納得がいく。誰が好き好んで家の恥を晒したがるものか。
しかし勘当となるとそれなりの理由があると思うのだが……。
「勘当とはまた穏やかじゃないな。一体何やらかしたらそんなことになったんだ?」
聞いて良いことなのか?そういう思いもなくはなかったが、向こうから語ってきた以上は構わないだろうと思ったアザミ。
するとナリタは、今まで以上に言いにくそうにその理由を語り始めていた。
「実はご当主。少々遊びが過ぎるところがございまして――」
「だろうな。」
理由を聞いたアザミは食い気味に口を挟んでいた。
今さらそれがどうした?言われずとも、こっちはたった今までその遊びに付き合わされていたんだ。そんなことあらためて言われなくても、驚くことでもなんでもない。
しかし、そう言われて困惑したのはナリタで……。
「いえ。そうではなく……ありていに申しますと、ご当主、少々火遊びが過ぎるところがあるのです。」
――それからナリタが語った事情は、まあまあありそうな話だった。
まだ若かったころの当代ヌシカは、今では考えられないほどだらしがない下半身の持ち主で、毎日のように女をとっかえひっかえして遊んでいたのだと言う。
しかし相手の女もさる者で、そんなヌシカのだらしなさを知った上で応じていたので、大した問題にはならずに済んでいたのだ。
しかしある日、事件は起きた。
いつものように好き勝手に遊び惚けていたヌシカは、あろうことか村の外の女に手を出してしまったのだ。
いかに浮名を流しているヌシカと言えど、それは柴馬の中でのこと。だからヌシカの情熱を本物と受け取ってしまった女は本気でヌシカに入れ込んでしまい……。
「――ああ。いいや、それ以上は。悪かったな。変なこと話させて。」
アザミは最後まで語り続けようとするナリタに謝っていた。
確かにこんな醜聞、ヌシカ個人の恥を飛び越えて、家の恥、ひいては柴馬の恥でしかない。
しかもその相手の女が隣村の名主家の娘だったとなれば、何をいわんや。
ナリタが口外無用と口止めしたのもうなずける内容だった。
「なるほどな。それで先代が死んだのを機に呼び戻したってわけか。」
「はい。先代様には当代様の他に子がありませんでしたから。」
「ふうん。」
ナリタの言葉をつまらなそうに聞いたアザミ。
あのジジイ。息子を本気で勘当したんなら、とっとと養子でもなんでも取って跡継ぎにすればよかったのだ。なのにそれをしなかったってことは、あんなのでも我が子は可愛かったってことなんだろうが……。
「先代様ともども、わたしたち下の者も一緒になって当代様の行いを諫めていたのです。あの時もっとしっかり諫めておけば……。」
最後に付け加えられたその言葉に、当時から今に及ぶナリタたち家人の苦労が表れていた。
「ははは。当時は俺も若かったからなあ。まあ、それも今じゃいい思い出だ。」
しかし当のヌシカは完全に他人事みたいな言い草で、まったく懲りた様子を見せていなくて――
(あ~あ……。ダメだな、こりゃあ。)
そんな二人の様子を見ていたアザミは、ナリタの苦労が今後も続くらしいことを予感せずにはいられなかったのだった。
アザミ……主人公兄妹の保護者。結構好戦的なのは若いからなのか、それとも守らなくてならないものがあるからなのか?
ナライ……主人公・兄。しばらく出番ないからここの情報も増えないです。真・主人公なのに。
カヤ ……主人公・妹。アザミのお帰り待ち。やっぱり一人はちょっと不安。
ヌシカ……柴馬の名主。一人息子は甘やかされる運命にあるのです。若い頃は痩せてました。
ナリタ……名主家の使用人。昔っから苦労しっぱなしの人。だから老けてる。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
柴馬 ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹に「この村で待つように」と指示して送り出していた。約束の村。




