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北天のアリス  作者: 埼山一
第二章 約束の村にて
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第二章之四 柴馬の屋敷・一触即発

アザミ……主人公兄妹の保護者。やっぱり煙草(たばこ)吸わないようにしたい、時代的にも。

ナライ……主人公・兄。予告・しばらく出番ないです真・主人公なのに。

カヤ ……主人公・妹。気の回らない男二人に囲まれた旅ってのも大変だろうね。

ナリタ……名主(なぬし)家の使用人。アザミよりちょと齢上。モブってなんだっけ?

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。黒い方。すでに(うまや)に連れて行かれた。

疾風(はやて) ……ナライの愛馬。茶色い方。厩の仲間が増えた。


柴馬(しま) ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹(きょうだい)に「この村で待つように」と指示して送り出していた。約束の村。


「――ん?そうか……。そう言えばまだ名主殿(なぬしどの)挨拶(あいさつ)してなかったな。ナリタ、今すぐ頼めるか?」


 煙の立たない煙草(たばこ)(あきら)めたアザミがそんな依頼をすると、ナリタはすぐに主人に(うかが)いを立てに(はし)り、そして今返事を持って帰ってきたところだった。


「アザミ様。主人がお会いになられるそうです。」

「分かった。行こう。」


 名主の応諾(おうだく)を聞いて、アザミはすぐに立ち上がっていた。


「カヤ。お前はもう会ってるんだろ?だったら来なくていいから、このままナライを看てやってくれ。」

「あ、はい。でも何かあったらどうすれば?」


 カヤは宿を頼む時に一度会っているはず。だからナライのことを頼んだアザミだが、少し不安そうに答えたカヤだ。

 しかしカヤが心配するのももっともなことだ。

 誰もいない時にもしものことがあったら……。大人でも右往左往(うおうさおう)しそうな可能性を恐れない方がどうかしている。

 すると、その心配を解消してくれたのはアザミではなくナリタで――


「他の者を待機(たいき)させておきます。御用(ごよう)(さい)はその者にお申し付けください。」

「あ、はい。分かりました。」


 抜かりのないナリタの手配(てはい)にカヤが安心していた。

 こうしてカヤとナライを残して席を立ったアザミは、ナリタに連れられて名主の待つ本宅(ほんたく)へと挨拶に向かうのだった。




「――アザミ様。主人・ヌシカ様がお見えです。」


 ナリタの知らせを受けたアザミが頭を下げて待っていると、男一人分のずっしりした足音が部屋に入ってくるのが聞こえていた。


(ふん。やれやれ……。そんな大層(たいそう)な奴でもないんだけどな……。)


 形だけの礼を尽くしながら、内心ではウンザリしているアザミだ。

 実はアザミ、この村の名主・ヌシカのことをあまり好いていなかった。

 ヌシカと言う男は、なんと言っても頭が固すぎるのだ。(とし)のせいなのか、何を判断するにももしものことばかり考えて、攻めると言うことをしない。そんな小心(しょうしん)な男なのだ。

 だから今回も義理(ぎり)を果たすために挨拶に(おもむ)いたとはいえ、本心ではあまり乗り気ではなかったアザミで……。


「うぬがアザミだな。楽にしてくれ。わしが柴馬(しま)名主のヌシカだ。うぬの連れがひどい怪我を負って難儀(なんぎ)していると聞いたが、具合はどうか?」


 アザミが内心でヌシカの悪い部分をあげつらっていると、上座(かみざ)に着いたヌシカがそう言っていた。

 そして言われるままに頭を上げたアザミ。

 すると、そこにいたのは自分とそう変わらない齢恰好(としかっこう)のちょっと太めの男で……。


「……?」


 アザミは目の前に座る男に眉をひそめていた。


(誰だ……?こいつ、確かに名主のヌシカって名乗ったよな?)


 自分の記憶とまったく違うヌシカの姿に、アザミは不審(ふしん)を覚えずにはいられなかった。


「どうした?わしの顔になにか?」

「アザミ様。」


 いつまで()っても返事のないアザミを逆に不審に思ったヌシカとナリタが声をかけていた。


「ああ、いや……。」


 そして我に返ったアザミ。

 いくら相手の正体が(つか)めなかろうが、自分から会いたいと持ち掛けておいて疑いの目を向けるというのは、いくらなんでも無礼にもほどがある行為だった。


「――おかげさまを持ちまして、連れの手当ても無事済ませることができました。今宵(こよい)の宿と(あわ)せて御礼(おれい)を申し上げたく、お目通(めどお)りを願った次第(しだい)です。」

「うむ。そうか、それは良かった。まあ怪我が一晩で治ると言うこともあるまいし、気が済むまで何日でも逗留(とうりゅう)するとよい。」


 目の前にいるヌシカは、アザミの知っているヌシカとは違い、なんとも上機嫌(じょうきげん)豪気(ごうき)な男だった。頼み込まれる前から、好きなだけいればいいなどと言い出すとは。

 しかしそれだけに、この男の正体がわからずに警戒感(けいかいかん)を強めるアザミだ。

 目の前のヌシカを名乗る男に、今のところ悪質さは感じない。が、だからと言って簡単に信用して良いわけもなく……。


「……失礼ながら、あなたは一体何者か?俺はこの村の名主とも面識(めんしき)がある。この村の名主はもっと老いた男だったと記憶していたが……?」

「アザミ様!」


 思い切って尋ねてみたアザミの不躾(ぶしつけ)さに、ナリタが血相(けっそう)を変えて割って入っていた。

 いかに顔見知(かおみしり)りの客人とは言え、主人に対する無礼は許さない。そういうつもりのようだった。

 しかしアザミにだって言い分はある。ヌシカを名乗る目の前の男が自分の知っているヌシカとあまりにも違い過ぎるのだから、事情が分からないままこんな不審者の世話になることなどできるわけがないのだ。

 ところが、無礼を働かれた当のヌシカは、「ああ、よい。」とナリタを制していて、アザミの無礼な態度を毛ほども気にする様子はなく……。


「そうかご客人。うぬは知らぬのだな。うぬの言う老いた男とは先代のことであろう。先代……つまり我が父は先年身罷(みまか)られたのだ。したがって今はわしがこの柴馬の名主・ヌシカというわけだな。」


 堂々と説明する自称・ヌシカだ。そこにはやましいことは何もない様に見られる。しかしアザミは……。


「しかし俺は何度もこの地を訪れてそのたびにヌシカとも(した)しく(まじ)わっていた。だが俺は、ヌシカの息子のことなど見たこともなければ、聞いたこともない。もしあなたが本当にヌシカの息子だというのならば、そんな俺がまったく知らないというのもおかしな話ではないか?」

「うん?」


 この名主家の事情に精通しているアザミに、自称・ヌシカが驚いていた。

 実はアザミ、ヌシカと親しく交わっていたかはさておき、この村にそれなりの利益をもたらす者として割と重宝がられていたことには違いなかった。だから当然名主とも交流があったし、この家の事情もちょっとは知っているわけで……。

 アザミの知る()()()ヌシカは頭の固いジジイで、アザミはそのジジイに息子がいるなんて聞いたことがなかった。

 もしあのジジイに跡継(あとつ)ぎなんて者がいたのならば、あのジジイのこと。何かしらの事態に備えて前もって会わせておかないはずがないのだ。


(さあ、どう来る?)


 相手の正体を暴いてやろうとギッと見据(みす)えたアザミ。

 だが、そんなアザミを豪快(ごうかい)に笑い飛ばしたのは目の前のヌシカで――


「はあっはっはっはっ!そうか。うぬは目端(めはし)()くのだな。なるほど、家のそんな事情まで知っておったとは。」


 自称(じしょう)・ヌシカは悪びれることもなく、アザミの意見を受け入れていた。


「では認めるんだな?自分はヌシカではないと。」

「う~む。さあて、それはどうであろうなあ……。」


 アザミはいよいよ()()っていた。

 しかし、はぐらかそうとする自称・ヌシカだ。


(こいつ、何が狙いだ……。)


 アザミは目の前の男の動向(どうこう)に注意しながら、周囲の気配も探っていた。

 特に危険な感じはしない。辺りには兵士のような闘気も感じなければ、刺客(しかく)のような殺気も感じない。と言うことは、直近(ちょっきん)に危機はないと見ていいだろう。


(それともなけりゃ、相当な使い手を配置してるってことだが……。)


 自分にすら気配を悟らせずに動ける存在。つい先刻(せんこく)、世の中にはそんな奴もいると言うことを知ってしまっただけに、警戒を(ゆる)めることはないアザミだ。


(まさか、()()()ってことはないよな……。)


 アザミはいいように翻弄(ほんろう)されて逃亡(とうぼう)を許した賊徒(ぞくと)首領(しゅりょう)鹿頭(しかあたま)のことを思い浮かべていた。あんなのが相手では、いくらアザミでも絶対に勝てるという自信はなかった。


「教えてくれ。あなたは誰だ?俺はただ本当のところが知りたいだけで、真実を知ったかららどうこうとか、そう言うつもりはないんだが。」

「ほう……そうか。しかしどうしたものか……。」

「……。」


 どうあってもニヤニヤとした余裕を(くず)そうとしない自称・ヌシカに、アザミは覚悟(かくご)を決め始めていた。


(チッ……。()られぐらいならその前に殺ってやるさ。)


 それがアザミの覚悟だ。

 刀は他の荷物と一緒に別棟(べつむね)に置いて来てしまったから、今あるのは(ふところ)に隠し持っている小刀だけ。

 しかしそんな得物(えもの)でも、自分なら一息(ひといき)間合(まあ)いを詰めて、あの自称・ヌシカぐらい仕留(しと)めることができるだろう。


(それほどの使い手には見えないな。手下を忍ばせてる感じでもない。じゃあなんだあの余裕は?ただの馬鹿なのか……?)


 やるとなったら慎重(しんちょう)()(うかが)うアザミだ

 あの無防備(むぼうび)さは不気味(ぶきみ)でもあるが、それが相手の馬鹿さに起因(きいん)しているのだとしたら、それは好都合(こうつごう)と言うものだ。

 たとえ相手の正体が何者だろうと、(かしら)が馬鹿なら、その手下も当然馬鹿だ。ならばこの場を切り抜けるのはそう難しいことじゃなくなる。


(頭が死ねば、(した)()は嫌でも混乱(こんらん)する。その混乱に乗じて脱出(だっしゅつ)(はか)れば……。)


 どこに連れて行かれたか分からない黒雲(くろくも)たちは一旦(いったん)(あきら)めなければならないだろうが、それでもナライとカヤだけは連れ出せる。

 そんな算段(さんだん)を立てていたアザミ。だが――


「アザミ様っ!」

「っ!?」


 ピリピリした殺気を見せ始めたアザミを一喝(いっかつ)して正気(しょうき)に戻らせたのは、他でもないナリタだった。


「どういうつもりかは存じませんが、これ以上事を荒立(あらだ)てるおつもりならば、わたしとて黙ってはおられません。お連れ様ともどもこの家から叩き出しますが、よろしいか!?」

「あ、いや……。」


 タジタジになるアザミ。

 アザミがそうなるぐらいに、ナリタの気迫は恐ろしい物だった。そしてそれだけでは収まらないその気迫は、今度はヌシカの方にも向いて――


「ご当主(とうしゅ)!ご当主もそのぐらいになさい!アザミ様はそのような冗談(じょうだん)が通じるお方ではありません。このままでは本当に殺されてしまいますが、それがご当主の望みなのですか!?」

「え?ああ、いや……。」


 こうして一触即発(いっしょくそくはつ)の危機的な状況は、ナリタの大喝(たいかつ)によって収まりを見せたのだった。


アザミ……主人公兄妹の保護者。表向きはしがない狩人(かりうど)だけど、色々手広くやってるんです、お家的な理由で。

ナライ……主人公・兄。予告・しばらく出番ないです真・主人公なのに。

カヤ ……主人公・妹。気の回るナリタとその妻には結構世話になりそうな予感。描写する気ないけど。

ヌシカ……柴馬(しま)の名主。まだアザミぐらいには若く、豪気な男。だが……。

ナリタ……名主(なぬし)家の使用人。アザミよりちょと齢上。モブを卒業して強モブになりそう。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。黒い方。

疾風(はやて) ……ナライの愛馬。茶色い方。


柴馬(しま) ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹(きょうだい)に「この村で待つように」と指示して送り出していた。約束の村。


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