第二章之三 柴馬の屋敷・別棟
アザミ……主人公兄妹の保護者。なんかもう主人公を超越した存在じゃね?まあ、典型的な狂言回しですよね。
ナライ……主人公・兄。またしても何も知らないナライさん(十四)。
カヤ ……主人公・妹。こっちを真・主人公にしたくなるけどしない。
ナリタ……名主家の使用人。モブ。
黒雲 ……アザミの愛馬。大きい方。
疾風 ……ナライの愛馬。やや小さい方。
柴馬 ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹に「この村で待つように」と指示して送り出していた。約束の村。
アザミとカヤがなんやかんやと話している内に案内されたのは、割と最近建てられたらしい別棟だった。
「柴馬にご滞在の間、こちらをお使いください。馬はそこにつないでおいて下されば、あとで他の者が厩に移しますので。」
と、説明してくれたのは名主家の使用人・ナリタ。
「うん。それは分かったがまずは手当てを頼みたい。俺は何をすればいい?」
しかしアザミは、そんなことは二の次だとばかりに受け流すと、ナライの手当てについて尋ねていた。
「はい。すでに湯は沸いておりますが、他の準備がありません。わたしはこれより本宅に必要な物を取ってまいりますので、アザミ様はお怪我の方を奥に寝かせてお待ちを。」
「応、了解だ。よろしく頼む。」
こうしてアザミは準備をナリタに任せると、自分はナライを別棟へと運び込んだのだった。
今アザミがすべきことは、ナライを奥の間へと運んで寝かせること。と言っても、そんなことはすぐに終わってしまうことだ。
「カヤ。ナライを看ててくれ。何かあったらすぐに俺を呼べ。」
アザミは自分の荷物を持って付いてきたカヤに、そう指示を出していた。
「はい。でも先生は?」
「俺は今のうちに他の荷も運んでおく。いくら馬だって言っても、さすがに必要もない物をずっと背負わせっぱなしじゃあ、あんまりだからな。」
「あ。そう言えば、わたしお兄ちゃんの荷物のこと忘れてた。疾風に持たせたまんまだ……。」
「ああうん。ま、それはしょうがない。あとで回収してやればいいさ。」
こうしてアザミはナライを看るのをカヤに任せると、自分は荷を宿へと運び込み始めていた。
「よっ、と。」
宿と馬との間を何回か往復したアザミは、最後の荷を担ぐとこれからしばらく自分たちの塒となるこの別棟を見上げていた。
「ふうん。良く見積もってせいぜい四、五年ってところか……。まさか去年建てたってことはないだろうな。」
まだ初々しい香りが残る白木の柱を見て感心したアザミ。しかし――
「ん?」
アザミはとあることに気付かされていた。
アザミが前回この村を訪れた時は、名主の宅にこんな別棟など建っていなかったのだ。と言うことは、ここに来なくなってからもう四、五年は経っているということではないか。
「おいおい……。」
そんなに来てなかったのか。愕然としたアザミだ。
自分の感覚では、せいぜいが一、二年。「まあ、ちょっと足が遠のいてるなあ……」ぐらいに思っていたのに、こんなところで時の流れの速さを実感させられるとは、思いもよらないことだった。
歳を取ると時間の流れが速くなる――そんな言葉をいつかどこかで聞いた気がするアザミだ。しかし、そんなのは老人特有の憂愁。耄碌したジジイババアの戯言だと斬り捨てていたのに、まさか自分の身に降りかかってくるとは……。
「いやいや……。いやいやいや!そんなはずはない!俺の見立てが間違ってただけだ!こいつはまだ築一、二年!いやあ、新築のいい家じゃないか!」
誰に聞かせるわけでもないのに、やたらと声を張り上げたアザミ。
こうして時の流れの無情さを必死に否定したアザミは、最後の荷を担いでナライの寝ている部屋へと戻っていったのだった。
ナリタが手当ての道具を用意して戻ってくると、そのあとの展開は実に順調なものだった。
ナリタは手当てに必要な物の他に、もう一人中年の女を連れてきていたのだ。
そしてその中年の女は見事な手際でナライに手当てを施すと、そのまままるで風のように去っていった。
「――すまん。助かった。」
「本当にありがとうございました。」
できることは惜しみなくしてくれた。状況を見守っていたアザミとカヤは、残って片付けをしているナリタに頭を下げていた。
「いいえ。これぐらいのこと。」
すると、わざわざ手を止めて返事をしたナリタだ。
「また明日の朝、様子を伺いにまいりますが、何かあればいつでも声をおかけください。」
「分かった。ところでさっきの女は?」
アザミは了解すると、さっさといなくなってしまったさっきの女のことを尋ねていた。
ナライの手当て。ナリタの献身は勿論だが、それ以上に助かったのがあの女の見事な手際だったのだ。だから礼を言いそびれたままにしておくのは、ちょっと考えられないことだった。
「ああ。あれはわたしの妻です。」
「へえ。嫁さんがいたのか。」
「ははは。わたしを幾つだと思っているのですか。妻ぐらい当然いるでしょう。」
「まあ、それはそうだが……。」
自分にはいないんだが……。ちょっとした軽い会話のつもりが、独り身のことをチクリと責められたような気がして、なんだか居心地が悪くなったアザミだ。
どうも最近、齢の近い奴と家族の話をすると、なんとも言えない気分になるのはなぜなのか。
ふと気が付けば、カヤがアザミのことをじぃーっと見ていた。
「ん?なんだ?」
「いいえ、なんでも。」
「……?」
何か言いたそうなのに、聞かれても何も言おうとないカヤに、アザミは首をかしげていた。
最近、カヤが感情を隠すことが増えてきた気がする。――それは一年前では考えられない寂しいことだ。しかし父親でもない自分が深く突っ込んではいけないことのような気がして、それ以上は何も言えなくなるアザミ。
「あの女にも礼を言っておきたいんだが、会えるか?」
だからアザミは、そんな気分は脇に置いてナリタとの話に戻っていた。
「いえ。わたしから伝えておきます。あれで中々人見知りしますから。」
「そうか。じゃあ頼む。」
「はい。確かに承りました。」
やっとナライの手当てを済ませることができた。そう思うと、急に肩の力が抜けてきたアザミ。
(さすがに疲れたな。ちょっと一服するか……。)
こうしてアザミは懐から普段はあまりやらない煙草を取り出すと、一服しようと火を探し始めるのだった。
しかしアザミが、まだ名主に挨拶が済んでいないことに気が付くまでそう時間はかからないことで……。
アザミ……主人公兄妹の保護者。煙草吸うんだね。知らなかった。
ナライ……主人公・兄。昔って反抗期になる頃には元服だから、反抗のしようがないと思う。
カヤ ……主人公・妹。思春期だから秘密多し。
ナリタ……名主家の使用人。モブのつもりでも出番多いとキャラが育ってくる。アザミと歳が近いけど年上。
中年女……ナリタの妻。名前付けたけど必要なかった。もう出てこないと思う。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い方。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い方。
柴馬 ……賊徒に襲われた当初、アザミは兄妹に「この村で待つように」と指示して送り出していた。約束の村。




