第一章之終 回想一年前 ~大人の証~
アザミ……主人公のハンドル役。ブレーキ役。いないとお話が制御不能になる。
ナライ……真・主人公。基本的にアクセルしかない。だから勢いに任せるとこのまま賊徒討伐に参加しちゃいそう。
カヤ ……思春期主人公。勢いに任せると変に耽美なこと考えちゃいそう。
ヤクト……兄妹の父。主役とは程遠いのに妙に設定が混んでいる人。
エナ ……兄妹の母。旦那に比べると浅いね、設定が。
黒雲 ……アザミの愛馬。様子を想像するの楽しい。
深沢 ……賊徒討伐の拠点となる谷相にある村。
「ちぇ。山賊退治はお預けかあ……。ま、アザミに手伝い頼まれたんじゃ、しょうがないよな。そんなわけだからオレ、山賊は諦めるよ。」
アザミに仕事の手伝いを頼まれて鼻高々になったナライは、ふふんと胸を張っていた。
するとそんな様子のナライに話しかけてきたのはヤクトで……。
「良かったな、ナライ。」
「ん?良かったって何が?」
「お前いつも言ってるだろう、狩人になりたいって。いいか?アザミは腕利きの狩人だ。だから手伝いをするってことは弟子になるってことだ。」
「あ!そう言えば!」
ナライが表情をぱっと輝かせていた。
ヤクトの言う通り、日頃から狩人になりたいとこぼしていたナライだ。だから隠れて剣や弓の稽古をしていたのも、すべてはナライなりの狩人の修行のつもりだったのだ。
そんなところに来て不意にやってきた腕利きの狩人・アザミへの弟子入り話。これはもうナライにとって、勿怪の幸いと言うより他になかった。
「父さん!オレ、なっていいのかな?なっちゃうよ、狩人。」
「む。いいぞ。なれなれ。どうせなるなら一流になれ。盗める技は全部盗んで来い。」
「うん!」
興奮気味のナライは、ヤクトの激励に元気よく応えていた。
「じゃあ父さん。オレ、狩人の修行に行っちゃうけど、父さんも山賊退治、頑張ってね。」
ナライは、いかにもナライと言った感じの言葉で父に別れを告げていた。
実際には「狩人の修行」ではなく「戦地からの避難」のはずだが、ナライにとってはもうそんなことは関係ないことらしい。
しかしそんな言葉でも父としては嬉しいらしく、にこやかな笑顔を浮かべるのはヤクトで……。
「む。お前も頑張るんだぞナライ。日々即是鍛錬だ。」
「何それ?」
「分からないなら勉強しろ。|勉強することも一流になるには必要なことだ。」
「ええ!?オレ嫌いなんだよな、勉強。」
ヤクトの言葉にナライが渋い顔を見せていた。
「はははっ、まあそう言うな。実はな。父さん、たぶんお前がそう言うだろうと思って、お前がやる気になれるように、とっておきの物を用意しておいたんだ。」
「とっておき?」
急に何かくれると言い出したヤクトに首をかしげたナライ。ヤクトが何か物をくれるなんてことは、そうそうあることじゃなかった。
ヤクトが最期にくれたものと言えば、ヒスイの護り刀ぐらいの物で、要は生まれた時にくれる魔除けだ。そんな物だから当然、ナライにはもらった実感などないわけで。
「ああ。それはな――これだ。」
なになに?――と興味津々のナライに先んじて動いたヤクトは、自らの腰に掃いていた太刀をズイッと差し出していた。
「これって……。」
その意味をすぐに察して、ハッと息を吞んだナライ。
そんなナライにヤクトは言う。
「ナライ。お前はまだ子どもだ。だから父さんがお前を賊徒討伐に連れて行くことは天地がひっくり返ろうと絶対にない。でもな、それでもお前がもう元服してもいい齢になってるのも確かだ。だからお前にこれを預ける。これはお前がもうすぐ大人になるんだと言う男の証。さ、受け取れ。」
促されたナライは、ヤクトの太刀を両手で受け取っていた。
「うわ……。」
太刀からヤクトの手が離れて、思わず声が出たナライ。
それはズシリと重かった。
これが太刀。――こっそり一人で振り回していたお手製の木剣なんかとはわけが違う。
本物の重さを実感したナライは、もうそれだけで何も言えなくなっていた。
そして、そんなナライの真剣な面持ちに安心したのはヤクトだ。
良かった。この分ならナライはきっといい大人になる。――そういう想いを胸に、この太刀を渡した意図を丁寧に説くヤクト。
「いいか、よく聞けナライ。これはお前に預けておくが、あくまでも預けておくだけだ。だからまだお前の物じゃない。決して抜いちゃいけないぞ。」
「……。」
ナライは何も言わなかった。
いつもなら、「じゃあ、なんでくれたの?」とか、「抜いたらどうなるの?」とか、つまらないことを聞かずにいられないあのナライが、今は真剣な顔で父の言葉に耳を傾けていた。
「――お前は次に会う時までにこの刀に相応しい|大人になれるように努力しろ。それが出来ていたらその時は元服だ。晴れて大人の男の仲間入りといこうじゃないか。」
「相応しい大人って、どうすれば?」
「お前は一流の狩人を目指すんだろう。だったらそれに必要な鍛錬に励め。それが大人への近道だ。どうだ?できるな?」
「……でも……もし、できなかったら?」
「おいおい……。」
急に弱気な態度を見せた息子にヤクトは、「はぁー」とため息をついていた。
「なんだナライ!今からそんなことじゃ、いつまで経っても一流どころか一人前にだってなれはしないぞ。いいか!一人前の男はやる前からできなかった時のことなんて考えたりはしない。『自分にはできる!』――どんな時でもそうやって前を向いて生きるんだ。分かったな?」
「う、うん。分かった。」
「『うん』じゃない!一人前の男の返事は『応』だ!」
「応。」
「声が小さい!そんなんで一人前になれると思うな!」
「応!」
「まだだっ!まだ足りないっ!」
「っ応っ!!」
こうして響き渡ったナライの返事。
その声は向こうに見える山に跳ね返り、しばらくあとになってナライたちの耳に返ってくるのだった。
――そんなことがあったのが、去年の夏の終わりのことだった。
あれから一年。
今のアザミは、予想に反して一年も賊徒討伐に携わる羽目になってしまったヤクトに会いに行くため、ナライとカヤを連れて森の旧街道を征くところだったのだ。
そして、その時に遭遇した災難と言うのが……。
「ふう、くそ……。まさかこんなことになるとはなあ……。」
アザミは、賊徒たちに嬲られ満身創痍になったナライを胸に抱きながら、愛馬・黒雲を急がせていた。
どうしてこうなった?――それは昔のことを思い出している最中も常に頭の片隅に置かれている後悔の念だ。
しかしどれだけ悩もうと、その答えが出るはずもない。アザミは何かしらの出来事に遭遇するたびに、その時最善と思われる手を間違えることなく打っていたのだから。
時の運。巡り合わせ。――それがアザミの後悔に対する答え。
しかし、アザミがどれだけ自分自身を納得させようとしても、傷付き眠るナライの存在を胸に感じている限り、そんなことが出来るわけがないのだ。
「黒雲。もう少しだ。もう少しだけ急ぐぞ。揺らすなよ。」
こうしてアザミは、一人逃げたと言うカヤの無事を祈りながら、カヤが待っているはずの村へと急ぐのだった。
アザミ……こうしてアザミは主人公兄妹の保護者兼師匠になりました。
ナライ……真・主人公。アザミの弟子になったこの一年で罠、馬術、獲物の解体・保存法などを学びました。弓と剣はまだまだ。
カヤ ……思春期主人公。ナライと一緒にアザミに弟子入りした。兄よりも器用なので色々上手。因みに興味がなかったはずの狩猟の修行を始めた動機は……まあそう言うことです。邪な娘。
ヤクト……兄妹の父。本当は雪が降る前に片を付けて家族みんなで新年を迎える気だった。それからもう一年か……。
エナ ……兄妹の母。この一年間、旦那に会えなくて萎んでる。でも基本的にしっかりしてるので頑張れる。
黒雲 ……アザミの愛馬。この一年で少し肥えた。
深沢 ……賊徒討伐の拠点となる谷相にある村。




