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北天のアリス  作者: 埼山一
第一章 そもそもの始まりは
34/90

第一章之終 回想一年前 ~大人の証~

アザミ……主人公のハンドル役。ブレーキ役。いないとお話が制御不能(せいぎょふのう)になる。

ナライ……真・主人公。基本的にアクセルしかない。だから勢いに任せるとこのまま賊徒討伐(ぞくととうばつ)に参加しちゃいそう。

カヤ ……思春期主人公。勢いに任せると変に耽美(たんび)なこと考えちゃいそう。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父。主役とは程遠いのに妙に設定が混んでいる人。

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。旦那(だんな)に比べると浅いね、設定が。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。様子を想像するの楽しい。


深沢(みさわ) ……賊徒討伐の拠点となる谷相(たにあい)にある村。


「ちぇ。山賊退治(さんぞく)はお預けかあ……。ま、アザミに手伝い頼まれたんじゃ、しょうがないよな。そんなわけだからオレ、山賊は(あきら)めるよ。」


 アザミに仕事の手伝いを頼まれて鼻高々になったナライは、ふふんと胸を張っていた。

 するとそんな様子のナライに話しかけてきたのはヤクトで……。


「良かったな、ナライ。」

「ん?良かったって何が?」

「お前いつも言ってるだろう、狩人になりたいって。いいか?アザミは腕利(うでき)きの狩人だ。だから手伝いをするってことは弟子になるってことだ。」

「あ!そう言えば!」


 ナライが表情をぱっと(かがや)かせていた。

 ヤクトの言う通り、日頃から狩人になりたいとこぼしていたナライだ。だから隠れて剣や弓の稽古(けいこ)をしていたのも、すべてはナライなりの狩人の修行のつもりだったのだ。

 そんなところに来て不意(ふい)にやってきた腕利きの狩人・アザミへの弟子入り話。これはもうナライにとって、勿怪(もっけ)の幸いと言うより他になかった。


「父さん!オレ、なっていいのかな?なっちゃうよ、狩人。」

「む。いいぞ。なれなれ。どうせなるなら一流になれ。盗める技は全部盗んで来い。」

「うん!」


 興奮(こうふん)気味のナライは、ヤクトの激励(げきれい)に元気よく応えていた。




「じゃあ父さん。オレ、狩人の修行(しゅぎょう)に行っちゃうけど、父さんも山賊退治、頑張(がんば)ってね。」


 ナライは、いかにもナライと言った感じの言葉で父に別れを告げていた。

 実際には「狩人の修行」ではなく「戦地からの避難(ひなん)」のはずだが、ナライにとってはもうそんなことは関係ないことらしい。

 しかしそんな言葉でも父としては嬉しいらしく、にこやかな笑顔を浮かべるのはヤクトで……。


「む。お前も頑張るんだぞナライ。日々(ひび)即是(すなわちこれ)鍛錬(たんれん)だ。」

「何それ?」

「分からないなら勉強しろ。|勉強することも一流になるには必要なことだ。」

「ええ!?オレ嫌いなんだよな、勉強。」


 ヤクトの言葉にナライが渋い顔を見せていた。


「はははっ、まあそう言うな。実はな。父さん、たぶんお前がそう言うだろうと思って、お前がやる気になれるように、とっておきの物を用意しておいたんだ。」

「とっておき?」


 急に何かくれると言い出したヤクトに首をかしげたナライ。ヤクトが何か物をくれるなんてことは、そうそうあることじゃなかった。

 ヤクトが最期にくれたものと言えば、ヒスイの(まも)り刀ぐらいの物で、要は生まれた時にくれる魔除(まよ)けだ。そんな物だから当然、ナライにはもらった実感などないわけで。


「ああ。それはな――これだ。」


 なになに?――と興味津々(きょうみしんしん)のナライに先んじて動いたヤクトは、自らの腰に()いていた太刀(たち)をズイッと差し出していた。


「これって……。」


 その意味をすぐに(さっ)して、ハッと息を()んだナライ。

 そんなナライにヤクトは言う。


「ナライ。お前はまだ子どもだ。だから父さんがお前を賊徒討伐(ぞくととうばつ)に連れて行くことは天地(てんち)がひっくり返ろうと絶対にない。でもな、それでもお前がもう元服(げんぷく)してもいい(とし)になってるのも確かだ。だからお前にこれを預ける。これはお前がもうすぐ大人になるんだと言う男の(あかし)。さ、受け取れ。」


 (うなが)されたナライは、ヤクトの太刀を両手で受け取っていた。


「うわ……。」


 太刀からヤクトの手が離れて、思わず声が出たナライ。

 それはズシリと重かった。

 これが太刀。――こっそり一人で振り回していたお手製(てせい)木剣(ぼっけん)なんかとはわけが違う。

 本物の重さを実感したナライは、もうそれだけで何も言えなくなっていた。

 そして、そんなナライの真剣な面持(おもも)ちに安心したのはヤクトだ。

 良かった。この分ならナライはきっといい大人になる。――そういう想いを胸に、この太刀を渡した意図(いと)丁寧(ていねい)()くヤクト。


「いいか、よく聞けナライ。これはお前に預けておくが、あくまでも預けておくだけだ。だからまだお前の物じゃない。決して抜いちゃいけないぞ。」

「……。」


 ナライは何も言わなかった。

 いつもなら、「じゃあ、なんでくれたの?」とか、「抜いたらどうなるの?」とか、つまらないことを聞かずにいられないあのナライが、今は真剣な顔で父の言葉に耳を傾けていた。


「――お前は次に会う時までにこの刀に相応(ふさわ)しい|大人になれるように努力しろ。それが出来ていたらその時は元服だ。晴れて大人の男の仲間入りといこうじゃないか。」

「相応しい大人って、どうすれば?」

「お前は一流の狩人を目指すんだろう。だったらそれに必要な鍛錬に(はげ)め。それが大人への近道だ。どうだ?できるな?」

「……でも……もし、できなかったら?」

「おいおい……。」


 急に弱気な態度を見せた息子にヤクトは、「はぁー」とため息をついていた。


「なんだナライ!今からそんなことじゃ、いつまで()っても一流どころか一人前にだってなれはしないぞ。いいか!一人前の男はやる前からできなかった時のことなんて考えたりはしない。『自分にはできる!』――どんな時でもそうやって前を向いて生きるんだ。分かったな?」

「う、うん。分かった。」

「『うん』じゃない!一人前の男の返事は『応』だ!」

「応。」

「声が小さい!そんなんで一人前になれると思うな!」

「応!」

「まだだっ!まだ足りないっ!」

「っ応っ!!」


 こうして(ひび)き渡ったナライの返事。

 その声は向こうに見える山に()ね返り、しばらくあとになってナライたちの耳に返ってくるのだった。




 ――そんなことがあったのが、去年の夏の終わりのことだった。

 あれから一年。

 今のアザミは、予想に反して一年も賊徒討伐に(たずさ)わる羽目(はめ)になってしまったヤクトに会いに行くため、ナライとカヤを連れて森の旧街道(きゅうかいどう)()くところだったのだ。

 そして、その時に遭遇(そうぐう)した災難(さいなん)と言うのが……。


「ふう、くそ……。まさかこんなことになるとはなあ……。」


 アザミは、賊徒たちに(なぶ)られ満身創痍(まんしんそうい)になったナライを胸に抱きながら、愛馬・黒雲(くろうも)を急がせていた。

 どうしてこうなった?――それは昔のことを思い出している最中(さいちゅう)も常に頭の片隅(かたすみ)に置かれている後悔(こうかい)の念だ。

 しかしどれだけ悩もうと、その答えが出るはずもない。アザミは何かしらの出来事に遭遇するたびに、その時最善(さいぜん)と思われる手を間違えることなく打っていたのだから。

 時の運。巡り合わせ。――それがアザミの後悔に対する答え。

 しかし、アザミがどれだけ自分自身を納得させようとしても、傷付き眠るナライの存在を胸に感じている限り、そんなことが出来るわけがないのだ。


「黒雲。もう少しだ。もう少しだけ急ぐぞ。揺らすなよ。」


 こうしてアザミは、一人逃げたと言うカヤの無事を祈りながら、カヤが待っているはずの村へと急ぐのだった。


アザミ……こうしてアザミは主人公兄妹(きょうだい)の保護者兼師匠になりました。

ナライ……真・主人公。アザミの弟子になったこの一年で罠、馬術、獲物の解体・保存法などを学びました。弓と剣はまだまだ。

カヤ ……思春期主人公。ナライと一緒にアザミに弟子入りした。兄よりも器用なので色々上手。因みに興味がなかったはずの狩猟の修行を始めた動機は……まあそう言うことです。(よこしま)な娘。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父。本当は雪が降る前に片を付けて家族みんなで新年を迎える気だった。それからもう一年か……。

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。この一年間、旦那(だんな)に会えなくて(しぼ)んでる。でも基本的にしっかりしてるので頑張(がんば)れる。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。この一年で少し肥えた。


深沢(みさわ) ……賊徒討伐の拠点となる谷相(たにあい)にある村。


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