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北天のアリス  作者: 埼山一
第一章 そもそもの始まりは
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第一章之十八 回想一年前 ~出発の朝 別れの朝~

アザミ……なんか一番主人公っぽい。なんやかんや旧友(ヤクト)に振り回される運命にある人。ある意味不憫。不眠不休でも平気。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父で元お役人。家族大事。煩悩の大半はそれ。狙った時間通りに起きられる。

ナライ……真・主人公。ムニャムニャ起きたあと、ガバッと元気になるタイプ。

カヤ ……思春期主人公。スッキリ起きられるタイプ。

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。母の朝は早い。でもたまに寝坊する。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。夜明けとともに起きる。


深沢(みさわ) ……賊徒討伐の拠点となる谷相(たにあい)にある村。


 次の日のヤクトの家は、朝から全員大忙しだった。


「――じゃあ、父さんたちは挨拶(あいさつ)回りに行ってくるからな。お前たちもしっかりやっておけよ。」

「特にナライ。あなた、お母さんがいないからって勝手に遊びに行ったりしたら……分かってますね?」


 そう言って家を出た大人組。昨晩は少し元気を失っていたエナも一晩のうちに納得したらしく、今朝はいつも通りの態度でヤクトのあとについて行ったのだった。

 そして残された子ども組は――


「さてと……はい!それじゃ、張り切っていきましょっか。」

「ちぇ。やだよ、めんどくさいなあ。――なあカヤ。お前さ、荷造りよりも掃除の方やりたくないか?交換しようぜ。」

「イヤ。掃除はお兄ちゃんって言われたんだから、お兄ちゃんがやって。それに交換したって、どうせグダグダ言ってやらないんでしょ。」

「うげえ……。」


 と、そんな調子で旅の荷造りに取り掛かったり、しばらく空けることになる家の掃除に追われたりしていた子ども組。

 そしてその子どもたちの中には、本来なら暇を持て余していなければならないはずの客人も含まれていて――


「――ねえアザミ。こっち手伝ってよ。こんなの一人じゃ無理だって。」

「悪いなナライ。俺も手が(ふさ)がってるんだ。あとにしてくれ。」


 めんどくさがるナライのお願いをにべもなく断ったアザミの姿がそこにはあった。

 曲がりなりにも客人であったアザミには、当然仕事が割り当てられなかった。しかしそうなって困るのもまた客人と言うもので、一人暇を持て余してしまったアザミは、手持ち無沙汰(ぶさた)のあまり率先(そっせん)してカヤの荷造りの手伝いをしていたのだ。


「ええ~!?あとってどれくらいだよ?オレもう動きたくないんだけど。」

「お兄ちゃん!いつも遊んでばっかりで何もしないんだから、こんな時ぐらいちゃんとやってよね。――あ、アザミさん。これ持ってった方がいいですか?」

「うん?……ああ。それはウチにもあるが、数がどうだっだかな……ま、それほどかさばるもんでもないし、持ってくか。」

「はい。じゃあ三つ持ってきますね。」

「ねえアザミィ~。疲れた~。早く手伝ってくれよ~。」

「お兄ちゃんっ!」


 ――そんな感じで終日(しゅうじつ)バタバタと動き回っていたナライたち。一日中がそんな調子だったから、この日が過ぎ去るのはあっという間のことだった。




 そしてさらに次の日の朝。

 みんながそれぞれに頑張った甲斐(かい)あって、前日のうちに何もかもすっかり済ませていたナライたち。

 ナライたちは、家の前でたった一人見送る側に立ったヤクトに、一時の別れを告げようとしていた。


「――みんな、忘れ物はないな?今日ここを出たら、父さんがいいって言うまで帰って来れないからな。だから今のうちに、しっかり確認しておけよ。」

「はい。大丈夫です。」

「もう昨日から何回も確認してんだし、ヘーキだって。」


 いつも通りの笑顔を見せてくれた父の言葉に、カヤとナライがいつも通りの言葉を返していた。


「それにしてもずいぶんきれいになったな、この家も。う~ん……まるで新築みたいだな。」

「そりゃあ、オレが本気で掃除したんだもん。そんなの当たり前に決まってんじゃん。」

「ふん。何言ってんの?お母さん帰ってくるまで何もしてなかったくせに。」

「あっ!コラバカ、言うな――」


 ヤクトの褒め言葉にヘヘンと鼻を伸ばしたナライと、そんな兄をジト目で告発したカヤ。

 この二人もまた今日と言う特別な日に緊張することもなく、いつも通りでいられるようだった。


「……。」


 だがそんな子どもたちとは反対に、先ほどから口を(つぐ)んでいる者が一人。


「はあ……。」


 それはエナだった。

 いつもならカヤの告発に目を吊り上げて怒るはずのエナが、今は気落ちしたように目を伏せて、会話に参加する様子を見せていなかった。


「どうした?やっぱり里から離れたくないのか?」


 そんな妻の様子に気付いたヤクトが声をかけていた。昨日は里を出ることを承知してくれたと思っていたのに、一体どうしたと言うのか。

 すると顔を上げて、いつも通りの笑顔を見せようとしたエナなのだが……。


「……あ、いえ。そうではなくて……。」


 しかし、その笑顔はやっぱりどこか寂しそうなものでしかなくて――


「――離れるぐらいなら、私……。」


 そう続けたきり、またうつむいてしまったエナ。そして(おもんばか)ったヤクト。

 このエナ。この里で生まれ、この里で育ってきた生粋(きっすい)の里の女だった。

 里を離れたくない。――切実にそう願ってはいても、こんなのっぴきならない事態になっている以上は表立った反対も出来ず、今回の決定をどうにかして受け入れようと苦悩していたのだろう。

 昨日は空元気(からげんき)で乗り切ったようだったが、そんなものがいつまでも続くはずがない。


「そうだな……。」


 だからヤクトはそんな妻に声をかけていた。

 なにしろヤクトもまたこの里で生まれた男。

 エナと違い、一時宮仕(みやづか)えをしていたからずっと里にいたわけではないが、それだってすべては里を愛すればこそのこと。里への想いは決して余人(よじん)に劣るものではなかった。


「確かに勝手に決めたのは悪かった。急な話だとも思う。俺だって離れずに済むならそうしたいさ。」

「え?」


 ヤクトの言葉にハッと顔を上げたエナ。その表情には自分の想いを解ってもらえた望外(ぼうがい)の驚きが見えていた。

 しかしヤクトだって、エナの気持ちになって考えてることぐらい当然のようにできるのだ。だからこそ、さっきの言葉も出て来ると言うもので……。


――俺だって、自分がお前の立場なら、里から離れずに済む方法があるならそうしたい。――


 そんな夫の言葉だから、悩む妻の心にも響くと言うものだった。




「あの……離れたくないって……そう思ってるんですか?」

「ああ。離れたくないと思ってる。」

「本当に?」

「本当だ。」

「良かった……。」


 ヤクトがエナの気持ちに気付いてやれたことで、エナが迷いを断ち切る(きざ)しを見せ始めていた頃……。


(……?何やってんだ、こいつら?)


 なんだか知らないうちに始まっていたヤクト夫妻(ふさい)演じるこの「夫婦(ふうふ)(きずな)劇場」を、否応(いやおう)なしに見せられた独身者・アザミは今、非常に居心地(いごこち)の悪い思いをしていた。


(今って別れの時だったよな?それがなんでこうなったんだ?)


 それが(はた)から見ていたアザミの感想。

 今さらになって、「やっぱり残りたい」なんて言い出されるのも勿論いい迷惑だと思っていたアザミだったが、それ以上に迷惑なことをこうも平然とやって退()けているこの夫婦を、一体なんと例えればいいのだろうか。それがどうしても分からない。


「あの……私、いきます。」

「そうか……行ってくれるか。」

「はい。それがあなたのためになるなら。」

「はっはっ……それはちょっと大げさだな。」


 だが、そんな言葉を探している間にもこの観劇(かんげき)拒絶(きょぜつ)不可の寸劇(すんげき)はどんどん先に進んでゆくばかりで……。


(……なんか納得いかねえな。)


 だから、こんなしょうもない寸劇を見せられたアザミが不満を抱くのは当然だった。別に(ひと)り身のやっかみなどではない。

 それにアザミには気になることもあった。

 それは、この夫婦の言いたいことが微妙(びみょう)に食い違っているのではないかという疑念(ぎねん)


「そんなことありません。私、その……あなたの本心が聞けて嬉しかったんですから。」

「お?そうか?そんなに嬉しかったか?」

「はい。なんかこう希望みたいなものが湧いてきました。」

「はっはっはっ。そんなにか。なら俺も言った甲斐があるな。」


 最初、ヤクトは――里から離れたくないのか?と聞いていた。

 それに対して、エナは――離れたくないと、と答えた。

 だからヤクトは、――俺だって離れずに済むなら……と、応じていた。

 それでエナの迷いが晴れ始めたのだから、それで良し。と終わらせてもいいのだが、アザミにはこの会話にどうしてもモヤモヤとして消化できない部分があるように思えてならないのだ。


(嫁さん、ヤクト(あいつ)と離れたくないってゴネてるように見えたんだが……。)


 それがアザミの感じていた引っ掛かりの正体。とは言え、本人に確認したわけじゃないから確信はない。

 だがそんなエナに対してヤクトは、この里に対する想いを語っているように見えた。


(う~ん……どっちだ?――いやまあ。俺には関係ないし、どっちでもいいっちゃいいんだが……。)


 しかしそのあとも、「生きます」なのか、「行きます」なのか――さすがに死を考えるほどに追い詰められているようには見えなかったが、一度そう思い出すとどうにも二人の会話がことごとく食い違っているような気がしてならないのだ。

 そう言えば、里を離れたくないのかと聞かれた時、エナは「いいえ」と答えて……。


「はい。でも私、本当に嬉しかったんです。あなたの想いが聞けて。」

「そんなに嬉しかったなら、またいくらでも聞かせてやる。その時を楽しみにしてるといい。」

「まあ。」


(ああもう!うるせえな!いい加減にしてくれ!)


 結局、二人の情熱に思考を乱されたアザミは、それ以上考えるのをやめていた。


アザミ……なんか一番主人公っぽい独身男性。義理堅(ぎりがた)い性格が災いしたりしなかったり。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父で元お役人。家族大事。だから家族に悲しみは見せない。

ナライ……真・主人公。アザミの家までの旅が楽しみで仕方ない。(ヤクト)との別れはあんまり深く考えてない。

カヤ ……思春期主人公。どんなことも前向きに考えるようにしてる。

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。こうなるともう母親っぽさはない。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。今荷物いっぱい背負ってるから、さすがに人は乗れない。


深沢(みさわ) ……賊徒討伐の拠点となる谷相(たにあい)にある村。


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