第一章之十六 回想一年前 ~父の想い~
アザミ……なんか一番主人公っぽい。旧友が疲れていることに気付いて労いに来た。
ヤクト……兄妹の父で元お役人。自分の時間を邪魔されたけど、まあこれはこれで。
ナライ……真・主人公。今、寝る準備中。
カヤ ……思春期主人公。もう寝てる。寝つきが良い娘。
エナ ……兄妹の母。まだ起きてる。基本的には人に合わせるタイプ。
黒雲 ……アザミの愛馬。タフさが自慢だけどさすがに今日は寝た。
深沢 ……賊徒討伐の拠点となる谷相にある村。
「――俺はな……ずっと迷ってたんだ。」
アザミに迫られたヤクトは、空になった湯呑の底を見つめながら語り始めていた。
「迷う?」
「ああ。実は今でもまだ迷ってる。」
「……。」
アザミは何も言わなかった。
何か助言を求められているわけではないことが分かっているからだ。
ヤクトは迷っていると言った。――何に対してなのかまでは分からないが、迷っているのは本心だろう。
そしてこうして語っている最中も、ヤクトは自力で答えを見つけようと、悩み続けているのだ。
そのことが分かっていながら、ホイホイと口を挟むようアザミではなかった。
「なあ?子どもたちをどう思う?」
「子ども?ナライとカヤのことか?」
ふいに振られた質問の意味を尋ねると、ヤクトはコクリと頷いて答えていた。
「どう?……どうって言われてもな……。」
しかし、答えに詰まったアザミだ。
あの二人をどう思うか?――そう問われても、ちょっと一口には言い表せそうになかったのだ。
あの兄妹。兄のナライと、妹のカヤ。
今日久しぶりに会ってみたが、相変わらず活発で、相変わらず言い争ってばかりいた二人。
(それをどう思うか、だと?)
アザミは今日の出来事を振り返っていた。
今日、里に入って最初に出会ったのがカヤだった。
今日のカヤで印象に残っているのは、何と言っても大岩での一件だろう。まさか高所がダメだとは露知らず誘ってみれば、あの怯えよう。
その他にも、黒雲と打ち解けたり、ちょっとした失敗に落ち込んだり、得意げだったり拗ねたり怒ったりと、まあ様々な表情を見せてくれたのが今日のカヤだ。
(ふふ……うん。よくもまあ、あんなにコロコロと……。)
今日半日だけでもあれだけ喜怒哀楽を十分に披露してくれたカヤだったが、総じて上機嫌だったのは間違いなく、アザミも一緒にいて気分が良かったものだ。
そして、そのカヤが「怒」を披露しなくてはならなかった原因と言えば――
(まあ、言うまでもないか……大抵の場合はあいつが原因だからな……。)
と、カヤに続いてナライのことを思い出したアザミ。
今日のナライとの出会いは、予期しないものだった。
大岩の天辺で独り昼寝をしていたナライは、何も知らずに登って来たアザミを認めるなりタメ口を利いてきて、その不躾をカヤに叱られたのが始まりだった。
その後も、何かと言えばギャアギャアと文句やら憎まれ口やら、とにかく誰かと言い争いばかりしているのが、今日のナライだった。
しかしよくよく思い返してみれば、ナライにもいいところはあった。
大岩を降りる時、怯える妹にちゃんと手を貸していたし、そのあとの帰り道で一人だけ歩くことになっても、全く気にしていない様子はカヤの兄貴と呼ぶに相応しいものだった。
最終的には母親に絞られて憔悴し、まるで別人みたいになったりもしたが、それでも気が付けばいつも通りの悪ガキに戻っていたナライ。
(ははは……まったく、あいつは……。)
どんなに叩かれても決してめげない挫けない。むしろ叩くたびに強くなるさまは鋼みたいな奴だなと思ったアザミだった。
(二人とも、まあ面白い奴なんだがな……。)
今日の二人に、アザミはそんな感想を抱いていた。
それに、この兄妹とは一緒にいて妙に心が躍ると言うか、温まるような気がしてもいたのだ。
だから、そのことをヤクトに伝えようと思ったアザミだったのだが――
「そうだな……あいつら――あ、いや。むむ……?」
急に口を噤んだアザミ。
それをそのまま伝えていいのだろうか?思いがけず充実していた一日に、つい緩みきった感想を伝えようとしていたが、さすがにそんなことを尋ねられているとは思えなかったのだ。
「ああ――うん……。」
結局何も言えずに、アザミはまた黙るしかなかった。
しかしそんなアザミを見て、苦笑しながら助け舟を出したのはヤクトで……。
「俺はな……ナライもカヤも、この数年で見違えるほど立派に成長したと思ってるんだ。お前もそう思わなかったか?」
「あ、ああ。そうだな。確かに見違えたな。」
やはりそう言うことだったか。――分かっているなら最初からそう答えればいいものを、的外れな感想を寸でのところで止めていたアザミだ。
(くそ……。それならそういうふうに聞けよ。)
アザミは自分のバカさに気恥ずかしさを覚えながらも、考える。
――確かにあの二人、しばらく会わないうちに一回りほども大きくなっていた。
特にカヤは女子と言うこともあってか、前回会った時よりも、心身ともにかなり見違えていたアザミなのだ。
「――子どもってのはすごいな。少し会わないだけであんなに変わるもんなのか。」
ナライたちの成長を褒めたアザミ。
自分があのぐらいの時もそうだったのだろうか?――忘却の彼方にある在りし日の記憶を引っ張り出そうとしてもすぐには見つけられなかったが、だからこそその驚きを賛辞にして伝えてみたのだが……。
「ああ。」
しかし喜ぶと思われたヤクトの返事は、なぜか寂しそうなもので――
「――そうだ。二人とも大きくなった。……俺の手を離れるまで、あと数年ってところだろうな……。」
それだけ言ったヤクトは、そのまま黙り込んでしまうのだった。
アザミ……なんか一番主人公っぽい。別に自分の思春期の頃のことを忘れるほど齢食ってるわけじゃない。ただ、色々あって無意識に鍵をかけてるだけ。
ヤクト……兄妹の父で元お役人。子どもたちへの感情は寂しさと嬉しさが同居してる時期。
ナライ……真・主人公。まだ、寝る準備中。
カヤ ……思春期主人公。すっかり寝てる。寝起きも良い娘。
エナ ……兄妹の母。まだ起きてる。心がざわついてる&旦那の帰り待ち。
黒雲 ……アザミの愛馬。一応寝たけど、慣れない馬房で落ち着かない。
深沢 ……賊徒討伐の拠点となる谷相にある村。




