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北天のアリス  作者: 埼山一
第一章 そもそもの始まりは
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第一章之十五 回想一年前 ~ため池にて~

アザミ……なんか一番主人公っぽい。人間関係は距離を大事にするタイプ。

ナライ……真・主人公。サバサバした人間関係を好む。

カヤ ……思春期主人公。普段から独りも平気って装ってるけど、誰かと一緒にいる時のご機嫌っぷりが尋常じゃないので装えてない。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父で元お役人。今、奥さんが凹んじゃってて胃が痛い。

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。志向が内向き過ぎて里から出たくない。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。鼻筋に沿って白毛が生えてる。


深沢(みさわ) ……賊徒討伐の拠点となる村。谷相(たにあい)にある。


 コロコロやら、ケケケケやら――自己の存在を主張することに必死な声が聞こえてくる今日の夜空は、変わらず良く晴れていた。

 そして視線を下に向ければ、上から降り注ぐ仄白(ほのじろ)い月の明かりが水面にキラキラと揺れている。

 プンプンとまとわりついてくる虫が鬱陶(うっとう)しいのが玉に(きず)だったが、それだって所詮(しょせん)は慣れの問題で、慣れてしまいさえすれば気にならなかった。

 そんなため池の土手に腰を下ろして、この夜の風景を眺めていたのはヤクト。


(今日も変わらないか。そして明日も……いや。来年も再来年(さらいねん)も、ずっとそうだ……。)


 ヤクトは何かあると、そのたびにここに来ては疲れた心を休めるのが好きだったのだ。



「よう。お疲れ。」

「ん。ああ。」


 後ろからの声に振り向くと、そこにはアザミが立っていた。

 そしてそんなアザミの手には、こっそり()()()()()()らしい湯呑(ゆのみ)が二つ。


「ほら。」


 アザミはその一つをヤクトに手渡すと、隣にトスッと座っていた。


「……よくここが分かったな。」


 急な来訪者にも、気を悪くすることもなく応じたヤクト。

 ここは誰にも言っていないヤクトの(いこ)いの場。探すには少々骨が折れるだろう。

 すると、アザミはさっそく湯呑を一口やって、「ふぅ」と一息吐いてから答えていた。


「いや。分かってないさ。たまたま見かけただけだ。」

「そうなのか?」


 聞き返しながらも、アザミのヘタクソな嘘にすぐに気付いていたヤクトだ。――ここはたまたま見かけるような場所じゃないし、なによりもアザミが都合よく持っていた()()()湯呑はどう説明するつもりなのか。


「そうなんだよ。()()()()だ。()()()()通りかかったら、お前がいたもんだから声かけてみただけだ。」

「ふふ、そうか……。」


 アザミの言い訳につい笑みがこぼれたヤクト。

 何の強がりなのか知らないが、どうあっても「たまたま」で押し通そうとするアザミだったが、状況から(かんが)みて彼がヤクトを探していたのは明らかだった。

 そして、ヤクトがこの場所に来てからもう半刻(はんとき)は経っている。

 アザミがいつから探し回っていたのか知らない。だが、ずっと湯呑を両手に、あちこち探し回っているアザミの姿を想像してみると……。


「ふ……ははは……。」

「なんだよ?」

「……いや。なんでもない。」

「……ふん。」


 そんなに長いこと自分を探し続けていたのかと思ったら、つい笑いが(こぼ)れてしまったヤクトだった。




「なあ……。」


 しばらく何も言わない時間が続いたあと、先に口を開いたのはアザミだった。


「――お前はよくやったと俺は思う。」

「どうした急に?」

「俺はさ。お前のことだから、てっきり途中で投げ出して、説明やら説得やら……全部俺に任せるのがオチだと思ってたんだ。だけどお前はやり切った。……はは。あれはらしくなかったな。」


 さっきの会議での落ち着いたヤクトの振舞いに、密かに感心していたアザミなのだ。

 ヤクトはそういうこともできる。――そう知っていたはずのアザミだったが、すっかり忘れていたこともあり、見た時の感動は一入(ひとしお)だった。

 すると、見ようによっては(ひど)く失礼なアザミの感想にも身に覚えがあるらしく、素直に認めたヤクト。


「まあな。他でもない俺の家族のことだし、いくら俺でも人任せにしたりはしないさ。」

「そういうもんなのか?」

「ああ。そういうもんだ。」

「ふうん。」


 ちょっと理解し(がた)い返答をくれたヤクトに、アザミは気のない返事をしていた。

 未だに身軽で気楽な独り身のアザミにとって、自分の家族云々(うんぬん)なんてことはまだちょっと実感が湧かないことだったのだ。

 しかし、「家族のことなら」と気を吐いていたヤクトも、慣れないことをやって退()けた反動が、ここに来てやっと出てきたようで……。


「でもさすがに疲れた……。やっぱりこういう重苦しいのはダメだな俺は。」


 と、ヘロヘロと背中を丸めて付け加えていた。

 それを見たアザミは、それでこそヤクトだと安心して言う。


「だろうな。お前があんまり難しい顔してるもんだから、どうにかなっちまったんじゃないかって、見ててハラハラしたぞ。」

「俺はそんなに(ひど)い顔してたのか?」

「してたな。あんな顔したお前を見たのは、確か――」


 気分が軽くなって、「()()()()()だな。」と、そう続けようとして、ハッとして口を閉じたアザミ。

 それからしばらく……。

 再び訪れた無言の時が、()()()の出来事の非常さを物語っていた。




「ところでさ……。お前、どうして俺だったんだ?」


 くいっと一口、湯呑の中身をやってから、どこかうら寂しさを感じさせるような湿気を打ち破ったのは、またしてもアザミの方だった。


「どうしてって……何がだ?」


 しかし、何を問われているのかよく分からず、尋ね返したヤクト。

 だがアザミも、今の聞き方では言葉が足りていないことを分かっていたようで、すぐに言葉を付け足していた。


「だから家族のことだよ。どうして俺に預けようと思った?お前ぐらい顔の()く奴なら、別に俺なんかじゃなくたって、もっと頼れる奴が他にいくらでもいただろう?」

「ああ……。」


 アザミの言いたいことを理解したヤクトは、空を見上げて気持ちを整理しようとしていた。

 夏の夜空に輝く星は数が少なく、あまりよく見えてはくれない。今日なんかは月が元気なことも関係してるだろう。


「嫌だったか?」


 そして、ヤクトは少し困ったような笑みをアザミに向けると、こう聞いていた。


「ははっ。まさか。」


 しかしそんなヤクトの懸念も杞憂に過ぎないと、いとも簡単に笑い飛ばしていたアザミ。


「――いいから言えよ。それとも、言いにくいことなのか?」

「ん……そうだな。」


 そう答えたヤクトは、それまでずっと両手でもてあそぶばかりだった湯呑に口を吐けると、クッと一気にその中身を飲み干していた。

 そして、アザミでなくてはならなかった理由をぽつぽつと語り始めるのだった。


アザミ……なんか一番主人公っぽい。触れない方がいい過去がある。

ナライ……真・主人公。今、寝る準備中。

カヤ ……思春期主人公。もう寝てる。寝つきが良い娘。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父で元お役人。触れない方がいい過去がある。

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。まだ起きてる。気持ちの整理に時間がかかるタイプ。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。鼻筋に沿って白毛が生えてる。


深沢(みさわ) ……賊徒討伐の拠点となる村。谷相(たにあい)にある。


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