第一章之十三 回想一年前 ~勘当 それぞれの想い~
アザミ……狂言回しやってることが多い人。狂言回しとは、ですって?あら?ご自身でおぐぐりなさるのがよろしいかと存じますわ。オホホホホ……。
ナライ……真・主人公。見た目は父似。真直ぐな所は母似。
カヤ ……思春期主人公。見た目は母似。色恋の形も母似。
ヤクト……兄妹の父。掴みどころはあるけど、掴もうとするとスルンて抜けちゃいそうな性格。今回セリフが多い。
エナ ……兄妹の母。保守的。
黒雲 ……アザミの愛馬。もうこの章で出番ないから説明することがなくなった。
「で、父さんがアザミを呼んだ理由って?」
一度父の許可を得たナライはもう怖いものなしだった。
今のナライは、誰に遠慮することもなく率先して「大事な話」の続きを促すようになっていたのだ。
「ああ。それなんだがな……。」
だがそんなナライとは対照的に、何とも歯切れの悪い話し方をする父・ヤクト。
「実はな……。俺がアザミを呼んだのは……『独り身のあいつで不憫でならない。』とか、『寂しさに負けて枕を濡らしているあいつを慰めてやろう。』とか、そんなことを思ったからじゃないんだ。」
しかし、その歯切れの悪さとは裏腹にヤクトの口から出てきたのは相変わらずの軽口で――
「おい。」
さすがに黙っていられなかったアザミだ。
(お前なあ、こんな時ぐらいビシッと決めろよ。)
一時のこととはいえ、家族の別れである以上は他人はいない方がいいだろうと目立たないようにしていれば、旧友から出てきた言葉は惜別とは程遠いものだったのだ。
ヤクトの性格をよく知っているアザミであっても、呆れるのは仕方のないことだろう。
だがヤクトは、そんなアザミのツッコミも耳に入っていないのか、完全にお構いなしで話を続ける。
「――俺がアザミを呼んだのはな、お前たちを迎えに来てもらうためなんだ。」
「え?」
「お前たちには早晩、この家を出て行ってもらう。」
ヤクトの勘当宣告に、家族が凍り付いていた。
「な~んだ。そんなことか。山賊?そんなのやっつけちゃえばいいだけじゃん。」
ヤクトが語った事情を聴いて一番に口を開いたのは、やはりと言うべきか例によって我慢のできないナライだった。
賊徒の討伐。念のための避難。――そんな難題もナライにかかればちょっとした冒険ぐらいの感覚なのだろう。
でも、ここまで楽天的でいられるのはナライくらいのもので――
「お兄ちゃんうるさい。ちょっと黙ってて。」
「はいよ。もう何も言いませんよ~。」
いつもより緊張したカヤの注意が、ナライを従わせていた。
それでも変わらない機嫌のナライだ。
あくまでも楽天的なナライは、重く苦しいばっかりのこの部屋の空気を――
(ふふん。)
と笑い飛ばして、一人軽くしているのだ。
しかしその一方。
(はあ……そんな……どうしよう……。)
ナライの楽天ぶりも、通用しないのは昏い顔をしているカヤだった。
賊徒。略奪。暴行。殺人。放火。――次々に連想される言葉が現実味を帯びて来て震えが止まらなくなるカヤ。
(ううん。大丈夫。大丈夫だよ。だってお父さんもアザミさんもいるもん。)
カヤは、この信じたくない事情をそれでもどうにかして良い方に考えようと、うつむくばかりなのだった。
子ども二人がそれぞれの反応を見せる一方。
もう少しだけ現実と言うものを知っていて、この深刻な事態にも心当たりがあったらしいエナは――
「そう……。賊徒……ですか。ご近所でも話に上ることはありましたが、まさか本当のことだったなんて……。」
ただの噂話だと思っていたことが事実だったと知ったエナは、気落ちしていた。
「ああ。それも相当過激な奴らだ。どうやら京の方から落ちて来てるらしくてな。ついこの間も村が一つ襲われて壊滅したって話だった。」
集会でその村の生き残りを名乗る人物から伝え聞いたことを、そのまま伝えたヤクト。
そしてヤクトは、自分に与えられた重要な役割をしっかりと伝えていた。
「――だから兵を組織して、俺がその指揮を執ることになったんだ。」
少し離れた所で話を聞いていたアザミは、ヤクトの複雑な胸中を慮っていた。
(因果なもんだな。やっとの思いで宮仕えを辞めたってのに、結局こうして人を使う立場に押し上げられちまうなんてな……。)
実はヤクト、若い頃は朝廷に仕える下級官吏だったのだ。|少ないとは言えきちんと部下もいて、さらに言えば国司に付き従って京に上ったこともあった。
一見すると順風満帆な人生に見えたヤクト。だがその後、なんやかんやとあった末に宮仕えに嫌気がさしたヤクトは官職を辞して、今の形に収まったのだ。
(あいつのことだ。そんな昔のこと、誰にも話しちゃいないんだろうが……。)
この場で……どころか、この里でヤクトの過去を知るのはたぶん自分だけだろうと思ったアザミ。
(それでも引き受けた以上は、しっかりやり切るんだろうな。お前はそういう奴だよ。)
どことなく寂しそうな気配を醸し出している旧友の背中を眺めていたアザミは、離れた場所で一人かぶりを振っていた。
(あっ……。)
ふと疑問に思うことが出てきたアザミは、ヤクトに話しかけていた。
「なあ。家族の話に口出して悪いんだが……拠点ってどこになるんだ?」
「ん?教えてなかったか?手紙に書いたと思ったが?」
「知らないな。それに書いてもなかった。」
キッパリと断言したアザミ。
ヤクトからの手紙など、ここに来るまでの道中何度も何度も、それこそ穴が開くほど読み返していたアザミなのだ。今さら、「見落としてました」なんてことがあるはずがない。
「そうか……。討伐の兵は深沢を拠点にして編成されることになってる。」
「深沢か……。」
言われて周辺の地理を思い描いたアザミ。
深沢はここから南にある谷相にある村だった。何の変哲もない村には違いないが、ここを通らないとそれ以上先に進めないと言う要所でもあり、賊徒の侵入を防ぐには理に適ってる場所だった。
(ふふ……なるほどな……。)
こんな判断ができるのは、おそらくヤクトだけだろうと考えたアザミ。
しかし深沢には問題もあった。それは深沢がこの里に近すぎると言うことだ。
深沢を拠点にしようというのであれば、何かの拍子に突破された場合、この里にまで戦火が及ぶことは十分に考えられることだった。
(だから俺を呼んだってわけか。納得だな。)
手紙には書かれていなかった事情を知ったアザミ。
「じゃあ、深沢の連中はどうなるんだ?深沢が、さっき言ってた「壊滅した村」ってわけじゃないんだろ?」
「ああ。やられたのは深沢じゃなくてもっと南の小村だな。」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「残念だが村としては廃棄されることになる。今ごろはもう退去騒ぎでてんやわんやだろうな。」
「……なるほど。分かった。邪魔して悪かったな。」
当座の疑問が解消されて、アザミは引き下がった。
もっと上手いやり方はなかったのか?――口を挟みたい気もしたが、この賊徒騒ぎの当事者ではない以上、それは控えたアザミだった。
「あの、廃棄なんて……そこまでしなきゃいけないことなんでしょうか?」
深沢が廃棄される。――エナが、不安そうに尋ねていた。
基本的にこの里から出たことのないエナだったが、それでも深沢には行ったことがあったし、知り合いもいるのだ。
だから、そこが廃棄されることが受け入れられないようだった。
「ん?うーん……絶対にしなきゃいけないってことじゃないんだが……。」
妻の言いたいことを察して、ちょっと回答に困ったヤクト。
「――と言うよりも、『した方がいい』とか、『その方が安全』って話なんだよ。俺が指揮する以上、なるべく村に被害を出さないようにするが、相手が何を考えてどう動くかまでは分からないからな。もしものことを考えたら、やっぱり避難しておくのが正解だろう?」
「その拠点……っていうのは、深沢の外に作ることは出来ないんですか?」
「さすがにちょっと難しい。よっぽど時間があればそれでもいいんだが、今からじゃそんな時間はないし、俺は村を罠として使おうと考えてるんだ。まとめて呼び込んで一気に叩く!ってな。でも、いくら賊徒が強欲だって言っても、いきなり出現した集落に押し入るほど馬鹿じゃないだろう?」
「でも……深沢にだって、ここが生まれ育った村、大事な故郷って人もいるでしょうに……。」
「……そうだな……。」
やっと本心を口にした妻に、胸が締め付けられる思いをしながら同意したヤクトだ。
誰かの故郷を壊すな。――エナの言っていることはもっともなのだ。誰かの犠牲の上に成り立った「自分たちだけの安全」なんて、ヤクトにとっても苦渋の決断だった。
「――でもな、何もしないわけにはいかないんだ。確かに廃棄は悲しいことだが、何もしなかったら、その深沢すら失われることになる。」
しかし、妻の言い分ががどんなに正しいことでも、「はいそうですね」と受け入れるわけにはいかなかいのが今のヤクトなのだ。
兵の指揮役を受け入れた以上は、最善を尽くすと決めたヤクト。
夢想やら理想やらのお花畑みたいな考えではなく、現実を見据えた上で最善をつくさなければならなかった。
「――それにな、賊徒がいなったらまた戻ってくればいいんだ。そうすれば村の復興もできる。だからそれまでの辛抱なんだよ。」
「……。」
結局この件について、エナがそれ以上口を開くことはなかった。
アザミ……事情通。事情を知ってる人は便利使いできる。
ナライ……真・主人公。今回は大人回だから出番控えめ。
カヤ ……思春期主人公。今回は大人回だから出番控えめ。
ヤクト……兄妹の父。元お役人様で部下を持った経験あり。だから兵の指揮を任された。
エナ ……兄妹の母。旦那がお役人様だったことは知ってるけど、そこで何があったかまでは知らない。
黒雲 ……アザミの愛馬。大きいけど道産子ではない。
深沢 ……賊徒討伐の拠点となる村。今後もちょいちょい出て来る。
国司 ……朝廷の偉い人。現代じゃ知事がそれに近い。和泉守とか大和守とか聞いたことない?――ある!?そうか!残念!それは大体の場合、自称してるだけさ。ハハハハハ。(時代が進むとみんな勝手に名乗りだします。)




