第一章之十一 回想一年前 ~夕食会 旧友同士~
アザミ……道中では野宿なんかもあったりして、やっと一息吐いた人。でも体力には自信があるのでまだ寝ようとはしない。
ナライ……真・主人公。今現在はまるで別人みたいに大人しくなった悪ガキ。どんなにイキがっても母親の手腕には勝てない。
カヤ ……思春期主人公。今現在は猫被ってるので割と大人しい。
ヤクト……兄妹の父。これで中々どうして親馬鹿なところがある。
エナ ……兄妹の母。最近はナライ専用躾機と化している自分が悲しい。
黒雲 ……アザミの愛馬。出番がないのでリラックスタイムと同時にちょっと寂しい。
いよいよ始まったアザミ歓待の夕食会でのこと――
「鮎だと?お前……鮎なんて別にお前がやるような仕事でもないだろう?」
アザミは、上座に座るヤクトの横で食事をつつきながら、この旧友が日中どこで何をしていたのかを聞くと、思わずそんな声を上げていた。
それならば、確かに河原を探しても見つからなかったことにも説明が付く。アザミが探したあの場所は鮭漁にこそ向いていたけれど、鮎を獲るには不都合な場所だったのだ。
(ちっ……早合点だったか。それにしてもまさか鮎とはな……。)
まさかの答えに、舌打ちしたアザミ。まさかヤクトが鮎漁に興じているなど思ってもみないことだったのだ。
だが、アザミのそんな大げさな態度にもまったく動じることなく応じるヤクト。
「そうか?別にそんなに驚くようなことじゃないと思うんだが?」
「馬鹿言え。驚くようなことだよ。何で男が鮎なんだ?」
俺が鮎を獲ることの何がいけないのか?――そんなヤクトに反論したいアザミは、逆に聞き返していた。
アザミが不服に思うのも、もっともなことではあった。――鮎漁は竹を並べて作ったすのこ・簗を、鮎の通り道に仕掛けて獲るのが近頃の主流だ。
簗に打ち上げられた鮎を捕まえる。つまり安全で楽。
それだけなら女や子どもでもできるので、わざわざ男が出向いてまでやるような仕事じゃなくなっていたのだ。
「その簗が壊れたんだよ。そのままじゃ危ないしな。誰かが見てやらんといかんだろう。」
「あ、くそ……そう言うことか……。」
何やらニヤついた表情をしたヤクトの答えに、自分がこういう反応を見せるだろうと分かった上での言い草だったと気付かされたアザミ。
そうだ。ヤクトとはこういう人間だったのだ。――久しぶり過ぎてそのことをすっかり忘れていたアザミだ。
だが今さら思い出したところでもう遅い。まんまと旧友の悪戯に嵌められて、一本取られた自分の迂闊さを恨むしかないのだ。
すると、そんな苦虫を嚙み潰したような顔のアザミを見て、次の話を振ってきたのはヤクトの方で――
「だがまあ、お前がこんなに早く来るとはさすがに思ってなかった。お前、そんなに俺に会いたかったのか?」
と、ヤクトは嬉しそうな顔をしてそんなことをのたまっていた。
だがそんな誤解をされては、さすがにアザミも黙ってはいられない。
「馬鹿言え。誰がお前なんかに会いたがるか。会わずに済むならそれに越したことはない奴だよ、お前は。」
「ひどい言い草だな。せっかく久しぶりに会ったって言うのに……。お前、それでも友か?」
「ふん。ただの腐れ縁じゃないか。別に好きで知り合ったわけでもない。いやなら絶交でも何でもするんだな。」
「う~ん。なんて冷たい奴だ。友達甲斐のない奴め。」
「ああ。勿論俺に友達甲斐なんて物はないさ。ま、お互い様って奴だな。」
実に遠慮のない二人だった。それでいてちっともギスギスした空気にはなっていない。
腐れ縁だの絶交だのと簡単に言ってはいるが、口で言うほどに浅い縁じゃないことが、それだけでも窺い知れるというものだった。
で、この旧友同士がそんな雰囲気だったから、同席していた他のみんなも安心して食事をつつくことができるというものだった。
それからしばらく後――終始和やかな雰囲気のまま進められていた夕食会も無事に済み、これは女性陣がその後片付けに追われていた時のこと。
会話の始まりは、カヤが言っていた通りにご飯食べたらすぐにいつもの元気を取り戻していたナライからだった。
「ねえアザミ。今日は何しに――ってぇっ!」
全部を言い切る前にゴチン!と音がしたかと思うと、頭を抱えてしまったナライ。
たまたま後ろを通りかかった母親・エナの強烈な一発を食らってしまったのだ。
そして、そんなナライにすかさずその意図を説明するのも、やはり母としてのエナの仕事のようで――
「アザミさんです。アザミさん。ナライ。目上の人ですよ。ちゃんとしなさい。」
と、エナは我が子の不躾な言葉使いにも優しく言い聞かせていた。
そして、そんなエナのありがたい指導を受けたナライはと言えば……。
「アザミさん……今日は何しに来たんですか?」
ナライは母親のありがたいお言葉に、目に涙を溜めてありがたがりながら、不躾な自分を直していたのだった。
「……。」
だが、無言のまま何も答えないアザミ。アザミは母子のやり取りについ呆気に取られてしまっていたのだ。
そんなだったから、アザミは部屋から出て行こうとしているエナの背中を見ては、ナライが自分に話を振っていることにも気付かずに――
(今のはすごい音がしたな……。どうやればあんな音が出せるんだ?)
と感心してばかりで、自分で再現するにはどうすればいいのかなどと、頭の中で試しているのだった。
「……?」
でもそうすると、いつまで経っても返事がないことにナライが怪訝な顔をしたくなるのも無理はないことで――
「ねえ、アザミ?オレの言うこと聞いてた?――っますかっ!アザミっ、さんっ!オレの言ったこと、聞いてたっ、ましたかっ!?」
ナライは、まだ母が部屋を出ていなかったことに気付いて、あたふたと言い直していた。
エナは、ナライのそんな涙ぐましい態度を微笑ましく見届けると、そのまま部屋の外へと姿を消していた。
一方で、ナライのやたら丁寧な尋ねように、やっと自分に話が振られていたことに気付いたアザミはと言えば……。
「ん?ああ……。そうか。お前にはまだ話が行ってないのか。」
この家族の情報の共有に、滞りがあったことを知らされたアザミだ。
だからアザミは、まるで独り言みたいにナライに尋ね返していたのだ。
「なに?話って?」
そしてアザミの質問に心当たりがないらしく、首を傾げたナライ。
ナライはこの場に母さえいなければ決して自分を曲げる気はないらしく、すぐにいつもの口調に戻っていた。
「ヤクト。お前、例の件、誰に話した?」
だがナライの質問には答えずに、ヤクトに話を振ったアザミ。
自分がやって来た要件――つまり、自分はナライたちを引き取るためにやって来たのだということ――は、他人の口から聞かせるようなことではないと考えていたアザミなのだ。
すると、ちょっと困ったように口を開いたのはヤクトで――
「ん?ああ、実はまだ何も。お前がぽろっと口を滑らせてくれるのを期待してたからな。」
さすがに後ろめたさがあったのか、ヤクトはアザミに視線を向けることなくそう答えていた。
「馬鹿。そういう大事なことを他人の口から語らせるな。ちゃんと自分の口から言え。」
「ふむ……だよな。こういうのは苦手なんだが、仕方ない。確かに自分で言わなきゃならん事だしなあ。」
アザミのもっともな非難に、素直に応じたヤクト。
そしてヤクトは女性陣が後片付けが終わるのを見計らうと、「話があるから集まってくれ」と、あらためて家族を集めて、今日アザミが訪れたその理由を語ろうとしているのだった。
アザミ……ヤクトといると決まっておちょくられるので、できれば一緒にいたくない。でもなんやかんやと言いながら、ヤクトは腹を割って話し合える貴重な友人だったりする。
ナライ……真・主人公。飯食うと秒で本来の自分に戻れる。懲りない。
カヤ ……思春期主人公。あ!今回出てない!新発見!
ヤクト……兄妹の父。割と誰に対してもおちょくってくる。でも許されちゃう得な人。
エナ ……兄妹の母。現代だと問題行動として通報されそう。
黒雲 ……アザミの愛馬。そろそろ眠いかも。でも頑張って起きてる。
簗 ……大体文中で説明できている漁具。現代じゃ観光設備と化しているらしい。もっと知りたければ、ご自分でお調べあそばせ。




