表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北天のアリス  作者: 埼山一
第一章 そもそもの始まりは
20/90

第一章之十 回想一年前 ~ナライの曲がらない信念~

アザミ……旧友の求めに応じて馳せ参じた義理者。堅苦しいの苦手なのでヤクトや子どもたちの緩い態度の方が嬉しい人。

カヤ ……思春期主人公。見た目が将来有望な上に要領よく生きてるから人生結構イージーモード。

ナライ……真・主人公。自業自得を体現する人。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父。アザミを呼びつけた張本人なのにそのこと忘れてた?

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。ナライのお仕置きがライフワークになりつつある。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。今日はもうお仕事終わったのでヤクト宅の馬小屋でのんびり休憩中。


 夕食の用意が始まってナライが姿を見せた時、アザミは自分の目を疑っていた。


「ナライ。お前……大丈夫か?」


 ナライの様子がいつもと全然違っていたのだ。いつもは有り余っているはずの元気が欠片(かけら)も見られなくなったその姿に、驚かずにはいられなかったアザミだ。

 だがそうやって気遣(きづか)って返ってきた答えは、ますますナライらしくないもので――


「あ、はい。大丈夫です。」


 この悪ガキらしくない()()()()言葉に、アザミは目だけでなく耳まで疑っていた。


(『あ、はい。大丈夫です。』だと!?)


 俺は今、夢でも見ているのか?――そんな言葉使いもできる。知らなかったナライの一面に驚いたアザミ。

 とは言え、ナライがこうなった原因は分かっているのだ。それはナライの母親・エナの存在だ。さっき彼女に絞られたことがよっぽどこたえたのだろう。

 だが一体どんな絞り方をすれば、あのナライがこんなふうになってしまうのか。


(本当にナライなのか?まるで別人じゃないか。)


 驚きよりも、興味が育まれてきたアザミ。

 こう言ってしまうとナライには悪いが、今のアザミには、こんなに面白いことを見逃すなんて、ちょっと考えられなくなっていた。


「なあ、ナライ。お前、何があった。良ければ俺に話して――あ、おい……。」


 しかしアザミの興味に、ナライはそれ以上応えようとはしてくれなった。

 ナライは、アザミの言葉が終わる前に勝手に下座(しもざ)に着いてしまっていたのだった。




(ふふん。ナライめ。俺から逃げられると思ってるのか?)


 一度興味に火の付いたアザミは、はっきり言って子どもとそう変わらない存在だった。

 今のアザミは、ナライにちょっと(そで)にされたぐらいで簡単に諦めたり考え直すような「分別(ふんべつ)ある大人」ではなくなっていたのだ。


「ナライ。今日は俺の隣じゃなくていいのか?」


 だからそんなことを言いながら、下座にいるナライに自分から近づいて行ったアザミだ。


(大体おかしいじゃないか。あのナライだぞ?)


 アザミの知っているナライは、誰が何と言おうと勝手に客人の横に座って、そこからはもう梃子(てこ)でも動こうとしない聞かん坊だった。

 それこそ大樹(たいじゅ)みたいに根を張って、こここそが自分の居場所と実力で主張してくるのがいつものナライだ

 そのナライが、今日は率先して下座に着いた。そのことを(いぶか)しんだアザミは、そんなのはナライじゃないと誘いをかけていたのだった。

 すると、今まで見たことのないようなすました顔を保ったままのナライ。ナライはいつもと違う調子で――


「あ、はい。お構いなく。」


 と、何とも丁寧なお断りを入れてくるではないか。


(『あ、はい。お構いなく。』だと!?)


 あまりのお行儀の良さに訝しむのを通り越して、つい吹き出しそうになっていたアザミだ。


(っくく……本当何があった?)


 あのナライをこうも大人しくさせてしまった母親(エナ)手腕(しゅわん)とはいったいどういうものなのか?――エナへの興味と畏敬(いけい)と、そして可笑(おか)しさがこみあげて来て、体が震えるのを必死に我慢しながら想像力を働かせたアザミだ。

 だが、どれだけ考えても分からない。ナライがこんなふうになる手段が、アザミにはどうしても想像できなかった。


(いや。ダメだ。これ以上は……くくくっ……。)


 なんかもうそれ以上耐えられなくなってきたアザミは、天井を(あお)いで一度興味を逸らすと、別の手段を探そうと自分の席へと退却するのだった。




「なあ。大丈夫なのかアレ?」


 席に戻ったアザミは、ニヤニヤしたがる表情筋(ひょうじょうきん)を抑えられずにすぐ横にいるヤクトに耳打ちした。

 ヤクトはナライの父親だ。ならば、息子があんなふうになった理由を知っているだろうと思ったのだ。

 だが、返ってきた言葉は何とも無頓着(むとんちゃく)なもので――


「ん?アレ?」


 ヤクトは、何を聞かれているのかまるで理解していないようだった。


「ナライだよ。見ろ。あの様子。」


 早くナライがああなった理由を知りたいところに肩透(かたす)かしを食らって、ちょっと前のめりになったアザミ。


「うん。ナライか……。大丈夫に見えるが、何か変か?」

「変だよ。お前普段何を見てたらそんなこと言えるんだ。いいか?あいつ、『大丈夫です』って言ったんだぞ。『お構いなく』って言ったんだぞ。ちょっと普通じゃないだろ。」


 どこまで言っても無頓着なヤクトに、掛かり気味のアザミはつい(まく)し立てていた。

 だが掛かるあまり、「()()()()()()、「()()()()()()()()()()()()()()()()と判定されるのであれば、世の大抵の人間は普通ではなくなってしまうことには気付いていないアザミだ。

 だからそんなアザミの言い分に、眉をひそめたのはナライの父親・ヤクトだ。


「おいおい。普通じゃないって、人の息子捕まえといてそんな……意外と失礼な奴だな、お前。」


 さすがのヤクトも、この言い分にはちょっとムッと来ているようだった。


「あ。うん。そうだな。――じゃなくて!俺が言いたいのはそう言うことじゃなくてだな――」


 だが、話が思う方向に進んでくれないと焦れるばかりのアザミだ。そして焦れるアザミに困惑するヤクト。

 するとそこに介入してきたのは、一人の少女で――


「大丈夫です。お兄ちゃん、お母さんに怒られるといつも()()だから。」


 母親の手伝いで食器を並べていたカヤが、アザミの(そば)に来たついでにそう教えてくれていた。


「そうなのか?」


 その言葉に、ヤクトに構うのをピタッと止めてカヤを見たアザミ。


「はい。昨日もそうだったし。その前は四日前だったかな……。」


 するとカヤは、それがこの家の普通なんですと教えてくれるのだ。


「昨日……四日前……。」


 それを聞かされて急に冷静さを取り戻したのはアザミだ。

 アザミは教えられた間隔(かんかく)を呟きながら、ナライが怒られる頻度(ひんど)を計算していた。


(今日、昨日、四日前……ってことは五日で三回か。ナライ(あいつ)、そんなにしょっちゅう怒られているのか……。)


 こんなこと思いたくはないが、もしかして馬鹿なのか?――そう思ってしまったアザミ。おおよそ一日おきに怒られるなんて事態、アザミの人生経験からはちょっと考えられないことだった。

 だが、自分の経験に照らし合わせて許容できなかったからと言って、それで馬鹿呼ばわりは失礼と言うもの。――だから失礼な大人にはなりたくなかったアザミは、こうも考える。


(いや。違うな。あいつは馬鹿じゃない。馬鹿()()なんだ。だからあいつは、自分に正直に生きてるだけ。そう。あれはあいつの信念なんだ。)


 ただの馬鹿から信念にまで発展させて、「そう考えれば納得できて、しかも失礼じゃない」と勝手に締めくくってしまったアザミ。


「でもご飯食べたらすぐに元に戻っちゃいますよ。だって、お兄ちゃんだもん。」


 しかしそんなアザミの結論を補うように、カヤはナライの曲がらない信念?――を、告げ口してしまっていたのだった。


アザミ……序章の登場からは考えられないほどの「子ども大人」だった人。これでも相当修羅場くぐってるはずなのにね。

カヤ ……思春期主人公。人が見ているところでは良くお手伝いする良い娘。

ナライ……真・主人公。曲がらない信念を持っているらしい人。今のところ扱いが不憫。

ヤクト……兄妹(ナライ・カヤ)の父。育児は読み書きと生きる術のあれこれを教える担当。

エナ ……兄妹(ナライ・カヤ)の母。育児は(しつけ)担当。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。まだ寝てない。と言うか、アザミにお休みを言ってもらわないと寝つきが悪くなる淋しん坊。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ