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北天のアリス  作者: 埼山一
第一章 そもそもの始まりは
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第一章之八 回想一年前 ~帰宅の時~

アザミ……義理堅いけど、齢の割に子どもっぽいところがある。だから独身なの?

カヤ ……思春期主人公。高所恐怖症なのにこんな高い所まで来ちゃった。しっかり者のうっかり娘。独りは嫌。

ナライ……早く出番を増やしたい真・主人公。独りも結構好き。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。今、暇を持て余してるようで、案外そうでもない。


 それは、昼と呼ぶにはさすがに無理がある時分になってからのこと。――


「あ……あ……。」

「大丈夫だぞカヤ。俺()()を信じていれば何も怖くないからな。」


 当然、予想されたことだった。

 やっぱり帰り道でも高所が怖くて動けなくなってしまったカヤを、懸命に励ますアザミの声がこの大岩の階段から聞こえていたのだ。


「ゆっくりでいいぞ。怖くないからな。」


 手を引いて一段一段、ゆっくりと丁寧にカヤを先導しているアザミ。

 そして勿論、この階段にいるのはアザミとカヤだけではなく――


「ちぇ……こんなのの何が怖いんだよ。」

「ナライ。今はそう言うのいいからちゃんと支えてやってくれ。」

「分かってるよ。まったく……。」


 そうやって憎まれ口を叩きながらもきちんと手を貸してやっていたのは、カヤの兄・ナライだった。

 ナライもまた、意外な弱点を見せた妹のために一緒に階段を降りているのだった。




 ――そして、無事(ふもと)へと戻った三人。


「はっ……はっ……。」


 そこには、登りの時と同じように腰が抜けて息も上がったカヤが、その場に()いつくばっている姿があった。


「よく頑張ったな、カヤ。それとナライも。」


 そしてカヤの頑張りと、ナライの兄らしい手助けを労ったのは、終始にカヤの手を取って励ましていたアザミだ。


「いいよもう。」


 ナライはアザミの賛辞(さんじ)に、ちょっと照れくさそうに応じていた。


「――それよりカヤ。お前、高い所ダメなのになんでわざわざ登って来たんだ?」


 そして慣れない賛辞がこそばゆいのか、すぐに話題を切り替えたナライ。


「俺が無理に誘ったんだよ。」


 だがその問いに応じたのは、カヤではなくアザミだった。

 やっとのことで緊張から解放されたカヤは、今ヘロヘロになってくたばっている。まだ何かを答えられるような余裕がなかったのだ。


「――俺もカヤが高い所苦手だなんて知らなかったからな。」


 アザミは、まだ呼吸が整わないカヤの背をさすってやりながら、そう答えていた。


(まあ、それはカヤ自身も知らなかったみたいだが……。)


 しかしカヤの名誉のために、そのことは伏せておいたアザミだ。

 カヤにしてみても、たぶんその方がありがたいだろう。

 きっとカヤのことだ。この兄貴に、「高い所ダメだなんて気付かずに登ってました」なんてそんな間の抜けたところを知られるのは嫌なはず。――だからこれはアザミなりの気遣(きづか)いでもあったのだ。


「ふうん。」


 しかしそんなこと、実はまったくどうでもいいことだったらしいナライ。

 ナライは無関心そうに相槌を打つと、「本当に聞きたいのはこっち」とばかりに本命の話題を振ってくるのだった。


「で、どうだった?」

「どうって、何が?」

「この岩だよ。この岩の天辺(てっぺん)は誰も知らないオレだけの秘密なんだぜ。良かったろ?」

 そう問われて、岩を見たアザミ。そしてそこには、たった今降りて来たばかりの階段が……。


(ひみ……つ……?)


 アザミは(いぶか)しんだ。

 こんなご立派な階段がくっついてる岩。ちょっと考えれば、ナライだけの秘密わけがないことぐらい分かりそうなものだが、それでもナライは自分だけの物と言い放って、とても自慢げだった。


(まあいいか。わざわざ突っ込むことでもないしな……。)


 子どもってのは、そういうもんじゃないか。――素直に感想だけを述べることにしたアザミだ。


「ああ……。うん、そうだな。()()()()()()とは違ったが、確かにあそこは良かったな。」

「ふふん。だろ?」


 好ましい答えを貰ったナライは満足そうだった。




 アザミの言う「思ってた良さ」とは――それはつまり絶景を見るのにちょうどいいと言うこと。

 当初のアザミは、絶景を求めてこの岩に登ろうとしていたはずなのだ。なのに、その絶景には見向きもせずに降りてきてしまったのはどうしてなのか。

 それは――


(カヤに景色を見せてやろうと思ってたんだがなあ……。)


 チラリと、まだ立てそうにないカヤを見て安心したアザミだ。

 大岩に登る前のカヤは、つまらない失敗をいつまでも引きずって落ち込んでいるばかりだった。

 だからアザミは、絶景を見渡せば自分の失敗なんてほんの小さなことだと気付いて立ち直るんじゃないか、と考えたのだ。


(まあいい。何だか知らんがカヤも調子を取り戻したみたいだしな。結果良ければ……って奴だ。)


 と、そんなふうに一人納得したアザミ。

 そしてそんなアザミの視線の先にいるカヤは、何も知らされないまま腰だけが抜けていて、別の意味で立ち直るまでもう少し時間がかかりそうだった。




「で、カヤ。お前はどうなんだよ。良かったろ?」


 アザミがカヤに温かな視線を向けている中――アザミの回答に気を良くしたナライが、カヤにも感想を求めていた。

 だがその口調はアザミの時とはまるで違っていた。「良かったって言え。それ以外は許さないからな。」と言わんばかりの尋ね方なのだ。

 ナライにしてみれば、知られたくなかった秘密の場所を知られた上に評価まで散々だったりしたら許せない、といったところなのだろう。


(俺は……ま、余所者(よそもの)だしな。)


 二人のやり取りを見守る中、自分には()かれなかった牙の理由が見つかって、アザミは肩をすくめた。

 そしてほんの少しの間が空いたあと、やっとのことで口を開いたのはカヤで――


「良かったけど……もう……高い所は……いい……。」

「ふふん。だろうな。あ、あとお前、この場所のことは誰にも言うなよ。」


 狙い通りの回答が得られたことに満足しながらも、忘れずにカヤの口を止めていたナライ。

 ――カヤは、別に口止めしなくてもあちこちで(しゃべ)り散らかすような節操(せっそう)のない娘ではなかった。だが口止めしておかなければ、必要とあらばいくらでも他人に話してしまうのもまた、カヤと言う娘なのだ。


(そう言えば、カヤには「しょうがないお兄ちゃん」の前科もあったしな。)


 そんなこともあったなと思い出して苦笑したアザミだ。そしてアザミは、ちゃんと口止めしてしまったナライの判断の正しさを、密かに残念がってもいたのだった。




 二人のじゃれ合いをいつまでも見ているわけにはいかなかったアザミは、ピュイ・ピュイ・ピュッ――と小気味(こきみ)よく口笛を吹いていた。

 するとすぐにやって来たのは、それまで木陰でくつろいでいた愛馬・黒雲(くろくも)で――


「あ!何それ、かっけぇ。オレにも教えてよ。」


 と、そんな様子を見たナライがやたらとはしゃいでいた。


「ああ、また今度な。」


 適当に応じたアザミ。

 まだ自分の馬もいないのに、一体何を教わるつもりなのか。口笛の吹き方か?――ナライのお願いにそんなことを思って、一人ほくそ笑んでいたのだった。

 それから、アザミは黒雲の口を取ると目を輝かせっぱなしのナライをとりあえず放っておいて、まだ立てないでいたカヤに手を差し伸べていた。


「立てるか?カヤ。」

「まだ……ムリ……。」

「そうか。――だが、これ以上遅くなるわけにもいかん。ちょっとつらいかも知れないが、強引(ごういん)にでも乗ってもらうぞ。」

「……?」


 強引ってなにが?――アザミの言っていることの意味が分からないまま、何となくアザミの手を取っていたカヤだ。

 するとアザミがふっと笑って見せて――


「え?あ!ちょっ――きゃあっ……。」


 カヤがその笑顔の意味を理解した頃には、カヤはすでに馬上の人となっていた。

 アザミは何をどうやったのか、カヤをあっという間に黒雲の背に押し上げていたのだ。


「うわっ、と……わわ……。」


 カヤは、落ちないように慌てて黒雲の背中にしがみついていた。


「はは……そうだ。そうやってしがみついていれば落ちることはない。」

「は、はい。」


 そう言われたからって、単に他にどうしようもないからこうしているだけ、と言うのが今のカヤの実情だ。

 どうしてこの(ひと)は、こう強引になる時があるんだろう。――そう思ったカヤだったが……。


「バカ……。」

「ん?何か言ったか?」

「……。」


 アザミの問いに、カヤがそれ以上何かを言うことはなかった。




 それからのアザミは、とりあえずはカヤに落馬の心配がないことを確認すると、すぐに自分も黒雲に乗っていた。そして、まだ黒雲にしがみつくことしかできないカヤを起こしてやると、そのまま自分にもたれ掛けさせたのだ。


「よし。これで大丈夫だな。」


 こうして背後から支えてやれば、いくら今のカヤが腰抜けだと言っても落ちることはないだろう。

 だがこうしたことで問題になってくるのはカヤではなく、もう一人の方。


「ナライ。カヤを乗せるとお前の乗る場所がない。悪いがお前だけ歩きになるが、いいな?」


 そう。問題なのはナライの扱いだった。

 黒雲に興味津々のナライが黙って従うとは思えなかったのだ。だが、返ってきたのは意外な言葉で――


「うん。いいよ。こいつ、歩けないじゃん。」

「へえ。珍しく素直じゃないか。」


 アザミは予想外の返事に(いた)く感心していた。

 何しろこのナライのこと。てっきり(カヤ)のことなどそっち退()けで自分も乗せろと言ってくるだろうと思っていたのだ。

 すると、アザミの感心ぶりに気を良くしたナライは――


「へへん。ま、オレ、兄貴だからな。高いの怖くて腰抜かした情けない妹は、ちゃあんと大事にしてやらないと。あ~あ~、兄貴はつらいよなあ。」


 と、そんなふうに、自分の善行を誇っていた。

 だがそうなると、「情けない」と評されて黙っていられないのは、当の本人のカヤで――


「誰が情けないのよ。バカ。」

「うるせえ、腰抜け。お前は黙ってしがみついてろ。」

「うぅ……。」


 腰抜け――どうしようもない事実を突きつけれられては、もう口を(つぐ)むしかないカヤだった。


アザミ……ナライ・カヤ兄妹と気が合う大人。それが良いのか悪いのかは知らない。

カヤ ……思春期主人公。なんやかんや頂上にいる時は全然平気だった。高くて足場が狭いと怖いんだろうね。

ナライ……真・主人公。でもその片鱗はまだ見せていない。

黒雲(くろくも) ……アザミの愛馬。やっと出てきたけど注目されるようなイベントはなかった。


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