序章之終 そして妹の待つ村へと……
アザミ……ナライの連れ。保護者。ナライの父の旧友。この場の賊徒どころか、ここに来る前に群がってきた連中すらも片付けていたと判明。
ナライ……耐えて耐えて耐え抜いた真の主人公。兄。元服前の少年。瀕死だから動きがないのは仕方がない。
鹿頭 ……牡鹿の頭を被った賊徒たちの首領。負けたにもかかわらず、アザミを嘲笑うように一人逃走。
カヤ ……主人公。二つ下の妹。まだまだしばらくは出番ない。
疾風 ……ナライの愛馬。まだまだしばらくは出番ない。
鹿頭が消え去ったことを用心深く確認したアザミは、この場に倒れている賊徒を数え始めていた。
(ひい、ふう、みい……ん?)
訝しんだアザミ。
賊徒の数が足りなかったのだ。ここの賊徒は全部で五人だったはず。なのに、ここにある賊徒の数は三。
ここにいないのはまんまと逃げ去った鹿頭と、もう一人は……。
「む。そうか。あいつか……。」
アザミはすぐに思い出していた。この場にはもう一人動ける賊徒がいたことを。
その一人とは頬腫らし。――何故か最初から片側の頬を殴られたかのように腫らしていて、さらには片手も負傷していたあの賊徒のことだ。
アザミがこの現場に駆け付けた時、奴はナライの指を落とそうとしていた。だからそれを見たアザミは真っ先に頬腫らしを狙って、奴のもう片方の手も使えなくしていたのだ。
両手が使えなくなった賊徒など物の数にも入らない。そう判断して捨て置いていたら、奴はいつの間にか逃げ去っていたようだった。
「ふうむ……まあ、いいさ。あんな手になっちゃあ、もう賊働きどころか畑仕事も碌にできやしないだろうしな。冬が来たら野垂れ死んで、それで終わりだ。」
そんなふうに考えたアザミだ。
奴が助かることがあるとしたら、それは何者かが手を貸した時になるのだろうが、あの鹿頭があんな程度の低い奴を助けるとは思えなかったし、あんなのに手を貸すような仲間が他に残っているとも思えなかったのだ。
だからアザミは「まあいいや」とばかりに頬腫らしのことを頭から追い出したのだった。
それからアザミは、この場に残されていた三つの「少し前までは賊徒だった物」を、街道脇の茂みに運んで始末をつけた。そしてそれが終わると、この混乱の中でも健気に逃げ出さずにいたカヤの馬を引き連れて、ようやくナライの元に駆け寄っていた。
「ナライ。起きろ。終わったぞ。」
「……うん。……起きてるよ……。」
アザミの呼びかけに目を開いて答えたナライ。
ナライは衰弱しきっているようではあったが、それでもすぐにどうこうなるというようなことはないようだった。
「お前……まさか、ずっと見てたのか?」
「うん……。」
「そうか……本当はお前に人の殺し合いなんて見せたくなかったんだがな……。」
またしても判断を誤った。――ナライの言葉に、そう気付かされたアザミは表情を曇らせていた。
だがそんなアザミを見て、却って悪いことをしたような気持ちになったのはナライの方で……。
「……ごめんなさい……。」
だからナライは謝罪の言葉をつい口にしていたのだった。
「謝るな。さっきも言ったろう?悪いのは俺だ。お前が謝れば謝るほど、俺はもっとお前たちに謝らなくちゃいけなくなる。」
「……うん……。」
「さ、話はもうおしまいだ。お前には手当が必要だしな。こんな所じゃ碌なことをしてやれん。それに、カヤも心配してるだろうからな。」
アザミはそれだけ言うとこの話を終わらせた。そして「ちょっと待ってろ」と、ナライの傍から離れると、カヤの馬から自分の馬へと荷を乗せ換え始めていた。
そんなアザミの背中をぼうっとした眼で見ていたナライ。すると、ふと思うことでもあったのか、今度はナライの方からアザミに話しかけていた。
「ねえ、アザミ。」
「なんだ?」
アザミは手を止めることなく返事をした。
「……カヤ……怒ってるかな……?」
「うん?さあ、どうだろうな。どうしてそう思う?」
「……あいつ、オレに借り作るの嫌がるから……。」
ナライはそう答えると黙り込んだ。
普段から言い争いばかりしているこの兄妹のことだ。だからナライは本気でそう思っているのだろう。
だがアザミは知っていた。あのカヤが「兄に借りを作った」なんてことで怒るはずがないと。
(あんなに兄貴のことを気にかけてる妹ってのも、そうそうないと思うんだがな。)
距離が近すぎると相手の本心が見えにくくなるのだろうか。
だからアザミはそんなことで悩むナライを見て、微笑ましく思わずにはいられなかった。
「はは……そうだったな。でも安心しろ。もしカヤが怒っていたとしても、その時は全部俺が庇ってやる。」
「……いいの?」
「いいさ。それでお前が助かるって言うなら喜んでやるよ。」
荷の積み替えを終えて、ナライの方を振り返ったアザミ。
元々それほど多くはないカヤの荷は、あっという間にアザミの馬へと積み替えられていた。
「よし終わったぞ。さ、もう行くぞ。」
そうしてアザミの馬に乗せられたナライ。
「……あ、そいつ。たぶん脚怪我してるよ……。」
「応。分かってる。大丈夫。歩くぐらいならできるさ。」
カヤの馬を気遣って見せたナライにそう答えたアザミ。
しかし、アザミにして見ればそんなことはカヤの馬を一目見た時から分かっていたことだった。分かっていたからこそ、わざわざ荷の載せ替えなんて面倒なことをわざわざしていたのだ。
「……こいつも手当てしてやらなきゃ……するよね?」
「ああ。勿論するさ。――それっ。」
自分の方がずっと重傷のくせに馬の方が心配らしいナライに、アザミは感心していた。
(あのナライがそんな気遣いをするようになってたとはな……。)
そして、子どもの成長というものを実感したアザミは、カヤの待つ村へと向けて馬の腹を蹴るのだった。
アザミ ……ナライの連れ。保護者。ナライの父の旧友。数多の賊徒を相手にしても無傷の上にまだ余裕。
ナライ ……真・主人公。元服前の少年。賊徒たちに嬲られながらも生存。
カヤ ……主人公。ナライの妹。ナライの機転によって一人この先の村へと行った。
鹿頭 ……牡鹿の頭を被った賊徒たちの首領。負けたにもかかわらず、アザミを嘲笑うように一人逃走。しかも戦利品としてアザミの弓を持って。
頬腫らし……外観が特徴的な荒くれた賊徒。危険人物だったが、いつの間にか逃走。
疾風 ……ナライの愛馬。まだまだしばらくは出番ない。




