チャラ男だと思ったらチャラ男じゃなかった話
「…うそだろ」
クリスマスイヴ、急にやることが無くなってフラフラ散歩していた俺は唐突に絶望のどん底に突き落とされた。
家族で過ごすから、と俺には言ってデートをキャンセルした彼女が金髪にピアスの厳つい歳上らしき男の腕にギュッとくっ付いてラブホへ入ろうとするところを見てしまったからだ
「愛理…」
「げっ…最悪なんだけど…なんでこんなとこにいんのよ正樹」
俺達は高校2年生。愛理と付き合ったのは中学3年の時に向こうから告白されて付き合った。当時は黒髪の大人しい、どっちかといえば教室の隅に居るような心優しい子だった。
告白された時はすごく嬉しくて、それから沢山思い出を作ってきた…と少なくとも俺は思っていたんだが
でも今悪びれもせず舌打ちした彼女は茶髪にナチュラルメイク、制服も適度に崩している陽キャ女子だ。まあ、所謂高校デビューというわけなんだが。最近はメールの返事とかも素っ気ないし、俺への当たりもキツめになってたかな。
愛理と釣り合うように俺も勉強だけじゃなくてファッションとか身嗜みとかそれなりに頑張ったんだけど無駄だったのかな
これじゃまるで浮気ざまぁのネット小説だ
でも俺には「尻軽女なんか忘れなよ!私が居るじゃん!」なんて言ってくれる美少女の知り合いなんか居ないし、愛理に俺が不利になるような噂を学校に流されたら味方してくれる奴が居るかも怪しいところ
最悪だ。
せめて惨めにならないようにこっちから振ってやろうと、拳を握りしめた…そして、気が付いた
一番最初こそ俺を睨んでいた金髪のお兄さんだが、今は愛理を睨んでいる
「えーと、マサキくん?でいいのかな?俺はシュウヤって言うんだけど
…愛理とはどういう関係なの?」
ハッとして彼の方を見る。敵意は…感じられない。というか何か察した顔をしている
「彼氏…だと思ってたのは俺だけっぽいですね」
「違う!!正樹!なんでそんなこと言うの?!」
「ふーん、じゃあ俺は彼氏じゃないわけか」
「それはっ…!!」
「ていうかマサキくんが彼氏なら彼氏で、さっきの態度なんなんだよ?ふつう慌てるんじゃねえの?」
「うっさい!!!うるさいうるさいうるさい!!」
「「はぁ」」
まさかのシュウヤさんと被った。そして俺が言いたいことをシュウヤさんが言ってくれているという虚しい事実
そしてシュウヤさんは愛理が抱き付いていた腕を乱暴に振り解いた
「二股とかうっざ。ビッチかよ…はぁ…とりあえずもう俺に関わるな」
「俺にもだ。学校でも話しかけんな」
気がつけば俺が想像したのとは違う、2対1の構図になっていた。というか、シュウヤさんと俺に奇妙な連帯感みたいなものが急速に生まれた。
「………まあ…その、なんだ。メシでも行く?」
「…うっす」
その後、ラーメン屋で愚痴大会をして盛り上がった。シュウヤさんは20歳。俺の高校の卒業生だった。250人規模の地元の製造系の会社で働いていて、なんとグループリーダー(主任の下というか補佐?)らしい。
俺は高校生だからそこらへん詳しくないけど18で就職して2年でリーダーって普通に凄いと思う。だからいきなりの俺出現でも感情的にならなかったのかなと思う
愛理と付き合い始めたのはひとつ下の後輩(俺から見たら去年卒業した先輩)からの紹介だったとか。その人も既に卒業してたから、学校に彼氏がいることをいまいち把握できていなかったんだろうということだった
あれから5年
シュウヤさんは幼馴染の1つ歳上の素敵な姉さん女房な早苗さんの尻に敷かれながらも幸せそうである。
俺は早苗さんの可愛がっている妹分で2歳上の、大和撫子と見せかけて結構肉食な黒髪ロング小悪魔お姉様な菫さんと2年の交際を経て結婚。今も家族ぐるみの付き合いだ
愛理はあのあと、何処かから二股で自爆したことが漏れて学校ではビッチのイメージが定着した。俺を陥れる噂なんか流せるわけもない。愛理がそんなことを必死に言ったって誰も本気にしないしな
風の噂によれば、最初はキャバに行ったらしいが他のキャストさんとトラブルばっかりでクビになり、そのあとはヘルスとか性感エステとかで頑張っているらしい
まあ纏めると、金髪でピアスしてるからってクズかどうかなんてこの多様性のご時世分かるわけないってこった