悪役踏み台幼なじみは、無自覚ハーレムパーティに夢を見る
「クレア、この子はハロルド。今日から君専属の従者だ。仲良くするんだよ。」
父にそう言われて紹介されたのは、栗色の髪に青い瞳のなんとも可愛らしい少年で。
そのときわたしは思い出したのだ。
この世界が、「無能と言われてパーティ追放、その後勇者に覚醒したけど、もうそちらには戻りません!」、通称「むのゆう」の世界だということに!
クレア・ベイリー、6歳。
国内屈指に幅をきかせるベイリー商会の一人娘で、生粋の我儘お嬢様。
下手に火と水の2属性の魔法が使えるために調子に乗って冒険者登録、幼なじみで専属従者の錬金術師を虐げながらパーティランクをぐんぐん上げていくんだけど、錬金術はお金がかかるしお荷物だからと従者を追放。
追放後、従者は錬金術師じゃなくて勇者に適性があることが分かり、従者は無自覚にもハーレムパーティを結成して大成功を収めていく。
従者を虐めていたお嬢様は、従者がいなくなったことでパーティが崩壊、転落人生まっしぐらになるのである。
その、転落人生まっしぐら我儘お嬢様こと、クレア・ベイリーに転生したわたし。
前世でなにか悪いことをしたかしら。転生するなら従者のほうでしょ、ハーレムパーティを作れるのだし…。
内心でぶつぶつ言いながら、しかし持ち前の鋼メンタルでにっこり微笑む。
目の前には、物語の主人公の少年。
ハロルド・ランスター、6歳。わたしと同い年。
父の友人ことハロルドのご両親に不幸があって、父が養子として引き取ったわたしの従者。
確か設定では、天涯孤独になって悲しみに打ちひしがれているところをクレアに虐められ、超根暗な性格に育っていく、だったような…。
今はビクビクしてはいるが、普通の少年だ。
「よろしくね、ハロルド。」
こいつの将来、「無自覚ハーレムパーティ」筆頭様かー。
勝ち組だなー。羨ましー。
ハーレムパーティ要員は確か、正妻清楚系神官に、天然お色気エルフ、無口ドラゴン幼女とか、多岐にわたりつつも、みーんなかわいかった気がする。
一方わたしは転落人生まっしぐらかー。世は無情だなー。
しかしわたしは長いものには巻かれるスタイル、主人公になれなかったものは仕方ない。
これからほどよく従者にきつく当たりつつ冒険者になって従者を追放。さっさと自分は冒険者から足を洗い、実家を継ぐか、嫁の貰い手を考えなくては。商家の一人娘なのだし。
わたしが表舞台からフェードアウトしたあとも、従者は勇者になって、それはそれは活躍するのだ。世界救っちゃうレベルで。
わたしはその悪役かつ踏み台の幼なじみ、しっかりお勤め果たしますよ!
次の日からハロルドをしっかりわたしについてこさせた。
平民のハロルドはまだ6歳なのもあって、字の読み書きもできない。将来の勇者様に不備があっては悪役幼なじみであるわたしの名折れ、厳しめに指南する。
ハロルドはいわば万能勇者である。
魔法はあらかた使えるようになるし、武術の才能にも溢れている。
物語では、クレアが魔法の才能のほうに目をつけ、何かと便利な錬金術師として最初働かせるのである。
魔法はわたしも才能があるし、先生を呼んで一緒に勉強することにした。
武術も、わたしを守らせるためという名目で一通り習わさせる。
ハーレム勇者に品がないとか嫌なので、わたしが受けているマナーの授業も一緒に受けた。
見聞がないと恥をかくかもしれない、父の商談にも積極的に連れて行き、いろんな領地を見せておく。
そして10年が経ち、はや16歳。
わたしは今日も悪役踏み台として、勇者を厳しく育成していた。
「ほら、ハロルド。魔法の軸がぶれていてよ。しっかり集中なさいな。」
「すみません、お嬢様。」
10年でハロルドはどこに出しても恥かしくないくらいには、よい勇者(予定)に育った。
十分な栄養を与えたため身長はぐんぐん伸び、見た目も可愛らしさは薄まってむしろ美形に、教養も武術も魔法も、わたし採点花丸である。
性格も、超根暗に育つと聞いていたが、大人しいが優しく穏やかなものになった。
これに至るまでわたしは、彼には厳しく、厳しく接してきた。それはもう、家庭教師のなんとかマイヤーさんみたいに。
悪役なのだから嫌われてなんぼ、友人達にハロルドと恋仲なのでは、とからかわれたこともあるが、こいつ将来ハーレムパーティの勇者なんで…、と弁解してきた。
友人達は意味が分かってなさそうだったが。
ハロルドの手から、ぱあっと光が漏れる。
「よいポーションね。いいわよ、ハロルド。」
「あ、ありがとうございます。」
「あと10は作っておきなさいよ。お前はすぐ怪我をするのだから。」
不慣れな錬金術で一生懸命作ったポーションを、あと10も作らせる…クレアは悪役なのだから、こういう嫌がらせも当然です。
お小言だって、欠かしませんよ。
「はい、お嬢様…。」
にっこり、はにかむように笑って了承するハロルド。
…ハロルド、あなたそんな素直で大丈夫??
明日にはいよいよ冒険者として、わたし達は初パーティを結成する。
ハロルドはこのパーティを追放されたのち、勇者に覚醒。
新たに結成したパーティが、無自覚ハーレムパーティになっていくのだが…。
ハロルドがこんなんだからこそ、無自覚ハーレムが築けるのかしら…女性のほうが、ほおっておけないとか…?
まあでも、初パーティは半年くらい機能すればいいかしらね。
わたしだって16歳の花盛り、ハロルドを送り出したあとは自分の職やら婚活やら、忙しくなるのである。
今は火と水の魔法を活かして、別邸でこつこつキノコ栽培をして私腹を肥やそうとしている。
キノコ栽培、温度(火魔法)や湿度(水魔法)管理の奥が深くて、やりがいがあるのよね。
「お嬢様、明日から俺、頑張ります。今までのご恩をお返しできるよう、頑張りますね。」
ご恩?お返し?
なにそれ今まできつく当たってきたわたしへの意趣返しかしら?
息巻いているところ悪いけれど、わたしはこれからの商売の礎のために、冒険者として多少名が売れれば万々歳なのだ。
ハロルドも初パーティの間は、頑張りなどほどほどでいいのよ。追放されたら、そのあと勇者として頑張ってこうね。
ポーション生成の続きを命じて、じゃあまた明日ね、とハロルドに別れを告げた。
明日を旅立ちに控え、わたしも自室で旅の準備の最終確認に取り掛かかかる。そしてふと、鏡に映った自分の姿を見た。
あっ、しまった。
物語上、わたしはハロルドの幼なじみ主人で我儘お嬢様。見た目も派手、男遊びも派手、という設定なのだ。
…迂闊だった。わたしは、わたし自身の設定を、すっかり失念していたのである。
この10年、ハロルド育成とキノコ栽培に夢中だったわたしは…、おしゃれもまともにしたことなければ男を作ったこともない、まさにぽんこつ女となっていた!
こんなぽんこつ女が悪役踏み台幼なじみでは、物語に何か支障が出てしまうのでは…!?
こ、これはいかん、せっかく10年ハロルドの育成を頑張ってきたのに、まさか自分の役割を疎かにしていたなんて…!
そんなこんなで、わたしは高校デビューならぬ冒険者デビューを図ることにした。
冒険者は明日から、今からでも遅くはない、間に合うだろう。幸い、素材はそんなに悪くない、と思っている。
クレア自身、多少性格がキツそうではあるが、黒髪に茶色い瞳の割と普通の少女だ。しかし遊んでる設定のおかげか、体つきだけはとてもよい。
伸ばしっぱなしの髪をアップにして、遊んでそうなイメージ?を出すため、スカートを短めに…と試行錯誤していたら、様子を見に来たハロルドにすごい怒られた。
結局、ぴしっと整えられた膝下スカートに地味な服を強いられてしまった…。せっかくの軌道修正が…、ただでさえ地味な見た目なのに…。
ハロルドはなんとも動きやすそうな軽装だった。
物語ではもはや布の服って感じだったから、まあましなのかな?
次の日はついに冒険者ギルドに登録して、パーティを結成しに向かった。
受け付けで冒険者登録を済ませ、パーティメンバーの募集をかけようとしたら、またハロルドがすごい口出してくる…。
思わず、すごい、口出してくるじゃん…って呟いてしまった。
やれ男はダメだやら、大人数は嫌だやらなんやらかんやら。
でも、わたし男遊び派手な設定なんすよ、わたしも忘れてたけれど…。そんで、お前みたいな使えない男いらないわって、ハロルドを追放しないといけないんですよ。
物語の初パーティも、能力なんてまるで無視の、クレア好みの男性ばかりだったし…。
だからハロルドがいなくなったあと、すぐにパーティが崩壊して転落していくのだけど…。
うんうん唸ってるうちに、冒険者ランクが低いうちはわたしとハロルドだけでも大丈夫だとハロルドが一人結論づけており、勝手に2人だけのパーティで登録を済ませてしまっていた。
なんでや、主人の意見、聞いて?
「それで、腕鳴らしに定番のスライム退治、と…。」
「お嬢様、侮ってはいけませんよ。慎重にいきましょう。」
いうて、街の近くにいるスライム数匹倒したら済む簡単な任務である。小学生でもできる。
「それで、油断して、わたしの服がスライムに溶かされたり、酷い目にあったりするのね…(悪役だから)」
「お、お嬢様っ!」
なんで真っ赤になってんの、勇者(未来)。そんなんじゃハーレム、やってけないぞ。
そういえば、ハロルドにハーレムに対するお勉強を施すの忘れてたわ。
くっ、なんたる失態。ここにきてボロめっちゃ出てきた…。わたしの立ち回り、抜けばっかりで悲しくなってきた…。
悲しそうにしてたら、わたしがスライムにビビったと勘違いしたハロルドが一瞬でスライムを退治していた。さすが勇者(将来)…。
それからいくつか任務をこなしていくうちに、冒険者としての経験はわたしの目標の半年に達した。
冒険者ランクはハロルドの一人活躍で、SS~FランクのうちBまで上り詰めた。この短期間では異例の早さで、ギルドの人に吃驚された。
わたし的にも、これくらい活躍できれば今後の商談もスムーズにいくし、婚活もやりやすい。
そろそろハロルド追放するか、と思っていたら、なんとわたし達、まだ2人パーティだったのである!
パーティ追放っていうか、もう解散?になるのかしら。
結局あれからもパーティメンバーは募集させてくれなかったし、酒場とか大衆の場にはハロルドストップがかかったため、男遊びもできていない。
このままでは、わたし、悪役踏み台というお役目が全うできなくなってしまうのでは…?
「ハロルドは、他のパーティに行きたいとは思わないの?」
「俺は、お嬢様を守る従者なので…。」
「わたしのことは気にしなくていいのよ、お前は、お前の好きなようにすればいいわ。」
他のパーティメンバーがいなければ男遊びもしていないわたしは、ハロルドにこう切り出した。
物語でも、わたしに虐げられて過ごした初パーティは、そんなに長い時間じゃなかったからだ。
「お前は強いのだし、街に留まったりせず、王都や隣国でも活躍できるのではなくて?ほら、よい出会いもあるかもしれないし…。」
ハロルドが17歳のときには、すでにパーティを追放されてひとり王都に上京しており、1人目のハーレムメンバーである、神官エリナちゃんと出会っていたはずだ。
エリナちゃんは、金髪碧眼のそれはかわいい正妻枠である。これを逃さない手はない。
「俺はそういうの、興味ないです。」
え、えーっ!
あなた、それはエリナちゃんを見たことないからそんなこと言えるのよ!この、罰当たりなやつめ!
つーんとそっぽ向いて、これ以上話を聞こうともしないハロルド。
はあ、一目見たら、ハーレム的なパワーも覚醒したりするのかしら?それとも、この子まだ錬金術師だし、勇者に覚醒したら意識が変わったり?
男遊びのひとつもできず、ちゃんと悪役踏み台ができていないわたしにも非があるし…仕方なく、わたしはハロルドを王都まで連れていくことにした。
ちょっと物語と違ってしまったが、エリナちゃんと出会って勇者覚醒でもしたら、自分からわたしのパーティを抜けて、いってきますできるようになるでしょ!
わたし達の街から王都はさほど遠くない。
しかも王都には父に連れられて何度か来たことがあるため、道に迷うことはない。治安もいい。
なのに、ハロルドはしきりに周りを警戒しているようだった。
若干疑問だが、放置することにする。
えーと、物語では確かハロルドは、パーティ追放後に王都に上京して、転職のために神殿に赴き…、そこで勇者の適性を見出されて、その場にいた神官のエリナちゃんを引っかけていた、はず。
よし!
その為にもまずは、神殿に行かねば。
わたしも一応魔法使いやってるけど、今後商売したりキノコ栽培続ける上で、自分の適性を調べておこうと思う、ついでだし。
すれ違う人達が、ちらちらこちらを見たり振り返ったりしている。育った街ではもうそんなことはなかったけれど、ハロルドは流石ハーレムパーティ主人公、見目が良いのである!
中でも、女性の黄色い声の多いこと多いこと。
ハロルド、立派になって…頑張って育成した甲斐があったってもんよ、わたしも鼻が高いわ。
「お嬢様、神殿に何のご用が?」
「職業適性、わたし達調べたことなかったでしょ。調べていた方が、何かと便利ではないかしら。」
ハロルドの質問は適当に流す。
わたしはエリナちゃんに会えることにウキウキしていた。
しばらくして、白磁の眩しい大きな神殿が見えてくる。
実物はなんて立派なのかしら、これこそ聖地巡礼ってやつね。
と、一人興奮していたら、ふいに話しかけられた。
「こんにちは、こちらはハリス大神殿です。今日は、どのようなご用向きでしょうか。」
警備員のような、カソック風の服装の若い男性に話しかけられる。答えようとした瞬間、ハロルドがすっと体を割って入ってきた。
「職業適性を調べて頂きたくて。」
「それでは、西門のほうへどうぞ。」
お礼を言って西門へと向かう。
迷子になってはいけないと、なぜかハロルドに手を繋がれた。
ぶんぶん振ってみるが、ぜんっぜん、手、離してくれないじゃん…。もう16歳なのだから、迷子にはなりませんよ!
西門をくぐって、その先の聖堂に向かう。
すでに入口には行列ができていた。
ここには、国民が1日に何百人も職業適性を聞きに来ている。
奥には水晶が何個も並べられており、水晶に触れて光った光の色で、どんな職業に向いているのかを神官が判断してくれるのだ。
そして、ハロルドが触れる水晶の担当が、エリナちゃんなのである。
ちらっと奥を覗く。エリナちゃんの列に並びたい…!
左から2番目、遠くからでも見てわかるくらい、めちゃくちゃかわいい女の子を発見した。エリナちゃんだわ!
「いよっしゃ、並んだるわよ、ハロルド!」
ふわー、めちゃかわいいー。やばーい。やっぱりわたしが主人公したかったなー。あんなかわいい子をハーレムにできるなんて、羨ましすぎる…。
わたしの気分は、もはやアイドルの握手会だ。
なんせドキドキわくわくしていた。にやにやもしているだろう。
それを見たハロルドが、怪訝な顔つきでこちらを見る。
「お嬢様、なんで職業適性にそんなに嬉しそうなんですか。さっきも男性に話しかけられてましたし、誰かよさそうな人でもいるんですか。」
なんか見当違いなこと聞いてくるな、こいつ。
こっちはエリナちゃん握手会に緊張してるんだ、そんなことはどうでもいいんだよ!
このあと、ハロルドが触った水晶は金色に光る。
勇者の適性だ。
そして、見つめ合う、ハロルドとエリナちゃん…。
出会いイベントがこの目で見れるなんて。
本来ならパーティ追放後のイベントだから、わたしは到底見られない代物なのだ。
手違いとはいえ、生で見れるなんて…。
今日のこのイベントを目に焼き付けて、今後を生きる糧にしよう。
ついにわたし達の順番がやってきた。
至近距離で見ても、エリナちゃんはすっごくかわいい、ありがとうございます!
ハロルドはわたしを先にとすすめてきたが、イベントの前にそんな恐れ多い…、もちろんハロルドを優先させる。
ハロルドが水晶に触れるのを、わたしは拝み倒す勢いで見つめていた。
するとハロルドが触れた水晶は、まばゆいほどの金色に輝いた。
…や、やったわ~!
見つめ合うハロルドとエリナちゃん…。
え、絵になるぅー!!
しばらくして、勇者誕生を知らせる祝福の鐘が鳴った。
こんなん、ウエディングベルじゃん…、最高…。
勇者様だ、勇者様が見つかった、と神殿内が騒がしくなる。
わたしが涙をぽろぽろ流してそのスチルを拝んでいると、隣の男性がハンカチを差し出してくれる。
なんて優しい世界…、感謝しかない。
すると、わたしの姿を見やったハロルドが、一変すごい形相でこちらに詰め寄ってきた。
差し出されたハンカチを半ばもぎ取るように奪い、自分のハンカチをわたしに差し出す。
訳が分からないわたしに、なんで泣いてるんですか、と低い声で問うてきた。
いや、わたしこそ、短すぎるスチルタイムに驚きを隠せないんだけど…。ほら、エリナちゃんもあそこで呆然としちゃってるし…。
「…えっと、ハロルド、おめでとう?」
「それは、いいのですが…。」
ハロルドがもう一度睨む頃には、隣にいた男性は姿を消していた。…よくわからないが、なんか悪いことをしてしまった気がする。
ともあれ、勇者だと分かったハロルドは、これから神官長から神託を聞き、エリナちゃんと旅に出ることになるだろう。
いやー、長かったなあ、10年。
ハロルドと離れるのは本当は少し寂しいけれど、わたしは悪役踏み台の幼なじみ。
ここでお役御免して街へ帰り、今後のハロルドの活躍を祈ってますよっと。
しみじみしていると、さあ次はお嬢様ですよ、とハロルドが何でもなかったかのように話しかけてくる。
いやいや、あなた今勇者だって言われて周りはこんなに沸いているのに、わたしなんかの適性なんて…。と思っていたら、にこにこと笑いかけてくるハロルド。
…すごい、圧、かけてくるじゃん…。
仕方なく、そこに置いてけぼりになっている水晶に触れる。
なぜ置いてけぼりになっているかというと、勇者が見つかったため、神官達は泣きの笑いのお祝いモードだからだ。
ぽーっと、水晶は淡いピンクに光った。
…、ピンク??
え待って。これもしや、いかがわしい適性だったら、わたし恥ずかしくて死ねるんだけど。
かたや勇者、かたや…。
引き攣っていると、エリナちゃんがおめでとうございます!って話しかけてくれた。天使。
「淡いピンクは、お嫁さんの適性ですよ!素敵です!」
…お、およめさん。
確かにこの10年、ひたすらハロルドを育成してきた。
教養、武術、魔法…。
四六時中、厳しくも、一生懸命面倒をみてきた。
お料理だって、ハロルドの栄養のためにと、実はプロ級なのだ。
一方、父から商会のお仕事を任されることもあり、内職でキノコ栽培の研究もしている。
ハロルドのお陰だけど、冒険者としての知名度も上がった。
金遣いも荒くないし、結局男遊びもしていない、…知らぬ間に、割とよい淑女になってしまったようだった。
…およめさん。
いや待てよ、この適性、婚活にだいぶ優位に働くのでは!?
思ってもいなかった適性に思わず呆気に取られたけれど、実はいいやつ引いたんじゃない!?
やった、今までなんの戦果も得られませんでしたが、ハロルドがいなくなっても、わたしもこれで…、とそこまで考えたところで、わたしの思考は停止した。
「お嬢様!!」
ハロルドがわたしを抱き上げたからだ。
「お嬢様、素敵です!出会った頃からお嬢様は素敵でしたが、適性が「お嫁さん」だなんて…!かわいすぎます!ああ、なんということでしょう、これでまたお嬢様に近づく虫が増えてしまうと思うと、気が気じゃありません!俺、これからもお嬢様を精一杯お守りします!」
は、は~~~???
ちょっとまってまって、なにいってるかわかんない。
とりあえずハロルドは、わたしを抱っこしてぐるぐる回るのをやめろ。
「今なんて言った?だっ、駄目よハロルド。お前はたった今勇者の適性が分かったばかりなのよ。わたしのことなど放っておいて、とりあえず勇者として旅に出なさいな!」
「何を仰いますか!今までだって、魅力的なお嬢様を魔の手からお守りするのに、俺がどれだけ力を注いできたと思っているんですか!旅になんて出ませんよ!お嬢様と旅に出てお嬢様をいろんな危険に晒すのも、俺一人旅に出てお嬢様から目を離すのも、どちらも考えられません!」
き、今日めっちゃ喋るじゃん…。
何十年に1度しか現れない勇者が旅に出ないとか、許されるわけないでしょ!しかも、めくるめくハーレム生活が、あなたを待ってるんだから!
どうせ旅に出たら悪役踏み台幼なじみのことなんかすぐに忘れるのだから、とっとと旅に出なさいっての!
ぐいぐいハロルドを押しのけるが、流石覚醒したての勇者、まったく歯が立たない。
しばらく無意味な攻防を繰り広げたが、ついに見かねた神官長が、しぶしぶ仲裁に入ってくれた…。
それからもハロルドは旅には出ないの一点張りで、わたしも神官長も、お城で報告を聞いている国王様も、ほとほと困り果てていた。
どうしてこんなに意固地なのかしら…わたしがハロルドなら、今頃エリナちゃんとキャッキャウフフしてるところなのに…。
と、そこへ、なぜか父が登場したのである。
「ハロルド…、こちらに来なさい。」
そして、ハロルドは父に別室に連れていかれた。
父は今仕事が忙しいはずなのに、わざわざ王都まで来るなんて…。わたしがまだハロルドを追放していなかったから、ハロルドの身元はまだ父が保証しているのだわ。
だから、勇者に覚醒したハロルドのことで、神官長や国王様に父が呼び出されてしまったのね。
しばらくして、父と戻ってきたハロルドは、なぜか晴れ晴れとした表情をしていた。
「お嬢様、俺、頑張ります!」
その台詞、今まで何万回聞いたことか。おお、よしよしと、いつものようにハロルドの頭を撫でてしまう。
しかしこの台詞…、まさかハロルドは、ついに旅立つ決意をしたと思って間違いないのね!
ついにあの王道の、無自覚ハーレムパーティ主人公無双、ざまあもありますよ、…が見えるのね!
わたしのせいでざまあ要素はちょっと薄くなってしまったかもしれないけれど、まあ許容範囲ではないかしら。
「ハロルド、ついに旅立つのね…。エリナちゃんや、他のパーティの皆様にもよろしくね。できれば他のハーレムメンバーも拝みたいから、たまには顔を見せにきてくれるとありがたいのだけど…。」
わたしが涙ながらにハロルドの肩を叩いていると、ハロルドはさも不思議そうに首を傾げた。
「俺、パーティは組みませんが。」
「は、はああああ!?」
先程の父との密談で、なんと父は、ハロルドが3年以内に魔王(存在したんだ…)を一人で討伐してきたら、わたしとの結婚を認めると話したらしい。
ハロルドが不在の間は、わたしにはキノコ栽培でも何でもさせて待たせるからと。
ち、父~~!!
しかも、もういないし!わたしに怒られるのを分かっていて、さっさと帰ったのね!絶対国王様から賄賂なりなんなりもらったのだわ!
「お嬢様、しばらく寂しい思いをさせてしまいますが、すぱっと魔王を討伐してきますから…絶対、絶対、絶っっ対、待っていて下さいね!」
ま、またしてもすごい圧、かけてくるじゃん…。
一人で、なんて、そんな無茶な。
まあでも、そんな約束しててもハロルドは主人公なのだし、本人も知らぬ間に無自覚ハーレムを結成してるかもしれないし。
よくある、幼なじみと将来の約束をしておきながら、隣国の王女様と結婚しちゃうかもしれないし?
そうは思っていても、神官長や国王様、ついでに父も、絶対旅に出たくないマンのハロルドに、なんとかここまで話をこぎつけたのでしょうし…。ここは話が円滑にすすむよう、角が立たないようにしましょう。
わたしは長いものには巻かれるスタイル、空気はしっかり読みますよ!
「わかったわ。いってらっしゃい、ハロルド。」
そして、ハロルドは旅立って行った。
わたしはハロルドの話をまっったく信じておらず、絶対に隣国の王女様と結婚するのだろうと確信していた。
しかし、旅の合間合間、ハロルドがわたしの様子を言葉通り監視しにくるので、わたしはハロルドが結婚するまでは、大人しくキノコ栽培の研究を行うことにした。
結果、残念なことに、ハロルドは終始ハーレムパーティを結成することはなく、隣国の王女様と結婚することもなかった。
しかも、2年も経たないうちに、(本当に存在していた)魔王とやらを、すぱっと討伐して帰ってきたのである。
わたしが、白くて大きなキノコの栽培に成功した頃合だった。
「ねえ、ハロルド。世界には、天然お色気エルフとか、無口ドラゴン幼女とか、隣国の王女様とか…わたしより素敵な女性は、随分多かったのではないの?」
結婚式を1週間後に控えた午後、昼食を振る舞いながらわたしはハロルドに聞いてみる。
今日はハロルドの好きな牛のワイン煮込みだ、ついでに白くて大きなキノコも入れた。
ハロルドが帰国して1年程が経ち、キノコはすでに市場に流通して久しくなっている。
ハロルドは、覚えているのかいないのか、旅の途中にそんな女性達には出会ってない、と言うのだけど…。
そんなはずないわ。
わたしはまだ、ついに実現しなかったハーレムパーティというものに未練があった。
「お嬢様は昔から、たまに訳の分からないことを仰いますが…。俺には、6歳のときからずっと一緒にいて、俺に全てを与えてくれた、お嬢様だけが唯一ですよ。」
ハロルドは、にこにこして、しあわせそうに牛のワイン煮込みを食べる。わたしの手料理が、どこで食べた何よりもおいしいのだと話す。
わたしは、ハロルドがいない間、ハロルドがわたしの知っている物語の主人公たり得なかった原因を考えていた。
結局はわたしが、悪役踏み台幼なじみになりきれなかった、…それが大きな一番の原因なのでしょうけれど。
やはり、情が湧いてしまってはだめなのね、と一人ごちて、笑うハロルドにキスをした。