香水の誘惑
どこかの国の王様は、王子様のときに小さな女の子にプロポーズした。大きくなった女の子は王妃様となって幸せに暮らした……
人気者のアイドルは、握手会に来た年下の少年に求婚されて、大人になったらねと返した。大人になった少年は、アイドルと再会して結婚した……
小さい頃に出会った年上の人が運命の人だった、なんてことは意外とよくあるのかもしれない。
“16になったらお嫁においで。”
昔、私が9歳の時。彼がそう言った。
財閥の長男で、自身はホストクラブをいくつか経営してた。
私の母の店も彼の支配下にあった。
母が抱える膨大な借金。7人姉妹の中でとりわけ美人だった私を彼は選んだ。私をくれるなら、借金は帳消しにしてやる、と。
彼はハンサムで、お金持ちで、誰もが彼の妻になりたがった。
私も彼が好きだった。まだ子供だったけれど、幼ながらに好きだった。
“いいね、きっと迎えに来るからね。”
それからもよく彼は店に来て、気持ちは変わらないと言ってくれた。だから私は彼の妻になるべく、彼の家のお金で良い学校に入れられて、上流階級のことを学んだ。いろんな習い事もしたっけ。華道や馬術、茶道なんかを。
16になって、お嫁に行った。
あれだけ愛してくれたから。
きっと幸せになれる。そう思ってた。
彼が裏切るはずがないと、そう信じてた。