クソラノベブレイカー ~最強のチートスキル『描写改変』で物語を『完結』させます。
怒られたら消します
誰かが言った。何故人は生きるのだと。
ある者は言った。そこに世界があるからだと。
目の前に生きていく世界がある。それだけの理由で人は生きることを選択したのだと答えたのだ。
妹は俺に言った。何故そんなクソラノベばっかり読んでいるのだと。
生産性すらないならまだしも、娯楽の観点から見ても苦痛と虚無しか与えない拷問のような時間に金を払う神経が分からないと。
俺は1話ガチャを司りし偉大なる三○なず○先生の本を閉じてこう答えた。
「何故俺がクソラノベを読むのかって? 分かってないなぁ。そこにクソラノベがあるから俺は読むだけだよ」
俺は屈託のない笑顔で妹にそう答えた。
クソラノベは俺にとって酒や麻薬と一緒だった。例え時間と金を溝に捨ててまでも、俺はクソラノベを読むことが楽しみだった。
分かりやすく例えれば、俺は常人とは違ってゲテモノ喰らいだった。普通の人間なら感動したり面白く読める良質な小説を求めるだろう。
だけど俺は違う。
内容が全くないペラペラなストーリー。魅力の「み」の字すらない主人公と登場人物達。そして絵師だけには恵まれた美麗なイラスト。
そこに俺は強烈に惹かれたのだ。多くの人間は理解に苦しむだろうが、惹かれたからしょうがないのだ。
「では妹よ。俺はな○な先生の新刊を買ってくるから留守番よろしくな」
「全く、お兄ちゃんは……。帰りにプリンとポテチ買ってきてよね」
「あい。帰ってくるまで暇だろうし、これでも読んでてくれ」
俺は妹にお気に入りの小説である『なんでも一つだけかなう願いに「回数を無限にして」とお願いした結果』を渡して頭を撫でてあげた。
「なんで私にこんなの渡すのよ。読むわけないでしょ……って、これ先生の作品でも上位に食い込むほど酷い小説だって前言ってなかったけ?」
「いいか妹よ。クソラノベはクソさが酷いほど……癖になるんだぜ?」
「精神科の予約をしておくから早く行ってきなさい」
そうして俺は妹に追い出されるように家から本屋に向かって歩き、
トラックに引かれて死んだ。
■□■
誰かが言った。何故人は死ぬのか。
ある者は言った。生を受けて産まれてきた以上、死ぬことからは誰であろうとも逃れられないのだと。
それが世界の……
「いやなんで冒頭の説明みたいなのを繰り返そうとするんですか!」
「ちょっと待て。まだ描写の途中だろうが。……ん、ん?」
俺は気付かぬ内に見知らぬ空間に立っていた。
目の前にいるのは容姿に自信があるモデルでも素足で逃げ出す程の美女。おまけに安いコスプレみたいな格好までしている。
ほう、だとすればこの状況は……。
「ふっ、皆まで言うな。目の前にいるのは女神。若くして死んだ俺に哀れんで救ってくれるわけだ。とどのつまり、俺はチートを貰って異世界転生するってことだ」
「転生はしません。転移です。それよりなんで貴方が先に喋ってるんですか? 普通私から自己紹介するのが普通ですよね? というか日本人はやけに異世界への順応早くないですか? なんでそんなに異世界行くことに抵抗すくないんですか? 生き返りたいという願望ぐらい持ちましょうよ? 海外の方は理解が追い付かなくて混乱が解けるまで時間がかかるのに……」
なんだこの女神は。突っ込みが多すぎる。仮に俺が読者だとしたらな、こんなのはもうテンプレすぎて300文字で終わらせてる内容なんだよ。
義務教育で習った事を復習する意味なんてねぇんだ! ほら、さっさと次に行くんだよ。あくしろよ。
「心の声は聞こえてるんですよ」
そういえば女神の4割はそんな能力持っていたな。
「じゃあ早く俺を転移させてくれ。適当にハーレム作って無双すっから」
「いえ、それがですね……」
「なんだ? 転移できる異世界が少ないのか?」
「いいえ、その逆です。転移できる異世界が多すぎるんです」
「……は?」
目の前の女神の話をまとめるとこうだった。
まず女神は俺たちのよく知っている女神。
通称、なろうの女神。というものらしい。
信じ難い話であったが、小説家になろうというサイトを管理し、異世界の運営をしている神様だった。
現在、このなろう宇宙では異なる世界が増えすぎて困っているらしい。例え広大な容量を持つなろう宇宙だとしても容量には限界がある。その限界が増えすぎた異世界によってパンク寸前を迎えているそうだ。
そうなった原因は創世神がゴミなような世界を無計画にポンポン作り上げているのが原因だった。オリジナリティのないゴミなようなストーリー。魅力が皆無な主人公。そして作品全体の気持ち悪さ。それらが相まって、住人が全くいない世界が多すぎるのだと。
そのような世界のことを廃棄世界、となろうの女神は呼んでいた。
「貴方にはその世界を壊して欲しいんです」
「え、普通にやだよ。そんな異世界まともな美少女いねぇじゃねえか。どうせなら大物タイトルの異世界に転生させてくれよ!」
「わがまま言うんじゃありません! 大物タイトルはモブ役でも人気が高すぎて予約がいっぱいなんですよ!」
「それでも別に俺を派遣する必要なんてないだろ! なろうの管理者たるあんたなら作品自体を消去しちゃえばいいじゃねえか!」
「それが出来ればいいんですけどね……」
言い返した俺の言い分に対し、女神はうっすらと目尻に涙を浮かべながら切なそうに俯いて言った。
「確かに、そんな強引なやり方で問題は解決します。ですが、私がお願いしている壊し方は『完結』という綺麗な終わらし方なんです。未完結のまま世界を消滅なんてしたら、そこに生きる人達が浮かべられないんです」
「なるほどな。エタられて永遠に連載のまま終わりるになるより、完結という形でゴミ箱にぶちこんで消したいんだな」
「言い方は酷いですが大体あってます」
涙を拭っていつもの表情に戻ると、女神は子どもを諭すような優しい口調で俺に話しかけた。
「いいですか? これは貴方にしか出来ないことなんです。貴方はこれまで多くのクソラノベを読破してきました。二大邪神たる三○なず○と月○涙の世界も難なく乗り越え、あの頭がおかしくなるゾッ帝さえ読み切りました。そんな貴方だからこそ、頼めることなんです」
「なろうの女神なのにさりげなく作者ディスってんじゃねーよ。可哀想だろ」
例えどんなに教育的価値のないクソラノベを書いている作者だって、執筆という時間に人生を捧げてる以上あまり小馬鹿にするのはよろしくない。ラノベ評論家の俺は少なくともそう思う。
しかしだ。なろうの日刊ランキングを日々見ている俺は女神の気持ちはよく分かる。
例え日刊で上位にくい込んだ小説だとしても8割がたはエタって終わるのだ。最初は初期ブーストがかかって読書が集まるが、いずれは飽きられて読まれなくなり、結果として作者のモチベーションが下がって更新されなくなる。
こうして電子の掃き溜めとなった小説のブクマを俺は何百と登録している。
作品はいつまでも作者を待ってくれるが、多くの読書は待ってくれない。そんな作品に女神は救済したいと考えていたのだろう。
「まぁ、分かったよ。しゃーねーな。どーせ死んだら無に帰るとかそんなとこだろ。それならクソラノベの世界を満喫してから死ぬとするよ」
「お願いすればなんだかんだやってくれる日本人の性格、私は好きですよ」
腹黒いなこいつ。
「では貴方には最強のチートスキル、描写改変を与えましょう」
「なにそれ」
「キャラの台詞を除いて小説を自由に書き換えることができます。貴方は神です」
「文章限定だけど、どうやっても勝てるビジョンが思い浮かばないぐらい強すぎるスキルだな」
「では用も済んだので転移させますね」
「えっ」
有無を言わさず、女神はぶつぶつと呪文のようなものを唱えると魔法陣の光に包まれ、俺はまたしても知らない大地に立っていた。
「ここは……?」
鬱蒼とした樹海。辺りを見渡してきたその時、地響きとともに向こうから咆哮が聞こえた。
メタリックの大型肉食恐竜型ハンターが紅い眼を鋭く光らせ、突進しながら大きく尻尾を振り、大きな口を開ける。
口の中の砲口が伸びてキャノン砲が衝撃波とともに放たれる。
大型肉食恐竜型ハンターの背中に装備された二台の大きなガトリング砲の銃身が勢いよく回転しながら火を噴き撃ってくる。
地面にキャノン砲が当たり、地面に大きな穴が開き、地面が大きく揺れる。
地面にガトリングの弾が当たる度に土埃が舞い、小石が凶器と化し飛んでくる。
大型肉食恐竜型ハンターの後から、メタリックの小型獣型ハンターの群れが一斉に背中の武器を撃ち、俺に襲い掛かる。
「あぁ……そうか。まずはこの悪夢を終わらせないとな」
俺は一瞬で理解してしまった。
ここはゾッ帝の世界。某大物YouTubeが執筆した負の遺産。やれやれ、なろうの女神はお茶目だな。最初から飛ばしすぎじゃありませんかね?
俺は肩を竦めてため息を吐くと、描写改変を使って大型肉食恐竜型ハンターとやらを木っ端微塵に粉砕した。
「さて、いっちょやりますか」
クソラノベを破壊する俺の旅が今……始まる!
始まりません。打ち切りです。
次回作にご期待ください。