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ありがとうが蟻が十の世界で  作者: でつるつた
2日目 後
54/60

第五十四話 きりはなし

 ▲


 「はぁ、はぁ……」

 

 あの小屋からどのくらい離れただろうか。 もう自分が進んでいる方向が前へ進んでいるのか分からない。 夜という暗闇、山の雨という足場の悪さ、寒さ、目の前の木々、空腹、疲労……。 あらゆる状況、状態が最高に最悪だった。

 ただひとつ、地獄の中の光をいうならば、つながれているソナの手の暖かさ。 これだけが俺の精神と肉体を正常に動かしてくれている源となってくれていた。 今のところ追手は近くにはいないようだが……。


 「ユウさん!! あそこに洞窟があります! あちらへ行きましょう!! 」


 後ろから手を引かれて着いてきていたソナが、急にそのようなことを提案してきた。


 「いやソナ、あそこで隠れていてもまた見つ……」


 言い終わる前にソナは立場が逆になるように俺の手を引っ張り洞窟へと向かってしまった。


 ▲


 中は一段と冷え込んでいた。 雨や邪魔な草木の代わりにごつごつとした岩が四方に広がっていた。 幅は人2人が問題なく入ることができるくらい。 先は真っ暗で出口は見えなかった。


 「とにかくこの先を進もう」


 敵から逃げること。 それだけが頭にある俺は急いでいた。 物理的にも精神的にも闇の中の、そんな俺をいとも容易くソナは、


 「……どうしてそんな顔をするんだ……? 」


 たった一つの表情で止めてしまった。 振り返った先にあるソナの表情をわずかな光は淡い笑みを照らし、俺の眼へと、心へと届けてくれた。


 「ごめんなさい。 ユウさん、この先私は一緒には行けません」


 ああ……分っている。 わかっていた。 ちゃんと、分かっていた。 この時が来るのは。 頭でも心でも。 だから。


 本当に文字通り、必死の抵抗をする。 わかりきっている答えに対する悪あがき。 我が儘もいいところだ。


「何を、言っているんだ」


 「このままだと、2人とも捕まってしまいますよ? だから……」


 「ダメだっ! 」


 「……」


 「ダメ、……だ。 ……もう、嫌なんだ。 仲間を、友人を失いたくない。 俺一人じゃ、……何も……お前が、ソナが捕まるのなら俺も、一緒に」


 「それこそダメですよ。 モノさんの、カスミ先生の、ハジメさんの、アスナの頑張りを無に帰するのですか? 私も含め、皆はハジメさんの言葉……ユウさんをとにかく遠くへという言葉を信じてここまで逃げてきたのですよ」


 ソナは子供のように引き留める俺に優しい、本当に優しい声色でそういった。


 「それに、まるで私たちが死ぬかのような口ぶりですね。 言っておきますが、私は死にませんよ? だって」


 言いながら、ソナは俺に歩み寄り、そして


 「ユウさんが、お兄ちゃんが救ってくれるんでしょ? 」


 「……!!」


 ソナはそういった。 確かに、そういった。 聞き間違いはない。 なぜなら、俺をカスミ先生にもそうしていたように、優しく抱きしめ、耳元でそういったのだから。


 「ま、待て……ソナ、今……」


 たった一言、疑問の言葉を言うことすら状況は許してくれなかった。 突然白い光がソナの背後から刺してきた。 ……そう、刺してきた。 急に視界が明るくなったので、俺は咄嗟に目を細めてしまった。 それは決して希望の光ではなかった。 地獄へと誘う、黒い光。 続く有安の声。 狭い視界の中、ソナはなぜか洞窟の側面へと駆け寄り、そして手のひらサイズの石を引き抜いた。 途端に頭上からパラパラ……と砂が降ってきた。 続いて洞窟全体が大きく揺れ始める。 

 ……正直そんなことはどうでもよかった。 俺がどうなろうとどうでもいい。 ただひとつ、答えが欲しかった。 それを言おうとしたけれど、できなかった。 俺がこの人生をかけて探し求めていた人が目の前にいるのだ。 そんな人がまた、俺の目の前から消えようとしている。 上から落ちてきた岩は計算されているかのように俺とソナとの間に壁を作っていた。 また、俺は……俺は……。

 黒い光でさへも美しく反射するソナの髪は次第に見えなくなっていく。 崩れ落ちる瓦礫の轟音の中、ソナは


 「待っています」


 その一言を残して俺の前から消えていった。


 「……っ、……ぁ……!! ぅ……っぁあ……!!!! 」


 言葉にならない叫びは、崩落の轟音にかき消され、俺は膝から崩れ落ちた。 再び闇となった俺の世界は当然のように何も反射することはなかった。


 ▲


 もう、何もかもを失ってしまった。 仲間も、友人も、みんなみんな目の前から消えてしまった。 俺はまた、何もできずにいた。 ……メメを、二度目も失ってしまった。 

 何のために、皆と一緒に戦ってきたのだろう。

 俺は自分が変われていたと勘違いを、思い違いを、思い上がりをしていた。 何も変わっていない自分の証明は、何も変わっていない今この状況が示してくれていた。

 自然と涙は流れてきた。 ……なんの涙なのか。 わからない。 なにも映さない視界はゆがんでいるのかもわからない。

 気づくと揺れは止まっていた。 ソナ、……メメは無事だろうか。 視界に入ったハジメが預けた暗緑色のリュック。 あれには何が入っているのだろう。 

 ……あれ、なんでリュックが見えるのだろう。 ここに光源となるものは何もないはずなのに……。

 ん、手のひら? 俺の掌が淡く青い光を放っていた。

 果たして、そこには小さな紙が握られていた。 ……いや、張り付いていた。 

 地下の屋台から逃げるとき、謎の男からもらったもの……。 ふと、男の言っていた、どうしようもない状況の時に使えと言われたことを思いだす。

 藁をもつかむ思いでその紙を見る。 そこにはあの時は何も書かれていなかったはずの紙面に『WLT』

と書かれた文字と『15242』と書かれた数字、そして切り取り線のようなものが書かれてあった。

 放心状態の俺は何も考えずにただ、切り取り線のようなものに沿ってその紙を切った。

 紙を切り離した

 かみをきりはなした




                  ……神をキリハナシタ。


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲-------------------------------------------------------------------------

ここで大きなターニングポイントを迎えたので、章分けや推敲をしてよい作品にしていきます。

大きく物語が変わることはないです。 更新は途絶えますがご理解の方お願いします。 ここまで読んでくれた方、本当に感謝です!! そしてこれからもよろしくお願いします<(_ _)>

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