第四十五話 エラー
流石のガブもこれには少したじろいだ様子をみせたが、
「……ッ、はっはぁー。 そうだ、それでいいんだよぉ……。 俺は本気じゃねえといけねぇんだ」
とすぐにあの調子に戻った。
「じゃあ、任せたぜ」
こちらの要求をのまないまま、2人を残してガブは去っていった。
硬直していた2人はその言葉でハッと我にかえり、俺たちに視線を向けた。
既にアスナは俺たち4人を庇うように前に立っていた。
……後ろ姿からでも感じる怒りを放ちながら。
「……まって、アスナちゃん、私が……戦うから……」
そういうカスミ先生の声は途切れとぎれで体力の限界を示していた。
先刻の殺気は凄まじいものだったが、体は言うことを聞かないようで、体を起こそうと床に手をつくが、ぐらついてしまい、すぐソナに抱えられてしまった。
「カスミ先生をこんな姿にしたのはあなた達? 」
突然、アスナが話し始めた。
「……そうだ、と言ったら? 」
ガブという男にさほど敬意を表していなかった方の男--茶髪の男がぐわンと目を見開き、不敵に笑みを浮かべる。
「殺すわ」
端的に答えたアスナの赤い目にはこの夜の闇を燃えつくさんと、爛々と光っていた。
「同感。 僕も手伝うよ」
隣にいたはずのハジメが、いつのまにかアスナのすぐ横に立っていた。
……え? 大丈夫なのか……。
ハジメは空手やら柔道やらの護身術は習っていなかったはずだ。 仮に習っていたとしても相手は戦闘のプロ。 並の力じゃ太刀打ちできない。
……正直、アスナも2対1で勝てるかどうか。
学校での一戦は相手が戦闘のプロではなかったから大丈夫だったのかもしれないし。
そんな俺の心配も知らずに、
「アンタ、戦えるの? 」
と、アスナが問うと、
「うーん、……6人ぐらいなら」
とハジメが答えた。
……いつものふざけた声のトーンではなくて。
本気のトーンで。
「ハハ、上出来」
と、アスナは再び相対した。
「フン、軽く言ってくれるねぇ……」
茶髪の男は尚、笑みを浮かべながらハジメの言葉に反応した。 夜の闇が茶髪の男の表情をより一層不気味にテらす。
「若い者の命を奪うというのは、……本当に申し訳なく思っている」
茶髪とは対照的な男--サングラスの男は、礼儀正しく、不謹慎な言葉を述べた。
「……ッチ、お前のそういう所が気に入らねぇんだよ」
「そうか」
あまり良い仲ではないようだが……。
「ユウ、ソナちゃん、カスミ先生と少し離れた場所に居て」
ハジメが俺たちに指示を出す。
「でも……やっぱりダメ……ハジメくん、アスナちゃん……」
カスミ先生は2人に戻るよう懇願していた。 姿通り死ぬ気でしていた。
俺も戻ってきて欲しいと思う。
勝てるかどうか分からない。
それに勝てたとしても、ガブは戻ってくるだろう。
俺たちを殺すために……。
その時、ガブに勝てる体力はほぼゼロ。
……でも。
分かっている。
ここで生き残る為の唯一の方法は、戦う。
戦って勝つことだと皆知っていた。
そして今ここで戦える力はアスナと……ハジメ。
……もう2人にかけるしかない。
……俺はまた大事な時に何もできない。
……自分が憎い。
「大丈夫ですから」
その時、ハジメが振り向いてそう言った。
とてもこの状況には不相応な、優しい笑顔で。
「僕たちのこと、信じてください」
その言葉を聞いた時、はっとした。
……まただ。
また俺に信じる勇気が足りていなかった。
このメンバーにその勇気の大量消費は不要だ。
それに、俺はあることに気がついた。
普段ならこの場の誰もが気付くであろうことなのに、この場がこの場であるが為に、日頃から一緒にいた俺にしか気づくことが出来なかった。
ハジメの変化に。
あの一言の後、ハジメはアスナ同様相対したのだが……。
あの優しい笑顔に何か違和感を感じたのだ。
優しい表情の中に怒りの色を物理的に……。
……そう、目だ。
いつもは優しい浅緑色をしていた目が。
何故かアスナ同様、赤色に染まっていたのだ。
まるで、エラーを表示するかのように。




