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チガウ イキモノ

作者: パルプ紙
掲載日:2019/04/25


 私は仕事をほっぽり出した。


 文字通り、そう、華麗にオフィスを去ったのだ。


 人差指と親指をくっつけたその隙間ほどの罪悪感はあったが、


 それ以外はなにも考えることなく、ほっぽり出した。

 

 

 

  

 その日、簡素で味気のないオフィスには、パソコンと電話機がずらりと並べられたデスク


 に、皆がいつものようにガチャガチャとキーボードを叩き、電話機の甲高い電子音が鳴り響いていた。



 業務の最中、黙々と電話を続けていた上司の遠藤は、自分の業務の手を止めパソコンから顔を上げた。


 小麦色の肌で、齢四十にしてシンと締まったスーツの着こなし。


 もう厚く膜が張ってしまった、左耳の二つのピアス穴。


 若い頃からサーフィンが大の趣味だという。うんうん、分らんこともないぞ遠藤。


 初めて彼を見た時には、四十の頃には私もこんな男性になりたいと思ったものだ。


 二十を過ぎた人のピアス穴の跡は、なにかそそられるものがある。



 ともあれ、周りを見渡していたからには、誰かを呼び出し喝でも入れるのだろう。


 嗚呼、南無三南無三。


 私はというとその時、


 オフィスチェアと受話器に接着剤がベタリと付き、誰一人席を立たず受話器を離そうとしない状況を、


 嘲笑気味に隅のデスクから、人間とは倦怠さをここまで露出できてしまうのか、と言わんばかりの姿勢で 

 オフィス全体を眺めていたところだった。


 遠藤の標的は私だったわけだが、それは無理もなかろう。


 強面な顔つきとは裏腹に、いつものように柔らかい物腰で私にこう尋ねた。



 『お前どうした。ここのところ電話の本数だだ下がりだぞ。なにかあったのか。』

 

 『遠藤さん、実はテレアポばかりの毎日で、気が滅入りそうなんです。


  別の部署に行かせていただけませんか?』


 『何言ってんだ、俺も含め、ここにいる全員が、この仕事、いや業務を面白いと思ってやってる奴なんか


  いやしねえよ。』


 

 この言葉に私は戦慄した。戦慄という言葉以外に、遠藤のこの言葉から来た衝撃を描写する言葉が、


 今の今となっても見つからない。


 

 楽しくない、好きでもない仕事をして、稼いだ金で飯を食う。


 あぁそうか、私とこのオフィスにいる人たちは、「チガウ イキモノ」なんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 身軽な人ですな。 これから楽しくやれそうですか?
2019/04/25 20:39 退会済み
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