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黒炎と緋眼の隠者  作者: 支倉薫
邂逅
2/2

始まりの刻

僕、御堂慧は今日も学校へ通う。そして周囲の人間から冷ややかな目で見られる。

普通の人間であれば、耐えられない状況であろうが、何年も続けていると慣れてくるものだ。

むしろ、辛さを楽しむ余裕みたいなものも生まれてくるので、他の人間よりも成長しているとすら思えてくる。

何故、僕がそのような状況にさらされているからというと、幼い頃から「僕はベルンハルト=ブルツェンスカの末裔だ!」と叫び続けてきたからである。


小学生の頃に美術館に連れられて行った事があった。

その時に出会った一枚の絵が僕の人生を変えた。

万国共通のお伽噺の英雄の一人、大魔導士ベルンハルト=ブルツェンスカの絵だった。

その瞳は緋色に輝いており、彼の体を纏うは黒い炎であった。

その姿を見たときに脳裏に強烈な感情と確信を覚えた。


「これは自分である…」と。


それからというもの、自分はベルンハルト=ブルツェンスカであるという思想に取りつかれた僕は、それを隠すこと無く、吹聴していた。

最初は話し半分で聞いていた友人達も、僕の本気を悟ったのか、奇異の目で僕を見、距離を置いてくるようになった。

確信はあっても、実証出来ないことには致し方無いことだと思った。


今日も下を向きながら登校していると。


「おはよう、慧ちゃん!」


そんな僕の話を一人だけまともに聞いてくれる例外の人間がいた。

城後凛である。

腐れ縁の幼馴染みで、とにかく、四六時中僕の回りにいる。恐らく、ベルンハルトのペットの末裔なんだと思うことにしている。


「昨日はどんな夢見たのか教えて~!」


「昨日はダイドロ国のジール将軍と一戦を交えていた。だが、彼は所詮はDランクの将軍。ベルンハルトの敵に値せず。甲冑の一部を燃やしてやったら、敢えなく退いた。」


「相変わらず、慧ちゃんすごいねえ!慧ちゃんのランクは何ランク?」


「僕はランクで形容されない存在なんだよ。他にも何人かいるようだが…」


「きゃーすごーい!そんな凄い人と登校してるなんて、凛って幸せ者!」


武骨な性格の俺にそぐわないテンションで喋りかけてくる凛は、歩く度に効果音が鳴っていると錯覚するかの如く、明るく跳ねている。


ベルンハルトとしての自分に目覚めてから、夜毎、彼の戦歴を彼の視点で夢に見るようになった。

だから、何時しか歴史に刻まれないような日常の風景も知ることになり、当時の文化や言語も理解するようになっていた。


僕の記憶によれば、ベルンハルトはある時に姿を消すまで、無敗である。

最初に戦場の夢を見たときは、畏れおののいたものだが、彼は負けることが無い為、いつの間にか冷静に戦場を見ることが出来るようになっていた。

その経験を凛にだけは話していたが、夢を毎晩見るため、それを毎朝話すようになっていたという次第である。


凛が話に夢中になっていると、誰かにぶつかってしまった。同じ高校生だが、不良が多いことで有名な大泥高校の生徒らしい。


「あ、あの…すみません…」


いつもは明るい凛も事態を理解をしてはいるらしい、間違いなく絡んでは行けないタイプの人間達である。



「すみませんじゃねーだろ?いきなりぶつかってきて何のつもりだ?」


息を吐くようにテンプレートに近い文章が出てくる点は感心した。

ただ一人の理解者が危険にさらされている中、僕が取る行動は只一つだった。


「おい、謝っているだろ。因縁つけるのは止めてもらえないか。」


これまた息を吐くように、言葉が口から紡がれる。ただ、その言葉の回答は言葉ではなく、拳だった。


「がっ…!」


正拳をもろにくらってしまった。人を殴る事に躊躇は無いらしい。

不良は黙って俺を攻撃してくる、無言の暴力は恐怖感が増すのかと理解した。

そして僕が動かなくなるまで、殴ると凛の方向を向いた。

横顔から見える下卑た笑みは僕を怒らせるのに十分だった。


「爆…ぜろ…」


懸命に立ち上がり、渾身の力で僕は夢の中のベルンハルトが使っていた、破炎塵を唱えた。


しかし、黒炎は出なかった。


不良は異常な勢いで笑い始めた。こいつ頭おかしいんじゃねーかと叫んでいた。


「慧ちゃんはベルンハルト=ブルツェンスカの末裔だもん!」


と凛から涙ながらの合いの手が入ると笑いは更に加速した。

それが止む頃、真顔になって再び僕を一瞥すると、


「分かったから、大人しく眠ってろよ!」


僕に再び正拳が打ち付けられると、遂に僕は無力になり、その場に倒れた。


視界が黒くぼやけて行く様は、まるで黒炎が僕を埋め尽くしていくようだった。

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