仕上げていく
翌日。朝食も含めて朝の諸々を終えて鍛冶場。護身用の短刀――俺は便宜上そう呼ぶことにした――にはまだまだやる作業が残っている。
まずはじめに、刃の厚みを調整し、鎚目を消すために、自分のナイフでゴリゴリと刀身を削っていく。
鋼で鋼を削ると言うと、なんだか不思議な感覚になるが、これで少しずつ刀身が綺麗になっていく。
もちろん、仕上がりにはほど遠い。この後、焼き入れをし、磨き上げるまでは完成とは言えない。
思った通りの刀身に近づいてきたら、今度は茎側の作業に移る。刀身から茎に移る部分の凹んでいるようなところ、刃側が刃区で峰側が棟区を作り、茎の先、茎尻を整え、柄と刀を固定する目釘穴を開ける。
ここまできて、ようやっと一旦の格好が整った。
ようやっととは言うものの、材料となる鋼を準備するところを抜きにしても、本来はとんでもなく時間がかかるのだが、チートのおかげでこんな短時間で作れている。
「よし、これで良いかな」
もう一仕事、という状態の刀身を矯めつ眇めつしていると、ちょうど手が空いたらしいリケが言った。
「それ、見せていただいても?」
「もちろん」
俺はリケに差し出す。彼女は恭しく受け取ると、俺と同じように矯めつ眇めつしはじめた。
「うーん、やっぱりこの時点でもう綺麗ですね」
「そうか?」
個人的には仕上げにはまだまだなのだが。
「確か刃文でしたか。あれをつけずとも、このまま焼き入れてから刃をつけたら、十分実用になるのでは?」
「ああ、それはそうかも」
リケの言葉に頷きながら、前の世界で鎬地にあたる場所に鎚目を残した包丁やナイフがあることを俺は思い出した。
あれの場合は残す場合と、あえてつける場合とあるんだったかな。ああいう感じにするのも悪くはなかったかもしれない。
「皆ので、そうして欲しいぶんはそうしようかなぁ」
包丁ならさておき、ナイフのような形状だと些か山仕事的なテイストが勝ってしまうきらいはあるだろうが、そもそもここは森の中だ。
むしろ風土にはマッチしているのではなかろうか。そう考えれば、少しワイルドなものもありかなと思うのだ。
「皆そっちが良いって言うんじゃないですかね」
リケが笑いながら言った。まあ、確かにそんな気はしなくもない。
サーミャとリケ、ヘレンはともかく、ディアナ、リディ、アンネはどうかなと思ったが、彼女たちの〝今の〟嗜好から言えば普通に鎚目のほうがいい、と言い出してもおかしくないからな。
「分かった。帰ったら鎚目のあるのとないのとで、両方作ってみて聞いてみることにしよう」
「分かりました!」
リケは大きな笑みを浮かべると、俺にまだ作業途中の短刀を返し、自分の作業に戻っていく。
「さてさて、こっからが大変だぞ」
刀身はこれから仕上げにかかっていくが、そこからは拵、つまり、柄や鞘、ハバキなども作っていかなくてはならない。
鍛冶のチートも多少有効ではあるのだが、どちらかと言えば生産のほうで、鍛冶と比べれば腕前は幾分劣ってしまう。
リケに言わせれば「なんでもかんでもできるほうがおかしい」のだそうだが。
まあ、なんだかんだそこいらの職人よりちょっと上くらい、つまりはギリギリそれで食っていけなくもないかなーくらいの腕前にはなってくれる……いや、なってくれて「しまう」ので、申し訳なさを抱えつつも、俺はまず刀身を仕上げるべく、作業に戻った。




