身の守り
ヘレンが構えると、まだまだ武器とは呼べないようなそれも、物騒な武器のように見える。
まあ実際それなりの重さがある鋼の棒なので、ヘレンの速度と腕力をもって頭にでも叩きつけられたら、兜を被っていても普通に致命傷を負うだろうが。
温度が数度下がったように感じるのは、もちろん気のせいであるはずだ。
しかし、下がったことを裏付けるかのようにシンと静寂があたりを包む。さっきまで聞こえていた風が渡る音や葉擦れ、虫の声も聞こえないように感じる。
「フッ」
軽く息を吐いたヘレンは、庭の片隅にある丸太――剣にせよ、弓矢にせよ、とにかく的にされており既にボロボロになっている――に一瞬で近づくと、斬りつけるかのように手にある鋼を叩きつける。
ゴツッと鈍い音がして、丸太の一部が弾ける。叩きつけた跡を見ると、何かが齧りとったように凹んでいる。
あれにはまだ刃がついていないので、切れることこそ無かったが、ちゃんと刃がついていたら、一刀両断していたかも知れない。
丸太の状態を見て、ピュウとサーミャがヘレンに教えて貰ったらしい口笛を吹く(リケにやんわり窘められていた)と、先ほどまで聞こえなかったはずの風や木、虫たちの音が聞こえてきた。
ヘレンはサーミャ達のほうをチラリと見やってから手にした鋼をしげしげと眺めて言った。
「良いんじゃないか。バランスも悪くないし」
そして一旦鋼を腰だめにしてから、空気を切り裂くような勢いで斬り上げる。
「抜き打ちもしやすい。目的がエイゾウの護身なら、このままで良いと思う」
「分かった。このまま仕上げていくことにするよ。ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って仰々しく礼をするヘレン。場が笑い声に包まれる。
「ところで、エイゾウ」
「ん?」
「アタイはともかく、『コレ』は皆の分あってもいいと思う」
言ってヘレンが手にしたものを俺に差し出す。まだ武器ではないが、ちゃんと持ち手側が俺のほうを向いていた。
「そうなのか?」
俺が受け取りながら返すと、ヘレンは頷いた。
「ああ。それくらいの長さなら、リケでも扱えるようになるはず。リケもナイフで賊くらい追い返せるくらいにはなってるし、槍とかクロスボウもあるけど、いざという時を考えたら、少し長いのも扱えるようになっていたほうが安心だ。他の皆も、剣とか弓矢があっても、最後の最後はナイフだとしても、その前に扱うものがあった方が良い」
ヘレンは真剣な眼差しをしている。実際、俺がこれを作ったのも、ナイフだと護身用にしてはリーチが心許ないと思ったからだし、少しでも長さがあれば対処できる相手が増えるはず、というのは道理にかなっているように思う。
「よし。それじゃあ、帰ってきたら皆の分を作るか。俺が帝国に行っている間は、似たようなのをリケが作ってそれで練習するっていうのでどうだ? それでいいなら……」
「わかりました、親方!」
やや興奮気味にリケが大きく手を挙げて返事してくれた。
「リケには頼めるか、って言おうとしたんだがな」
俺が笑いながら言うと、リケはそれ以上の笑顔で、
「親方の頼みを断る弟子はいませんし!」
そう言った。




