火造
火床の炎が再び息を吹き返し、炭を足していくとそれを呑み込んで、どんどん温度を上げていく。
ある程度のところで細長くなってきた鋼を入れて熱し、十分な温度になったら取り出して金床に置き、鎚で叩く。
最終的には刃渡りにして20センチほどにしていく。
もっと長いものであれば、一部分だけを熱してそこだけを延ばし、次は別の場所をといった具合の作業だが、この長さなら全体を加熱して加工できる。
それもあって、時間が経たないうちに思った長さにまでできた。昼を大きく過ぎているが、もう一仕事くらいなら余裕でこなせるくらいの時間はまだある。
火造を完全に終えるところまでは厳しいだろうが、切先と鎬地(刀身横の平たい部分)を整えるくらいはできるはずだ。
まず細長い板状になっている鋼の先だけを熱し、斜めに切り落とす。
切り落としたら再び熱して、切り落とされていない側を叩いて形を作っていくと、刀の切先が出来上がってきた。
過去に作ったものの切先はやや寸詰まりになったもの、つまり、猪首切先にしていた。
今回は悩んだが、やはり同じように猪首切先にすることにした。
ただ、前は見た目の好みも結構優先していたが、今回は少しでも頑丈だといいなという願望込みである。
切先はできたが、今はまだ先端が斜めの細い板のままだ。
俺は全体を再び火床で熱し、刃がつく側のほうを叩いていく。チートの手助けのおかげで、思った形にするにはどこを叩くのが最短なのか、俺には分かる。
的確に叩いていくと、少しずつ少しずつ、短刀が姿を表してくる。
やがて、刃のない短刀……のようなものができた。
まだまだ刃の厚みを調整したり、鎚目を消したり、刃区棟区、そして茎を作ったりと作業は数々残っているが、見た感じではなんとなく振るえそうだ。
ふと窓の外を見やれば、太陽が今日最後の仕事をしているところで、つまり今日はそろそろ店じまいと言うことでもある。
ちょうど良い。片付けをしたらちょっと試してみるか。
見回せば、他の皆も一段落といった感じだったので、俺は皆に声をかけた。
「よし、今日は終いにしよう」
全員から了解の声が返ってきて、テキパキと今日の片付けが始まった。
「うーん、この瞬間は涼しいな」
まだまだ暑さが残る夕暮れではあるが、鍛冶場の暑さはこの比ではないこともあって、片付けて外に出ると涼しいと感じてしまう。
俺は大きく伸びをしてから、鍛冶場のすぐ外のベンチに置いていたカップの水を飲み干す。
この時期はいくら飲んでも飲み過ぎることはないな……。
いつもであれば、この後は温泉へ行き、一日の汗を流した後で夕食の準備なのだが、今日は片手に鋼の板を持っている。
この後の工程もまだまだあるので、今確認してもまた調整が必要かも知れない。
それでも、今のうちに思った範囲のものになっているか確認することは無駄ではあるまい。
柄も何もないそれを、軽く振ってみる。ヒュン、と軽い音がし、止めようと思ったところでピタリと止まった。
「ふむ」
俺はそのまま、色々な剣筋で振るってみる。唐竹割りにしようと見せて横に払う、とか、横薙ぎの途中で斬り下ろすとかだ。
いずれも特に違和感なく、思った通りのところを通り、止めたいところで止まる。
取りあえずは大丈夫かな。そう思っていると、声をかけられた。
「それ、アタイもやっていいか?」
ディアナたちの剣の稽古をしていたヘレンだ。そのディアナたちはと見ると、ディアナとアンネが木剣で切り結んでいた。
なるほど、少し手空きなのだな。というか、これを触ってみたいがために手を空けたというほうが正解か。
「もちろん。むしろありがたい。おかしいところがあったら教えてくれ」
俺は頷き、ヘレンにまだ短刀になっていないそれを手渡す。
ヘレンはそれをスッと構え、その場の温度が数度下がったような、そんな感覚を俺は覚えた。




