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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章

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素延べ

 火床がゴウゴウと炎を巻き上げる。生きもののようだ、とは以前から思っていたが、炎の精霊であるマリベルがうちに来てからというもの、その実感はより増した気がする。


 そのマリベルはと言うと、庭でお姉ちゃんたちと遊んでいるらしく、作業をしている合間にはしゃぎ声を差し込んでいる。


 彼女に手伝ってもらえば、うちの生産効率はもっともっと上げられるのかも知れないが、なんとなく切り札としておいたほうが良いように感じて、普段の作業の手伝いはしてもらってない。

 本人が強く手伝いたい、と言いだすか、ここぞというときには頑張って貰おう。


 塊になった鋼が赤くなり、鎚で叩いていい温度になったことをチートが知らせてくれる。

 午前中のように金床に鋼を置き、魔力を籠めて勢いよく鎚を振り下ろすと、ガキンと金属がぶつかり合う派手な音が鍛冶場に響き、鋼は火花を散らして形を変える。


 俺は同じ面を叩いていく。どこを叩くのが効率的なのかは、これもまだチートに頼っての作業だ。

 鋼の表面に浮いてきた黒いかさぶたみたいなもの――鋼が酸化したもの――が叩くたびポロポロと剥がれ落ちる。

 剥がれ落ちているのはあまり質の良くない鋼だと、前の世界で見た記憶があるが、どれくらい本当なんだろうな。


 チートもあれを気にして叩く場所を教えてくれている様子はない……ような感じを受けるから、あまり質が良くない、というのは正しそうだが。


 熱しては叩き、を繰り返していく。一つの塊だった鋼は、少しずつ細長い板状へと形を変えていく。

 ちゃんとした刀であれば、この工程の前に皮鉄と心鉄を作り、皮鉄で心鉄を包むという段階を踏む必要があるが、俺の鍛えた鋼の場合、そういったことをしなくても十分に「折れず曲がらず」を達成できるので、今回は省いてしまう。


 他に誰が使うでもない、俺自身のものだし、行って帰っての間だけだと思えば、あまり凝らなくても取りあえずは良かろう。


「あー……」


 鎚で叩いて何度目か、火床に入れようとしたところで、俺ははたと気がついた。

 ちょうど一息入れて水を飲んでいるアンネを呼ぶ。


「アンネ」

「なあに?」


 アンネは素早く俺のところまでやってきた。巨人族の血が流れていることもあって、身体が大きな彼女は初めのうち、結構おっかなびっくりなところもあったが、この場所については慣れたようだ。


 さておき、俺はやってきたアンネに尋ねた。


「帝国へ行くにあたって、俺からも何か土産を用意したほうが良いと思うか?」


 物見遊山で行くわけではないし、そもそも帝国から招かれて赴くのだ。それに土産が必要とは思えない。

 それに、必要であれば王国として、ルイ王弟殿下なり侯爵なりが用意すると思う。

 だが、前の世界での思考もあり、お呼ばれしたなら手土産の一つもあったほうが良いのでは。そんなふうにも考えてしまうのだ。


「どうかしらね……。必要であれば王国として用意するとは思うけど……」


 アンネは首を傾げる。いらないのでは、と考える根拠は俺と似てるようだ。


「カミロやマリウスあたりに手紙を飛ばして聞いたとて、だよな」

「遠慮するでしょうね」


 俺は頷いた。彼らに正直に聞いたところで「お前がそんな気を使うな」と言われてしまうような気しかしない。

 アンネはそのまま続ける。


「王国の上のほうから、としたほうが効果は大きいし」

「そうなんだよなぁ……」


 わざわざ招請したとは言え、基本的に身元不明な鍛冶屋からの献上品よりも、王国の王弟殿下がわざわざ心を砕いて準備した物、のほうが世間的には価値が高い。

 ただし、である。


「どんなものでも、持っていけば父上は大層お喜びになるでしょうね」


 言ってアンネは笑う。


「まぁ、正直そこは確信があるよ」


 俺もニヤリと笑って答えた。


「だから、どっちでも良いんじゃない? エイゾウが気にしてるのは、カミロさんやマリウスさん達の立場が悪くならないか、そして逆に気を使わせないか、でしょ?」

「うん。そのへんが大きいな」


 正直なところ俺の立場が相当ヤバいことになるのでなければ、王国の体面上の話は割とどうでも良い、と思っている。

 それよりも、それでカミロやマリウス、あと一応ルイ王弟殿下の立場が悪くなってしまうほうが心配だ。

 あとはカミロたちに逆に気を使わせるのもなぁ、というのがある。


「まあ、作っていって、それを先に言っちゃうのが良いでしょうね。問題がないならそのままでしょうし、ダメなら王国からの品に混ぜるなり、あなたに返すなりするでしょ」

「なるほど」


 作っていって、あとは判断を任せる、というのが良さそうだ。少し気を使わせる事になるかも知れないが、そこはご愛敬で許して貰おう。


「ありがとうアンネ。参考になったよ」

「そう? なら良かった」


 アンネは爽やかな笑顔を残して、自分の仕事に戻っていく。

 さ、俺も続きを頑張らないとな。



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― 新着の感想 ―
アンネに両手剣作りましたって言えれば良いけど、未だ、斧になったままというのは………。 あまりにも間空きすぎ
国の評価よりも親しい友人達の評価の方が大事ですからね。
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