形を決める
昼飯の時間。
「今日の調子はどうだ?」
俺はまずリケとサーミャに聞いてみた。リケとサーミャのペースが良いのは分かっているのだが、本人たちの自覚的にはどうなのだろうかと気になったのだ。
「まぁまぁかな」
サーミャは事もなげにそう言った。朝のうちに1~2本仕上げる(持ち手などはまだにしても)のは十分に早いのだが、彼女はそれでも満足ではないらしい。
リケを見ると、同じ思いだったようで、深く頷いている。
「板金のほうは?」
「こっちもそこそこね。質を求めるとどうしても数が……」
ディアナは申し訳なさそうに言った。しかし、俺は首を横に振る。
「そっちの方がありがたいし、そもそも今まで足りなくなったこともないんだから、十分だよ。ありがとう」
「そう? それなら良いけど」
ディアナの顔がパッとほころぶ。さっきのは俺の本心なので、喜んでくれると正直なところ嬉しさがあるな。
「ええ。おかげで私たちも早く作業できるし。助かってる」
リケも微笑んでディアナ……とリディ、ヘレン、アンネに言った。皆一様に微笑んでいる。
実際のところ、板金の品質は上がっているし、足りなくなりそうなことも最近はないのだ。
ここに来た頃は、人数が少ないこともあって、板金が切れそうになってそっちを優先したりだったが、ここ最近はそれが全くない。
と言うか、製作速度がちょうど良いのか、一時的に板金が増えることはあっても、増えすぎて場所がないということもない。
まぁ、そうなったら倉庫に放り込んでいくだけなのだが。
ともあれ、助かっているのは事実なので、それを再度伝えて、昼飯を終えた。
「さあて、いよいよだが……」
鋼の塊を前に、俺は腕を組む。いよいよ形を作っていくのだが、それを剣にするか、刀にするか(こちらで言えば、王国風か北方風かということになるだろうか)で悩んでいるのだ。
北方出身の、ということはもう見た目で分かってしまう。今まで出会ったどの人も――その北方から来たカレンでさえも――俺が北方の出であるという話を微塵も疑わなかった。
なので、刀を作っても問題ない。問題ないが、いかにも北方人ですと言わんばかりの出で立ちで帝国へ行くのはいいのだろうか。
皇帝陛下かはたまた他の人間がどう説明しているかは分からないが、もし、「王国から呼んできた」という触れ込みで、完全に見た目が北方人で、いざ取り出した武器が刀だと、出奔したのが丸わかりすぎて北方のメンツが潰れやしないか、というところが心配なのだ。
以前にあまり良くない扱いを受けたことがあるとは言っても、わざわざ困らせてやろうと思うほどには怒ってもないし。
「いや、待てよ」
もし、剣を作っていったとしてだ。北方から直接呼んだ、ということなのに剣では「なぜ?」となってしまうし、王国から呼んだということなら刀でも剣でも変わらない。
ならば、刀を作っていったほうが良さそうだな。よくよく考えてみれば、出奔した北方人でも手持ちは国のものである、となれば、まだ北方の心は持っていると言い張れなくもないし。
「ようし、それじゃあ作っていこう」
俺は軽く自分の頬を張ってから、火床の火に活力を入れるのだった。
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