帝国皇女、里帰り……
目を丸くするアンネに俺は言った。
「アンネはこっちに留まれ、と言われてはいるが、どうする? 俺は別にお前も一緒に帝国へ行くことを条件にしても良いと思ってるが」
言った後、僅かに眉根を寄せた彼女を見て、俺は慌てて付け足した。
「もちろん、仕事が終わってからこっちに一緒に戻ってくるのもありだ」
一度断られた形ではあるが、アンネが望むのであれば、一度帝国に行くことをゴネて通すくらいのことはしてもバチは当たるまい。
何なら、追加報酬と引き換えでも良いくらいだ。
アンネは小さくため息をついてから言った。
「確かに一度、あっちに帰ってみるのもありかなとは思うけどね」
彼女は肩を竦める。
「でも、今回は止めておくわ。父上は私が帰ってくるかも、と思ったからこそ、ここにいろって仰ったんでしょうし、そこに考え無しとも思えないから」
そう言って、アンネは宙を見つめた。今、その目にはきっと帝国の空が映っているのだろう。
「分かった。それじゃあ、俺が居ない間の話も今のうちにしておくか。本来なら休みだが……」
本来であれば、納品の日の午後はそれぞれ好きなことを過ごす時間にあてている。
いわば午後休なわけで、ある種の休日出勤のような形になってしまうのが心苦しい。
しかし、皆から返ってきたのは笑顔だ。
「そんなこと気にしなくて良いのに」
「変なとこで律儀だよな」
ディアナとサーミャがはやし立てるように言った。
他の皆もうんうんと頷いている。うーん、俺が前の世界で度々休みのない生活を送っていたから、休みにはちゃんと休んでほしいというだけなのだが。
まぁ、毎回こうならダメだろうが、たまにであれば、お言葉に甘えさせて貰おう。
「ありがとう。それじゃあ、決めておこう」
今度は皆、一度大きく頷いた。
最初に口火を切ったのはサーミャだ。
「納品はないよな?」
「ない。で良い。俺がいないからな。高級品もリケが作れるとは思うが……」
そう言ってリケを見るとブンブンと首を横に振る。
「作れますけど、親方のものには及ばないので、親方のものもないことにはマズいと思います」
リケはそういうが、俺の目から見てもだいぶ遜色無くなってきていると思うんだがなぁ。
ま、本人がそう言うなら何としても出せというのもおかしな話だし、やはり納品は無しで良いな。
「後はここまで連中が来たときだが……」
「前に確認した経路で逃げる」
「カミロさんにはハヤテでお知らせした方が良さそうですね」
ディアナとリディが頷きながら言った。
アンネとヘレンが続く。
「ハヤテには戻ってこないように言わないといけないわね」
「分かるかな……。いや、賢いから分かるか」
俺は腕を組んで言う。
「結局のところ、いつも通り過ごす。何かあったらすぐ逃げて、カミロに知らせる、か。分かりやすくて良いな」
俺は皆を見回した。
「こうなるとサーミャとヘレンにはここに居てほしいし、ディアナやリケを連れていくのは難しいし、リディは道中を考えると厳しい。となると、俺一人が最善ではあるか」
「だなぁ」
さっきの俺のように、ヘレンが腕を組んだ。
「全員でゾロゾロ行ければ良いけど、やたら目立つのもな。誰かが残るなら、アタイとサーミャがいた方がいいのは道理だ」
「そうなると、確かにエイゾウ以外は残ることになるわね」
ディアナがそう引き取る。
家族全員がそれぞれ顔を見合わせて、頷いた。
「よし、それじゃあ、明日の昼前くらいに受けることをカミロに連絡しよう」
「今すぐじゃないの?」
そう言って、アンネが小首を傾げた。
「なに、ちょっと悩んでた風に見せておきたいだけさ」
俺が言ってニヤリと笑うと、ディアナが、
「悪い顔してるわねえ」
そう指摘し、笑い声で家族の話し合いは終わった。




