待望
次の納品の日。いつもの通りに街に到着し、俺たちはカミロの店についた。
手続きもいつもの通りに済ませ、あとは近況報告くらい、となったとき。
「おお、そうだ、コイツが入荷したんだった」
カミロが俺に小さな布袋を差しだした。
俺が開いた掌を上に腕を出すと、彼はその上に袋を乗せる。
重さはあまりないし、ゴツゴツとした感触もない。何かの金属ではないようだ。
まぁ、軽くて極端に柔らかい、例えば軽い水銀やガリウムのようなものである可能性はあるが。
最初は布袋の中身をテーブルの上に出そうと思ったのだが、その時の感覚的に、粘度の高い液体というよりは、明らかに固い粒状のものだったので、手の上に出すことにした。
布袋からざらっと音を立てて出てきたのは、茶色い粒だ。大きさはちょうど米粒くらい……というか、
「これはコメか?」
僅かばかり震える手を気力でおさえながら、俺はカミロに聞いた。
「ああ。北方から入ってきたものだ。『大豊作の残り』だからと、かなり安く譲ってくれた」
カミロの話がどれくらい本当なのかは分からないが、譲ってくれただけでもありがたい。
「じゃあ?」
「安定して送ってくれることになった。値はこれだけだ」
カミロは俺に指を出す。その示す価格は、小麦よりも僅かばかり高い、という程度だった。
「それでいいのか? ここまで持ってくるのにも金がかかってるだろう?」
北方から王国まではなかなかの距離がある……らしい。
つまり、それだけ輸送コストもかかっているはずで、その詳しい相場を俺は知らないが、少なく見積もってもちょっとお高い小麦、なんてレベルではないはずなのだが。
「そう言われてもな。実際にそれで儲けが出るんだから、仕方ない」
やれやれと首を横に振るカミロ。俺は大きくため息をついてから言う。
「まあ、そう言うなら、そうなんだろうけど」
「で、どうする?」
「いらない、なんて言うと思うか?」
「いや、思ってはないけどな。もし言われたら、売り先を考えなきゃいけないところだったよ」
「都のカレンさんに売れば良いだろ?」
「彼女は一介の鍛冶師だぞ」
「それを言うなら、俺も一緒だよ」
言うと、呆れたような顔でカミロは俺を見た。
「まあいい。それじゃあ積んでおくぞ」
「ああ、頼む」
俺は努めて冷静に言ったが、喜んでいることはサーミャにはバレているだろう。彼女がニヤニヤしているし。
これで念願の米の飯を食えるわけで、それで興奮しない元日本人はそう多くあるまい。最初は玄米そのままでも良いが、精米して白いのも食べたいところだし、シンプルに猪の焼肉風に米を合わせられるのもありがたい。
炊飯も鍋で余裕だが、ここは鍛冶のチートをフル活用して羽釜を作ってみようかな、などなど、今後に希望が広がっていく。
表情から察するに、サーミャ以外の家族には俺の喜びがいまいち伝わっていないようだが、致し方あるまい。合う合わないは出てくるだろうが、米の飯を布教するしか無いな。
そう密やかに誓った俺の心を知ってか知らずか、カミロは更に続けた。
「それじゃあ、都の様子を話しておこう」
俺は浮かれた気分を頭から追いやって、カミロの話に身を乗り出した。
日森よしの先生によるコミカライズ版の29話②が公開されています。
いよいよ洞窟への突入が始まります。Web版、小説版とも少し違う箇所がありますので、是非。
https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430003600021_E?episodeType=first




